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襲名記念「四代 小川長樂展」日本橋三越本店で開催

  • 2026.10.19

「長樂窯」開窯120年。樂焼に吹く新たな風

小川長樂
襲名記念展に出品される「赤貫入茶盌」。釉薬をあえて掛け残し、土味を見せる。土は先々代が後のために確保しておいたもの。12.2×12.2×8.7cm (w×d×h・以下同)  

「わび茶」の精神性と美意識を反映した、樂焼の伝統を受け継ぐ「長樂窯」

現在の茶の湯の根本をなす「わび茶」は、16世紀末、千利休の手によって確立された。無駄な装飾をそぎ落とし、「一期一会」に象徴される精神性を重んじた「わび茶」の美意識を反映した焼物が、「樂焼」である。「長樂窯」は、この樂焼の伝統を受け継ぎ、1906(明治39)年に京都五条坂で開窯された。

轆轤(ろくろ)を用いず、掌で包み込むようにしてひとつずつ作りあげる、「手づくね」という手法で成形された碗を、小さな窯でやはり一碗ずつ焼く。大量生産とはほど遠い、こうした独特の作り方を頑なに守り続ける「長樂窯」の現当主は、四代小川長樂氏。2024(令和6)年に、父である三代長樂の後を継ぎ、四代を襲名した。

 

「襲名記念 四代 小川長楽展」が、日本橋三越本店で開催

開窯120年という節目を迎える今年、日本橋三越本店にて東京での襲名記念展が開催されようとしている。襲名後2年を経た今、襲名とは、そして自作の樂焼とはを、四代長樂氏に尋ねた。

「幼いころから、祖父と父の背中を間近に見て育ってきた私にとって、二人はある意味では憧れの存在でした。『長樂』の名前をいただき、そうした二人に近づく出発点に、やっと立つことができた、という気がします」

 

「曽祖父、祖父、そして父が守り続けてきた『長樂』の作風を大切にする一方で、代々がそうだったように、その時代と向き合い、その時代が求める樂焼にチャレンジしていく、ひとりの作家としての自分の個性を発露していかなければならないと思います」

 

小川長樂
©Mitsuyuki Nakajima

長樂氏は30代後半から40代半ばにかけて、これまでの樂焼のイメージを一新するような、大ぶりな赤樂・黒樂、あるいは琳派や伊藤若冲をテーマにしたコラボレーション作品を「今焼」として発表するなど、樂焼の伝統に軸を置きながらも、斬新な作品を手がけてきた。

 

また、日本のみならず、ケルンやニューヨークで個展を開き、若手陶芸家 として着実に歩み続けてきた。

 

そうした氏をして、「やっと立つことができた」と言わしめる「長樂」の名。120年という歴史が築いた名前は、やはりそれだけ重い。

器を高温の備長炭の炎に直接さらす、独自の「焼貫」の技法を確立

作品は茶盌を中心に、花入と壺。茶盌は、黒樂茶盌、幕釉赤茶盌、焼貫茶盌、藍釉黒茶などと、焼成法や用いる釉薬の違いによって、さまざまな表情を湛える。

 

黒樂は、窯のなかにさらにサヤと呼ばれる耐火容器の内窯を置き、その中に器を入れ、炎が直接当たらないように焼成する。こうした手法によって、樂焼独得の滑らかでしっとりとした表情が生まれる。

 

一方で、サヤを使わずにより高温で焼き上げる、いわば焼締にも近い、「焼貫」という技法が伝えられてきた。長樂氏は、内窯を用いず、高温の備長炭の炎に器を直接さらす焼貫をより高温で焼成し、備長炭の自然釉を纏わせた独自技法を編み出した。この技法で誕生したのが「焼貫茶盌」だ。

小川長樂
焼貫茶盌 12×11×8.4cm

樂焼の特徴のひとつである、箆(へら)で削られた跡は、他の作品よりやや際立ち、モダンな造形美すら感じさせる。備長炭の炎にさらされ、高温の灰を被った器は、従来の樂焼とは異なる、抽象画を思わせる複雑で荒々しい色調と表情を見せる。刻まれた3本の直線は、伝統を超克していこうとする長樂氏の確固たる意志の表れだろうか。

 

その一方で、長年にわたって雨に打たれた岩石が持つような、懐の深いおおらかさも垣間見え、そのおおらかさが、手づくねで成形された姿形ならではの、茶室で際立つ美しいたたずまいとなり、一服の茶がさぞ美味しいだろとの期待感をもたらす。

 

これまでの「長樂窯」には見られなかった茶盌の誕生。長樂氏が目指す、「その時代と向き合い、その時代が求める樂焼にチャレンジしていく、ひとりの作家としての個性」が、まさしく輝いている。

器に藍色を。強い思いで新たに生み出した「藍釉」

「藍釉黒茶盌」は、オーソドックスな黒樂に見える。しかし、分厚く塗られた釉薬が垂れ落ちた先の周囲を注意深く見つめると藍色が滲み出ているのがわかる。

 

その藍色は、白み始めた東の夜空の底のような、夜明けの予兆を微かに感じさせる、どこまでも深い藍色だ。緩やかに蛇行する白線は、極北の夜空を彩ったオーロラの残光にも見えてくる。黒い器はあくまでも静かにたたずむ。しかし雄弁に何かを語りかけてくる。

小川長樂
藍釉黒茶盌 12.8×12.6×8.8cm

「長樂窯には、『朱釉(しゅぐすり)』と呼ばれる釉薬と、それを活かした焼き方があります。黒釉のなかに、朱色が効果的に混ざる技法で、私はその技法をさらに発展させ、黒く発色する釉薬のなかに、藍が加わるような『藍釉(あいぐすり)』にトライしてみました」

 

「藍色は、藍染めや染付など、日本の伝統文化と密接に関わってきた色です。そんな藍色を樂焼にも取り入れることができたら。そんな思いが込められています」

小川長樂
淡い色調の地肌に彩る、やはり淡い緋色は、窯の中で器が浴びた炎の残照だろうか。彩焔白樂壺 15×15×23.4cm

従来の樂焼の手法では、とうてい焼成が不可能だった、大ぶりの壺や花入れ。あるいは釉薬を抑制し、あえて地肌を見せることで土味を楽しむことができる茶盌。

 

作品は多彩だ。「長樂の名前を得たことで、樂焼というフィールドのなかで、創作のエネルギーがより自在に、より奔放に噴出している。

 

四代目小川長樂、48歳。新たな創作の道程は、始まったばかりだ。

小川長樂
黒樂の焼成現場。1,400度以上もの高温になる窯から、直接器を引きあげる。防火服で体全身を覆い火傷をから身を守る。こうした過酷な作業を経て、樂茶盌は生まれる。

四代 小川長樂 Ogawa Choraku Ⅳ

1978年三代目小川長樂の長男として京都に生まれる。名古屋造形芸術大学(彫刻)・京都市産業技術研究所工業技術センターを卒業後、作陶に入る。2013年京都にて初個展。以後、ケルン、ポートランド、ニューヨークなどで個展を開催する一方、華道や能などの伝統芸能とコラボレーションした作品を発表。2024年建仁寺小堀泰巌猊下より「無隠軒」の軒号・長樂の字を賜り、四代長樂を襲名する。2025年京都にて「襲名記念四代小川長樂展」開催。

襲名記念 四代 小川長樂展

 

会期 2026年10月28日(水)~11月3日(火・祝)

午前10時~午後7時(最終日午後5時終了)

会場 日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊

TEL 03-3241-3311(大代表)

ギャラリートーク
11月1日(日)午後1時〜1時45分
「四代小川長樂×株式会社銀座もとじ代表取締役社長 泉二啓太氏 対談」

text by Masao Sakurai

Photograghy by Yasuo Kubota(bowpluskyoto)

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