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朝ドラ【ブラッサム】化粧が後押しした“初恋”と、珠(石橋静河)を待ち受ける理不尽な結末

  • 2026.10.19

朝ドラ【ブラッサム】化粧が後押しした“初恋”と、珠(石橋静河)を待ち受ける理不尽な結末

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていたきます。作家・宇野千代をモデルに、明治・大正・昭和を生き抜いた葉野珠の人生を描く「ブラッサム」のレビューです。

一度目の結婚のあとに訪れる初恋とは

作家・宇野千代をモデルとした主人公の人生を描くNHK連続テレビ小説「ブラッサム」の第3週「化粧と、初恋」が放送された。

石橋静河演じる主人公の珠は女学校を卒業し、尋常小学校の代用教員となった。「放蕩無頼」と呼ばれたモラハラ父の目を盗むようにしながら数々の名作文学に触れ、文学の世界と書くことへの憧れを膨らませた明治後期の少女時代、父亡きあとも文学への思いはますます膨らみ、友人たちと同人誌を作成するにまでいたった女学生時代と、ハイスピードで物語は展開していく。

珠のモデルである宇野千代は、『色ざんげ』や『おはん』など数々の名作を残した大作家であるとともに、4度の結婚と離婚を繰り返すなどし〝恋多き女性〟と呼ばれたりする一面も併せ持つ存在である。そのような史実から、本作には作家としての一代記と同時に、宇野千代を語るうえで欠かせない恋愛遍歴をどう描いていくか、恋愛ドラマ的な要素もどのように盛り込まれていくのかということも視聴の楽しみのひとつではないだろうか。

注目したいのが、今週のサブタイトルに冠された〝初恋〟の2文字。のちに〝恋多き女性〟と呼ばれる女性の初めての恋とはどのようなものだっただろうか。それと同時に、現代とは男女の恋愛感情の感覚に違いはあるかもしれないが、そんな数々の恋愛遍歴を経た女性の初恋が社会に出てからというのが少し意外な気もする。

そしてそれ以前に珠は女学校4年生のときに父の清治(渡部篤郎)が持ってきた縁談により、実母の妹の息子である享一(小堀正博)と一度結婚している。自分の意思ではなく、しかもわずか3日で飛び出し離婚するなどといったかたちの結婚生活ではありそこには恋愛感情はなかったということになるのだろうが、一度目の結婚のあとに訪れる初恋とは。

さて、代用教員の珠が担当することになったのは、家庭の事情などで勉強する時間が持てなかったり、読み書きが苦手だったりする子どもが集められた「2組」である。優秀な子で構成される「1組」との格差あるクラス分けに驚くとともに、珠が「子守りのようなもの」という扱いで「2組」を任され、さらには1組に迷惑をかけるなと言われたりすることに、明らかに珠が女性教員であるという前提ありきなところに、この時代の性差の理不尽を感じ引っ掛かりをおぼえる。

自身も少女時代に弟や妹の世話をしながら育った経験もあるゆえか、珠は2組の子どもたちとすぐ打ち解けた。2つのクラスのあからさまな格差。そういったことに思いをめぐらせたのち、 珠は強く意を決したかのように、真っ赤な口紅を塗り、化粧して教壇に立つ。教頭らは仰天し、女給じゃないんだからなどとそれを咎めるが、化粧はそれによってある種のモチベーションを高めることのできる装備のような意味合いを持つこともある。

そんななか、広島では外で働く女性は化粧をするのは当たり前だと諭してみせたのが同僚の島村(工藤阿須加)だった。島村は、なかには環境だけで劣等生扱いのように組み分けされた2組の子どもたちに読み書きの楽しさを伝えていく珠の姿勢に共感し、「たいしたもんじゃ」と称賛する。教育への思いが通じたことから二人の距離はだんだん縮んでいく。気付かぬうちに家での会話でも島村の名前を口にする回数が増え、弟たちに「22回」とその名前が出た回数を数えられいじられたりするほどだ。

「うち、人を好きになっただけじゃ」

嫁いだ相手の享一には抱かなかった感情、その相手のことで頭がいっぱいになり、楽しい気持ちになれる存在。化粧することへの理解から始まり、そこから共感へとつながり、やがて特別な存在となり、「好き」という言葉をしたためるほどになっていく。「化粧と、初恋」そのままに、これが珠の初恋だ。この「好き」を記した紙を教室で落とし、生徒のひとり、次郎がこれを拾い、これは何て書いてあるのかと、まさかの島村に渡してしまう。はじめは無言だった島村だが、職員室でこう一言告げた。
「胸に、くるものがありました」

なんともストレートな恋愛展開である。そこから急速に親密になっていく二人、珠の思いもどんどん強くなり、熱を出した島村の見舞いのため、自宅を訪れ雑炊を作ってあげたりするようにもなる。看病に際して、
「ただ会いたかったんじゃと思います」
「僕もです」
という、思わずにやけてしまいそうなやりとり。

宇野千代本人はこのエピソードのもととなった同僚との恋を「熱病のような恋」とのちに書き記しているが、この熱病のような思いは簡単に止めることはできない。外は雨が降っている。それを理由とし、そのまま二人は朝までそのまま過ごす。幼いころは父に命じられるままに雨の中裸足でカナリアの餌を買いに行かされたりしたことを思えば、その雨を帰れない理由とすることがこの初恋の熱量の高さをより実感させてくれる。

しかし、この朝帰りが近所の人の噂となり、やがて学校にも伝わる。これによって「ふしだら」と断ぜられた珠は謹慎ののち解雇を命じられる。しかも、処分されたのは珠ひとりで、島村はこれまでと変わらず教壇に立ち続けている。そこにもやはり当時の男女の大きすぎる格差が横たわっていた。

本当の気持ちが知りたい、珠はそう書いた手紙を島村に送った。しかし、島村からの返事には、冷たい言葉が書かれていた。
「ごめんなさい。あなたとの関係は間違いでした」

これは「本当の気持ち」なのか。納得できない珠は結局直接島村のもとへと会いにいくが、そこでもやっぱりなかったことにしてくれと言われ、最後には「あんたのことは何とも思うとらん」「帰れ」と、はっきりと心を通わせていたはずだったこれまでとは真逆のような冷たい態度であしらわれてしまう。

理不尽な思いの中終わった初恋、そして教職。出会わなければよかったのかと悩みつつも、
「うち、人を好きになっただけじゃ」
こう言い放つ強さは、珠の人格をよく感じさせてくれる。

「熱病のような恋」は、この先続く長い人生に大きな影響を与えた経験となったはずだ。

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