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現代美術家・森 万里子がもてなす重鎮キュレーター。一碗の茶に宿る30年

  • 2026.10.17
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アレクサンドラ・モンローさんと森美術館館長の片岡真実さんの共同キュレーションによる、現代美術家・森 万里子さんの大回顧展「森万里子:燦燦」が10月31日(土)より、東京の森美術館で開催されます。森さんの創作活動を当初から見守ってきた友人であり、またメンターでもあるモンローさんを迎え、日本文化を通じて育まれた二人の信頼関係、そして今後の展望について、お二人を結ぶキーワードでもある「お茶」を通して語っていただきました。 舞台となるのは、森 万里子さんの「純白の聖域」茶室シリーズ三部作のうち、東京、宮古島に続く最終章、ニューヨークの茶室です。

床の間まで真っ白な空間には、森さんの作品《Peace Crystal》が、そばにいる人を見守るように優しい輝きを放ちながら、静かに鎮座しています。風炉をはじめとする白磁の茶道具は、陶芸作家・高橋奈己さんによるものです。 NAOKO MAEDA

<Profile>
森 万里子(もりまりこ)/現代美術家

1997年、第47回ヴェネチア・ビエンナーレで特別賞を受賞するなど、30年以上にわたり世界を舞台に活躍を続ける。作品はグッゲンハイム美術館、ニューヨーク近代美術館、ルイ・ヴィトン財団、プラダ財団をはじめ、世界各地の主要美術館・コレクションに収蔵されている。自身が設立したFaou財団の活動を通じて、沖縄・宮古島やブラジルなどで、自然環境と調和・一体化する大型作品シリーズを展開。


茶室にすっと座る、そのたたずまいだけで日本文化の神髄が伝わってくるかのようなモンローさん。アジア現代美術を国際舞台でダイナミックに紹介してきた方でもあります。アーティストの根源にあるエッセンスを丁寧かつ大胆に拾い上げるそのキュレーションには、いつもはっとさせられます。 NAOKO MAEDA

<Profile>
Alexandra Munroe(アレクサンドラ・モンロー)/グッゲンハイム美術館シニアキュレーター
モンロー博士は数々の受賞歴を持つキュレーター、アジア研究者、著述家。その先駆的な研究によって、戦後日本美術やアジアの主要な前衛芸術運動を国際的な評価へと導いてきた。現在、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館・財団のグローバル・アーツ部門シニア・キュレーター・アット・ラージを務める。また、同館のアジア美術イニシアチブ(Asian Art Initiative)を主導するとともに、グッゲンハイム・アブダビ・プロジェクトのキュラトリアル・プログラムおよびコレクション形成にも重要な役割を果たした。これまでの主な受賞歴として、2017年に国際交流基金賞、’18年に文化庁長官表彰を受賞。さらに’24年にはジャパン・ソサエティー賞、’25年にはアジア・ソサエティーのゲームチェンジャー賞を受賞している。

グローバルな視点で見る「日本の文化と精神性」

世界のアート界を牽引してきた多忙なお二人が、再会の喜びに思わず手を取り合うほほ笑ましいひととき。長年にわたり育まれてきたお二人の親交が実を結んだ、待望の回顧展への期待も高まります。 NAOKO MAEDA

ニューヨーク、セントラルパークを望む重厚なレジデンス。エレベーターを降りた先に広がるのは、角のない、完璧なまでに純白なお茶室です。この「聖域」の主、アーティストの森 万里子さんは真っ白なきものをまとい、まるでその存在自体が「Ethereal(霊妙)」な光を放っているかのように見えます。

セントラルパークの木々を望む窓辺に生けられた見事な白い胡蝶蘭。自然界が時折見せるアンリアルな完成度をたたえたその花は、窓外の都会の喧騒(けんそう)を、お茶室の純白なエネルギーで浄化していくかのようです。

陽光が燦々と注ぐお茶室に入るなり、「向こうに見えるグッゲンハイム美術館が最高の借景ね!」と華やかな笑顔を見せたのは、今日のお客さま、アレクサンドラ・モンローさん。グッゲンハイム美術館のシニアキュレーターであり、森さんの30年来の盟友です。

出会ってからの長い歳月を振り返り、日本文化への深い思索と、今秋に開催される待望の森美術館での回顧展について。亭主と正客として一碗を分かち合い、和やかに歓談する午後のひとときが始まりました。

この窓から見えるもの——出会いから今日まで

茶室に差し込む光を受け、抹茶の鮮やかな緑が透けて見えるオパールガラスの茶碗と、アクリルの茶入れは共に森さんの作品。「哲学は形(オブジェクト)そのものに埋め込まれています」という森さんの言葉通り、この美しい茶道具は彼女の芸術哲学そのものです。(今秋、森美術館のショップにて販売を予定) NAOKO MAEDA

「私はこの展覧会を実現するために、30年間待っていました」(モンローさん)

お二人の出会いは30年ほど前、1995年の東京都現代美術館(MoT)開館時にまでさかのぼります。

当時アレクサンドラさんは横浜美術館で開幕し、1994〜’95年にグッゲンハイム美術館とサンフランシスコ近代美術館を巡回した金字塔的展覧会『戦後日本の前衛美術展——空へ叫び(Japanese Art After 1945: Scream Against the Sky)』を成功させたばかりだった。この展覧会と、それに伴って刊行された学術的なカタログは、戦後・現代日本美術史という国際的な研究分野を切り開いた。

NAOKO MAEDA

森さんがアーティストとしてデビューを果たしたのもちょうどその頃。「万里子さんのことは耳にしていましたが、『戦後日本の前衛美術』展のリサーチにはわずかに間に合わなかった! その先にはもう一つの章が必要だった。だから私は、この展覧会を実現するために30年間待っていたんです」と、アレクサンドラさんは振り返ります。「’90年代から大きな関心を持って森 万里子という存在を注視してきたので、初めてMoTの会場で彼女に会ったとき、最先端の若者文化を体現するアイコンのような彼女の姿に、強く惹きつけられたのを覚えています。それは、私がそれまでよく知っていた戦後の前衛芸術家たちとはまったく違っていました。ブルックリン美術館での見事な個展も、展示内容を今でも鮮明に覚えています」

NAOKO MAEDA

「そうでしたね! ブルックリンの期間中にもこうしてお茶を召し上がっていただきました」と森さん。

「それから私の世界中の主要なオープニングには必ず駆けつけてくださって。家族も来られなかったようなときも! 私のアーティストとしての歩みをずっと見守ってきてくださいました。私にとって、アレクサンドラは本当に多くのことを教えてくれた尊敬する理想の女性像です」と森さんはほほ笑みます。

NAOKO MAEDA

窓外に見えるニューヨークの街並みから、今秋の森美術館での回顧展へ。この窓からの景色は、単なる風景ではなく、二人の友情が育んだ現代アートの航跡そのものなのです。

茶の湯という日本文化が結んだ二人の深い絆

お二人の美しい所作に、ニューヨークの都市の喧騒を忘れさせる、お茶を介した静謐なひとときが漂います。出会った当初のことから最近の出来事まで、さまざまな話に花を咲かせながら、アートや文化を通して伝統を未来へとともに継承していくことへの、静かな確信と喜びが感じられました。 NAOKO MAEDA

このように、二人の絆を語る上で欠かせない日本文化のキーワード、それが「茶の湯」です。

アレクサンドラ・モンローさんは、13歳から24歳までという多感な時期を日本で過ごし、上智大学を卒業しました。その間、大徳寺での居士修行や、創設にも携わった大本の伝統芸術講習学校で過ごした計5回の夏を通じ、茶道や能といった伝統芸能を本格的に学びます。どっぷりと浸かり、実践を通して日本文化の神髄に触れた彼女は、これらを知識だけでは到達し得ない所作の体系、すなわち「日本文化の振り付け(コレオグラフィー)と呼びます。それは単なる古典ではなく、今も新たな意味を持って存在し続けるエッセンス。時代を超越する知性に興味があるのです」——そう語る彼女の修練は、後にグッゲンハイム美術館での「具体:素晴らしい遊び場」展(2013年)などの日本の前衛芸術の本来の特質を見射抜く、キュレーターとしての揺るぎないバックボーンとなりました。「茶道は所作で学ぶ部分も多いのですが、お茶道具そのものにも精神性が宿っていることに気付かされます。」

「『日本文化の振り付け』と呼んでいる、知識だけでは到達し得ない、実践を通じた日本文化の神髄に浸りました」(モンローさん)

NAOKO MAEDA

粛々と点前を進めながら森さんは語ります。「例えば長次郎の茶碗。素朴でその肌から温もりを感じさせる佇まい。あえて完全な均整を求めない造形には、侘びの美意識と禅にも通じる精神性が息づいています。」

淡い虹色の光を放つオパールガラスのお茶碗を、中の鮮やかなお抹茶の緑が透けて見える角度でささげる森さん。器の美しさを客人にめでていただくための、慈しみに満ちた所作が光ります。

「万里子さんのアートも同じですね。道具や作品そのものに哲学が込められていて、作品をじっくり見ることにより、私たちも彼女が制作過程で得た感動や思いを追体験することができる。そういう意味で、これは非常に寛大で、優しいアートなのだと思います」とアレクサンドラさんは応えます。

NAOKO MAEDA

そんな二人の深い信頼を象徴するのが、2016年の出来事です。アレクサンドラさんがコロラド州アスペンの山中に自身の茶室「通天窟(つうてんくつ)」を建立した際、森さんに祝福のパフォーマンスをしてもらったそう。この重要な儀式をお願いした背景には、単なる作家とキュレーターという枠を超え、日本文化という精神的基盤を共有する者同士の、魂の共鳴がありました。

「40年のキャリアの中で、私生活にまで招き入れたアーティストは万里子さんとオノ・ヨーコさんの二人だけです」とアレクサンドラさんは語ります。

「お二人に共通するのは、受け継いだ精神的な『遺産』を、美意識や思想として、ごく自然に現代のアートへと昇華できるまれな才能をお持ちだということ」

さらにアレクサンドラさんは、森さんのアーティストとしての本質についてこう語ります。「アーティストは、私たちとは生まれつき『配線(wired)』が違うのです。万里子さんは、この深い文化的背景を源泉としながら世界を見つめ、形や色、イメージを見いだし、新しい現実の、そして哲学の構造を私たちに提示してくれます」

お茶を通して交わされる、日本文化への深い思索。二人の対話はさらに深まっていきます。

【森万里子:「燦燦」】
会期/2026年10月31日(土)~2027年3月28日(日)
時間/10:00~22:00(火曜日のみ~17:00)
※ただし11月3日(火・祝)は~18:00、2月23日(火・祝)は~22:00
休館日/会期中無休
会場/森美術館
所在地/東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
URL/www.mori.art.museum/jp/exhibitions/marikomori

初出:リシェスNo.57 2026年9月28日発売
PHOTOGRAPHS:NAOKO MAEDA
HAIR & MAKE-UP:MISA AKAMATSU
TEXT:MASAKO SHIBA
COORDINATION:KANAKO MAEDA(STUDIO HANDSOME)
EDITING:KAZUHIRO NONAKA

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