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川添愛「言葉のセンス研究所」(10)M!LK『好きすぎて滅!』に見る、「好き」を表現する手法の多様性と進化

  • 2026.10.14

2026年を代表する一曲と言っても過言ではない、M!LKの爆裂ヒット曲『好きすぎて滅!』。歌詞を丹念に読み解くと、様々な手法で「好き」を伝える珠玉のラブソングであることが判明! 特に、サビ前の「え、好き。」に込められた他に類を見ない「好き」の表現とは……?

気鋭の言語学者・川添愛さんが日常に飛び交う会話を様々な角度から分析し、「言葉のセンス」を探求する言語学エッセイ連載第10回です!

遅ればせながら、M!LKの楽曲『好きすぎて滅!』に衝撃を受けている。私はあまりテレビを見ない上にアイドル界隈に疎いため、最近まで「なんか、みんなやたら滅! 滅!って言ってる」としか思っていなかった。つい先日、歴史系YouVtuberの右京大夫政元さんが室町幕府のカオスっぷりを歌った替え歌『室すぎて町!』[1]を視聴して爆笑し、それがきっかけで原曲をきちんと聴いた(ちなみに私と同じルートで本家のMVを見に行った人は一定数いるようで、「室町新規」なる呼び名もあるようだ)。楽曲やMVのクオリティもさることながら、「好きであること」の表現の多様さに驚いている。

誰かが誰かを好きになり、歌や詩の中でその思いの丈を言葉にするということは太古の昔から行われており、その手法も多岐にわたる。パッと思いつくだけでも、①「とても」「すごく」のように「程度の大きさ」を表す言葉の多用、②永遠の愛の誓約、③「愛しているのはあなただけである」という唯一性の表明、④自己犠牲や献身の申し出、⑤胸の高鳴りを表すオノマトペ(擬音語・擬態語)の利用、⑥相手の素晴らしさ・自身の愛の大きさを表す比喩の使用、⑦「好き」「愛してる」といった言葉の連呼、⑧相手の神格化といった手法が挙げられる。

それぞれに対して具体例を挙げたいが、とくに歌謡曲については歌詞を直接書きすぎるといろいろアレなので、みなさんそれぞれでお好きな例を思い浮かべていただきたい。一応、私が念頭に置いていたものについては、「①広末が歌ってた」「①②スターにしきのによるヒット曲」「③少年隊の指パッチンから始まるやつ」「④ちびまる子ちゃんがおじいちゃんを感動させた昭和歌謡」「⑤YMOがPVで気だるく踊る」「②⑥松崎しげるの名曲」「⑦一休さん」「⑧ダンテ・アリギエーリ」のようにヒントを出しておく。

上記の表現方法の多くは『好きすぎて滅!』にも盛り込まれている。たとえば①に関しては、すでにタイトルに過剰さを表す「~すぎて」があるし、曲中では「マジ」や「過去イチ」といった語が使われている。「マジ」「過去イチ」はいずれも略語であり、「早く言いたい」という焦りが効果的に表現されているように思う。そしてこの流れで言うと、やはり「滅!」が注目に値する。過去の楽曲や文学作品でも「死ぬほど」とか「身を焦がすほど」のように、愛の大きさが危険領域に達していることを表すフレーズは使われてきたが、「滅!」の簡潔さは群を抜いている。

さらに言えば、そもそも「滅」が単独で現れる例はスタンダードな日本語には存在しないし、「好きすぎて滅!」というフレーズを見てもいったいどういう文法にのっとっているのかが判然としない。おそらくこれは「"好き"が高じて語彙や文法が崩壊する」という表現方法なのだと思う。

一番語りたい部分は「え、好き。」である

この⑨規範的な日本語からの逸脱という手法は、近年のオタク界隈の「推ししか勝たん」や「てぇてぇ(=「尊い」の崩壊形)」に近いものと思われる。M!LKの別の曲『爆裂愛してる』でも、もともと「爆発して破裂すること」を表すサ変名詞「爆裂」が、程度表現として副詞っぽく使われているという点で「逸脱」していると言える。

他にも言いたいことはたくさんあるが、『好きすぎて滅!』の歌詞で一番語りたい部分は「え、好き。」である。私はこの「え」と「好き」の組み合わせに、たいへん感銘を受けている。以下は私の現時点での分析であり、おそらく異論も多々あるだろうが、少々お付き合いいただきたい。

まず大前提として踏まえておきたいのは、「え」という感動詞は「驚き」、つまり目の前で起こったことに対する瞬時の反応を表すということだ。よって、「え」と一緒に出てくる表現も、五感を通して瞬間的に湧き上がる感覚や感情を表すものになりやすい。たとえば、誰かと出会ってその可愛さや格好良さに驚くことは瞬時に起こりうるので、「え、かわいい」「え、かっこいい」などと言うのに違和感はない。

これに対し、「好き」というのはどちらかというと、「かわいい」「かっこいい」のような感覚を統合した上で出てくる「結論」だ。つまり「好き」は、「なぜ私はこの人のことをかわいい(/かっこいい)と感じたのか」という思索や推測の先にあり、通常はその結論にたどり着くまでに多少の時間を要する。

こういった点で、「好き」は本来「え」の即時性とは相性が良くないが、この歌詞ではあえてこの二つを組み合わせることによって、「出会いの衝撃」から「好き」という結論にたどり着くまでの「尋常でない速さ」を表すことに成功しているように思う。私の知るかぎり、他に類を見ない⑩「好き」を自覚するスピード感の表現である。

『好きすぎて滅!』は、このように多様な「好き」の表現を盛り込む一方で、好きな相手を責めたり独占したりするような内容がないのも興味深い(独り占めしたいのはあくまで「カメラロール」であって、本人ではない)。相手にはけっして多くを求めないし、こちらから何もかも差し出したいと申し出るときも、あくまで「相手の方がお喜びになるなら」という条件付きである。押しつけがましさがまったくない。「好き」の度合いは限りなく大きいが、相手に迷惑をかけずに自分の中だけで完結させるところに清々しさを感じる。このへんを踏まえた上で、ねっとりした重めのラブソングと聴き比べてみると面白そうだ。


[注1]右京大夫政元【歴史系YouTuber】「歴史替え歌|室すぎて町!【好きすぎて滅!|M!LK】」、2026年3月21日。https://www.youtube.com/watch?v=i53BEgy9IUU

川添愛(かわぞえ・あい)

言語学者、作家。九州大学文学部、同大学院ほかで理論言語学を専攻し博士号を取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。著書に、『白と黒のとびら』『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』『ふだん使いの言語学』『言語学バーリ・トゥード』『世にもあいまいなことばの秘密』『日本語界隈』(ふかわりょうとの共著)『「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方』『パンチラインの言語学』『裏の裏は表じゃない』など多数。

文=川添 愛 イラスト=Akimi Kawakami

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