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朝ドラ【風、薫る】「言葉が足りないよ」りん(見上愛)の本音があふれた、シマケン(佐野晶哉)を看護した夜

  • 2026.9.21

朝ドラ【風、薫る】「言葉が足りないよ」りん(見上愛)の本音があふれた、シマケン(佐野晶哉)を看護した夜

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。近代看護界の先駆者となった2人の女性を主役とする物語。「風、薫る」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

「11年かかった」とツヤは言った

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる著・中央公論新社)を原案とし、激動の明治時代を駆け抜けた二人のナースを、見上愛・上坂樹里のダブル主人公として描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』。

今週放送された第25話のサブタイトルは「風媒花」。風媒花とは、風に乗って広がっていく種類の草花を指す言葉である。種子を風に乗せて飛ばすタンポポなどとも異なり、華麗な花弁や香り、蜜などによって鳥や虫などを引きつけて花粉を媒介してもらうわけではない。それゆえ、マツやススキ、イネなどどちらかといえば地味で目立たない花であることが多い。そのひとつに多くの人を毎年悩ませるスギやヒノキもあったりするわけであるが。

この作品では、二人の主人公を中心に、何か大きな岐路が訪れそうなときに、そのタイトルのごとく、決まって風が吹いた。そんな風に乗る花粉のように、二人の人生は風に運ばれるように、または風に運ばれてきたかのような人との出会いや出来事が訪れたりしながらさまざまな人と出会い触れ合い、「看護」というかたちで多くの人の命を支えることを重ねてきた。

半年にわたって続いた長い物語もいよいよ終盤、二人の前にふたたびそんな風に乗せられたかのようにシマケン(佐野晶哉)やりん(見上愛)の元夫である亀吉(三浦貴大)など、かつて出会った人たちが次々と姿を現す。そしてそんな二人の前に現れたのがツヤ(東野絢香)だった。ツヤはかつて看病婦として帝都医大附属病院で働くうち看護婦として働きたいため看病婦の仕事をしながら休みや空き時間に授業を受けたりしたものの、ミスを冒したことにより道半ばで解雇され、りんたちの前から去っていった女性だ。

ツヤは、りんたちが運営する恵風会で働きたいという。派出看護会も、恵風会を含めいまや60を超える数に増えており、乱立による看護の質の低下などを防ぐためにも看護婦を取り締まる規則が必要なのではないかという意見が出ていた。恵風会は、言うまでもなく派出看護会の広がりの道を切り開いたきた存在ではあるが、柳生(中村倫也)にそんな恵風会が正しい看護をしているかどうか証明できるのかと直美(上坂樹里)に問いかけ、「正しい」看護婦であるかどうかを客観的に測ることができないことを指摘した。

そんな状況の中、恵風会で働きたいと言うツヤ。ツヤの手にはボロボロになった一冊の本があった。『Notes on Nursing』、病院を去る際にりんが渡したもので、「ずっと私のお守りでした」とツヤは言う。本にはツヤの書き込みがびっしりと残されていた。読み書きもできなかったツヤが辞書を引きながら書き込んで学んだ記録であり、「11年かかった」という。柳生の指摘はもちろん正しい。しかし、ツヤが刻んできた11年の努力もまた、独学ではあるが、看護を学んできた事実でもある。

「ツヤさんをtrainすればいいんだよね」
そういう立ち位置から二人はツヤを受け入れる。

シマケンは危機を脱する

そしてもう一人。ヒデ(池田朱那)もまた風に乗せられたかのように再登場する。ヒデは、かつてりんたちが学生を教える立場になったときの最初の生徒の一人だが、りんの姿を見るうち自分にはできないと学びの途中で去っていった。ヒデはなんと医師になっていた。

もともと優秀な生徒として描かれており、りんたちもその退学を責められたりもしたが、看護婦ではなく医師として人の命を支える道を選んだこともまた、真が強そうなヒデらしい選択だ。しかし医師の道も当たり前だが大変な世界だ。試験を3回受けようやく合格できたという。かつての生徒がこの先のりんたちにとって、頼もしい存在となる。明るい兆しを風が次々と運んできた。

そんなりんと直美に舞い込んできたのが、シマケンの派出看護の依頼だった。シマケンは胃がんの手術を終えていた。生きるために胃を切除したが、自分のためだったらそれを選ばなかったが、甥が学校を出るまではという。

そんなシマケンが急変し、生命の危険にさらされる局面を迎えた。医師の藤田(坂口涼太郎)は、医療でできるのはここまで、あとは本人の頑張り次第と告げる。虎太郎(小林虎之介)にもあんたがんばりすぎだと言われるなど、シマケンは十分頑張ってきた。

シマケンの手をとり励ますりん。シマケンは、この手を放したくなかったと悔いる。「言葉が足りないよ」と、ある日忽然と姿を消したシマケンへの思いをぶつけるりん。言葉を紡ぐ仕事を目指し、いろんな言葉を知ってるはずなのにという言葉には熱い思慕が詰め込まれている。

「意地を張り切って生きてよ」
そんな思いが通じたのか、シマケンは危機を脱する。

看護は決してそれによって直接生命を救うものではないかもしれない。しかし、患者が生きるために一番大切なものを支え、寄り添い、ときにはそれを作り出すこともできる、そんな大切な存在なのかもしれない。シマケンの看護を通じて、りんや直美は、正しい看護の本質のようなものを捉え直すことができたのかもしれない。

ツヤ、ヒデ、そしてセツ。それぞれが風に乗って、りんたちのもとへと着地してきた。それが運命という風に運ばれてきたかのような彼女たちは、果たしてそこで大きな実を結ぶことができるだろうか。次週、いよいよ最終週。その大きな実りを見届けていきたい。

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