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48歳でAPDと診断されたミュージシャンが描く、「聞こえているけど聴こえていない」世界

  • 2026.11.8
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©︎『真壁君聞こえているけど聴こえていない』/たなかせいどう

あなたが聞いている世界と、隣にいる人が聞いている世界は、まったく違うかもしれません。

軽音部に所属し、プロのギタリストを目指している真壁くん。しかし、自分の演奏に自信が持てず、仲間からも「1人だけリズムが悪い」と指摘されてしまいます。演奏中に真壁くんが感じているのは、ほかの楽器の音がノイズのように押し寄せ、自分の音が暗闇に飲み込まれていく感覚です。音楽は楽しくない。それでも、諦めたいとは思っていない――。

そんな真壁くんの苦しみを描くのが、たなかせいどうさん(@seido_tanaka)の『真壁君聞こえているけど聴こえていない』です。

同じ場所にいても、聴こえている世界は違う

自分の音を見失い、必死にギターの音量を上げる真壁くん。しかし、仲間からは「ギターがうるさい」と言われてしまいます。

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©︎『真壁君聞こえているけど聴こえていない』/たなかせいどう

筆者にもバンド経験があります。演奏中は周囲の音を聴きながら、全体のバランスを意識していました。だからこそ、自分の音を見失い、周りに合わせたくても合わせられない真壁くんの姿には、苦しさを感じます。音量を上げるのも、なんとか演奏についていこうとする必死の行動なのだと伝わりました。

その一方で、周囲が真壁くんのギターを「うるさい」と感じる理由もわかります。仲間には、真壁くんが音量を上げざるを得なかった事情までは見えていません。真壁くんと仲間たちの視点を行き来することで、同じ演奏の中にいながら、両者がまったく異なる状況を体験していることが伝わってきます。

マンガだから伝えられる、見えない困難

周りのみんなは演奏できているのに、自分だけがうまく合わせられない。何が違うのかわからないまま、仲間から演奏を指摘され、自信を失っていく真壁くん。音楽を諦めたくないのに、楽しいと思えない。その姿からは、好きなことに懸命に取り組んでも、思うようにいかない苦しさが伝わってきます。

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©︎『真壁君聞こえているけど聴こえていない』/たなかせいどう

本作の背景には、作者自身の経験があります。たなかさんは16歳からミュージシャンとして活動し、48歳のときにAPD(聴覚情報処理障害)と診断されました。作中で真壁くんの診断名は明示されていませんが、長年音楽と向き合ってきた作者の経験が、自分の音を見失う感覚や、周囲に理解してもらえない苦しさの描写につながっているのでしょう。

音の感じ方は、言葉だけで説明されても簡単には想像できません。本作では、押し寄せるノイズや暗闇に消えていく音を、線や黒い空間によって視覚化しています。APDを知らない読者も、真壁くんの目を通して「こういう世界なのかもしれない」と追体験できるのです。

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©︎『真壁君聞こえているけど聴こえていない』/たなかせいどう

APDのほかにも、特定の音に強い苦痛を感じるミソフォニアや、音を過度に大きく感じる聴覚過敏など、外からは見えにくい音の困難があります。それぞれ異なるものですが、本人の感じ方が周囲に伝わりにくい点は共通しているのかもしれません。

音楽は楽しくない。それでも、諦めたくない

理由がわからないまま周囲と同じようにできなければ、本人も「自分がおかしい」と思い詰めてしまうことがあります。周囲からも、努力不足や身勝手な行動だと誤解されてしまうかもしれません。

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©︎『真壁君聞こえているけど聴こえていない』/たなかせいどう

そんな当事者にとって、同じように音を見失う真壁くんの存在は、「この感覚を抱えているのは自分だけではない」と知るきっかけになります。そして当事者ではない人にとっては、これまで知らなかった誰かの世界を想像する入口になるでしょう。

『真壁君聞こえているけど聴こえていない』は、目には見えない感覚の違いを、音楽という身近な題材とマンガならではの表現で伝えてくれる作品です。

 

X(旧Twitter):たなかせいどう(@seido_tanaka)



▶︎「真壁くんはなぜ音楽に悩んでいた?」真壁君聞こえているけど聴こえていない【はじめから読む】

#1 1人だけリズム悪いから悪目立ちしちまうんだよな
#1 1人だけリズム悪いから悪目立ちしちまうんだよな

クリエイター情報

たなかせいどう

16歳からミュージシャンとして活動。48歳の時にAPD(聴覚情報処理障害)と診断され、現在も音楽活動を続けながら、漫画制作にも力を入れています。

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