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「あのとき躊躇しなくて本当に良かった」小島慶子さん【40代からの冒険】のススメ

  • 2026.7.4

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「冒険・挑戦」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、一昨年から10年ぶりの日本定住生活に。

『中年だって翔べるはず。躊躇しなくて大丈夫』

子年生まれで小心者の私ですが、人生で何度か、大冒険をしています。思い切って新しいことに挑戦。就職しかり、結婚・出産しかり。冒険は若者がするものと思われているけど、どっこい中年だってアドベンチャラスなお年頃です。私が会社を辞めて独立したのは37歳、海外二拠点生活に踏み切ったのは41歳の時でした。仕事が充実する中年期は、楽しい冒険に踏み出すチャンスなのです。

独立は、前々から計画していたことではありませんでした。思いがけなく仕事の波がきて「あ、今ならこれに乗って外の世界に出ていけるかも!」と思ったのです。ここで見送ったら後悔するかもしれない、せっかくの波に乗ってみようと。あのとき躊躇しなくて本当に良かったです。

怖がりの私が決断できたのは、15年間の会社員としてのキャリアと実績があったから。自分の強みも分かっていたし、相談できる人もいました。子どもたちはまだ幼かったけど夫婦共働きだったので、もしも独立後に仕事が少なくてもなんとかご飯は食べられるだろうという安心感もありました。

2010年当時は、放送局の女性のアナウンサーが独立するのはたいてい20代で、全国的な人気者になった人ばかりでした。私が会社を辞めると聞いて「37歳で、今更何をするつもり?」と呆れた人も多かったはず。でもあまり前例がないなら比べられることもないし、好きにやればいいや! と気が楽でした。ガラスのハートの若者は周囲の雑音で心折れてしまうかもしれないけど、山越え谷越えどっこい生きてる中年さんは、雑音に免疫があるのでスルーできます。周囲がいろいろ言うのも、いっときのこと。みんな忙しくて、自分の暮らしで手一杯ですから。

私が辞表を出したと知って「辞めるなら完璧に根回しするべきだ! 各所が納得するまで説明したほうがいい」とアドバイスする人もいました。社内の誰かには事前に挨拶するのに誰かには事後報告というのはまずい、差をつけてはいけないというのです。でも、完璧な根回しなんて不可能。そんなことをしているうちにタイミングを逃しちゃいます。だから結局、根回しゼロで辞めました。それなら〝小島は全方位に無礼だった〟ということでみなさまに納得してもらえるでしょうから!

そう割り切れたのも、15年かけてキャリアを積んで、気持ちに余裕があったからです。送別会も全てお断りしました。会社の送別会って、たいていは主役そっちのけでみんなで酔っ払って人事の噂話ばかりしていますもんね。本当に祝福してくれる人は必ず個人的に連絡をくれるもの。個別に会えばいいのです。こうして経験に基づいて無駄な付き合いを回避できるのも、年の功です。

さてめでたく独立した後、オーストラリアとの二拠点生活を決断したのは、41歳の時でした。2014年当時はまだ「教育移住」とか「二拠点生活」という言葉が浸透しておらず、10分くらいかけて説明しても「ああ、大橋巨泉みたいな?(検索してください。悠々自適な海外生活を送った昭和のおじさま司会者です)」と理解度ゼロの答えが返ってくる始末。だんだん疲れてきて、理解されるのを諦めることにしました。若いときは「自分をわかってほしい!」という気持ちが強いものですが、世慣れて来ると、わかってくれなくてもまあ別にいいかという心境になります。人と人は分かり合えなくても、知恵を使えば平穏に暮らすことができるもの。会社を辞める人の気持ちは辞めない人には永遠にわからないし、日本を出る人の気持ちは出ない人には一生わからない。わからないことを前提に、平和に共存できる距離感で最適なコミュニケーションの形を探ればいいのです。

そこで私は人生の戦場リポートよろしく日豪二拠点生活を縷々書き綴り、そうこうするうちに世の中が変わり、教育移住も二拠点ライフも今はなんと話の通じやすいこと。本当にいい時代になりました。振り返ると、独立も教育移住もよく決断したなあと思います。あの時挑戦して良かったです。中年期は体力気力が漲っているし、それまでのキャリアを通じて築いた信用や人とのつながりが、身を助けてくれます。もし冒険の結果が思ったのとは違っても、やり直す時間はまだたっぷりあります。まさに人生をああもこうも生きられるのですね。

今なにか決断しようとしているあなた、思い切って跳んでみて! 40代は冒険しどき。大丈夫、奈落の底には落ちません。人生はいつも地続きで、あなたをどこかに連れて行ってくれます。未知の場所で、面白いことがきっと待っているはず。どうぞ楽しい冒険を!

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2026年8月号掲載時のものです。

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