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「どうなる? 無職のお父さん~前編~」 おかっぱちゃんの子育て奮闘日記 Vol.31 

  • 2016.6.27
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息子が生後2ヶ月の時、夫が無職になった。

大学卒業からずっと勤めていた銀行の営業職を辞め、安定から不安定の道を爆走中。

“夫が無職”と言う、この状況を耐えるには、母であるわたしにとってたやすい事ではなかった。

退職金や、失業保険で数ヶ月分はカバーできても、次の仕事は決まっていない。夫もこの状況から脱するべく、毎日のように頭を抱える日々。妻のわたしが仕事を続けているとはいえ、この状況は辛すぎる。

夫がハローワークに出かけている間、わたしは乳飲み子を背負いながら、パソコンに向かって仕事していた。

「お父さん、どうなるかねえ」。

眠る息子に声をかけるも返事はない。

夫は、次の仕事に就く時は「好きなことを仕事にする」と、心に決めていて、わたしがいろいろと就職先を薦めてみても「うーん、見てみるよ」と適当な返事をするばかり。

アートや音楽、映画などの文化関係の趣味を持っていた事もあり、美術館などの文化施設に就職することも考えてはみたものの、給与が少なかったり、学芸員の資格が必要で条件が合わない。

文化に触れられる、何か良い仕事はないものか? それに加えて、育児も手伝ってもらえるように、就業時間が早い会社はないものか? 早く次の仕事に就くには、まずは夫の頭の中を整理しなくてはいけない。

それにはどうしたらよいか…。わたしは夫にこう言い放った。

「ひとり旅、してきたら?」

産前わたしは毎年のようにひとりで海外に出かけていて、旅先ではよく将来の夢を具体化するために人生設計をしたものだ。

夫がこれから何をしたいのか明確にするには、きっとひとりの時間が必要だろう。それに就職してからずっと長期の旅行にはなかなか行けなかったし、子育てが始まってひとり旅なんてこの先行けるか分からない。

真面目にサラリーマンを続けた夫へのご褒美だ。夫から出た言葉はこうだった。

「俺、NYに行くわ」。

え!? 国内じゃないの? 海外でもいいっちゃいいけど、お金もかかるし、アジアくらいにしてくれればいいのに…。と内心思いながらも、NYは確かに世界中からアーティストが集まる場所だし、発表の場もある。勉強になるのは確かだな……。

ここは夫の将来が明るいものになれば良いと、わたしは置いてけぼりという立場から、少々ふてくされつつも、最後の最後には気持ちよくNY行きを承諾したのだった。

NY10日間の旅。予算は大事に取っておいたボーナス30万円。旅のテーマは「仕事について考える」。この条件の中、夫はひとりNYに旅立ったのだった。

夫が旅行期間中、わたしは息子とふたりで過ごした。育児に追われていると、時間の経過は恐ろしいほど早くなる。あっという間に10日間が経過し、夫が帰国。

日本に帰ってから、夫は毎晩のように思いついたアイデアをノートに書き出して、NYで得た刺激をもとに試行錯誤しながらも、自分が何を仕事にするべきか考えていたようだった。

会社を辞めてから半年が経ち、息子が生後10ヶ月になるころ、ようやく夫の考えがまとまった。

「おれ、仕事決めたよ。夫婦で仕事をして、育児もする。東京おかっぱちゃんハウスで文化関係のイベントの企画と運営をしていく。人が集う場所になるように、同時にカフェ営業もしようと思うんだ。良い考えだと思わない?」。

わたしはイラストレーターの仕事を10代から始めて、すでに12年が経過。副業として始めた、文化交流複合施設「東京おかっぱちゃんハウス」も不定期でイベントを開催していた程度だし、夫が加わる事で本当にうまくいくのだろうか。

夫は自営業暦0年。わたしでも軌道に乗るまで5年程かかっているし、子どもがいる状況で、この不安といったらない。カフェ営業? 飲食経験といったら大学時代、飲食店でアルバイトをしていたことくらいじゃないか。

しかし、夫は頑に「アルバイトも、転職もしない。自分でやる」の一点張り。

心の優しい人だけれど、こんなにも頑固だったとは。

どこかで修行をせずに、ほぼ未経験から自分の道を作っていく。根が真面目な夫とは言え、そんなことができるのだろうか?

つづく

※「東京おかっぱちゃんハウス」とは、練馬区上石神井にある、Boojilが主宰の古民家を利用したアトリエ、シェアオフィス、イベントスペース、カフェ、BAR、ショップを併設した文化交流複合施設です。

次回は「 どうなる?無職のお父さん~後編」をお送りします。

(Boojil(ブージル))

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