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凱旋デザイナーによる新生「フェンディ」。“共創の精神”が導く新たな未来へ

  • 2026.3.2
Daniele Venturelli / Getty Images

「Less I, More Us(“私”よりも“私たち”)」。キャットウォークにステンシルで掲げられたこの言葉は、マリア・グラツィア・キウリが「フェンディ」で放った新章の宣言だった。それは彼女の精神性であり、同時にフェンディ家の五姉妹が築き上げた創造的結束と、ローマのメゾンが育んできたイタリア的かつ女性的な労働の流儀へのオマージュでもある。

Courtesy of Fendi

1989年に「フェンディ」でキャリアをスタートさせたキウリにとって、このビッグメゾンは彼女の原点。ファッション業界の最前線で華々しいキャリアを築いた彼女は今、新たに「フェンディ」の舵(かじ)を握る。そのデビューコレクションは、流行を狙ったインパクト重視の色使いや、SNS映えを意識した派手な演出をあえて避け、日常に寄り添うオーセンティックな衣服へと立ち返るものだった。

Umberto Fratini / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ショーは、色をそぎ落としたブラック主体のテーラリングで開幕。ロングジャケット、ダブルブレストのスーツ、端正なコート。男女で共有する、ウエストを強調しすぎない直線的なシルエットが続き、ジェンダーの境界は曖昧に溶けていく。キウリのシグネチャーとも言えるミモレ丈スカートも登場するが、ここではよりタフに、より官能的に進化している。

Umberto Fratini / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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ランジェリーを思わせるスリップドレスや繊細なレース、シアーなブラックシルクがデコルテを大胆に際立たせる一方で、柔らかなテーラリングが身体を優しく包み込む。彼女が今季、もう一つの軸として掲げたのが“身体”への立ち返りだ。衣服は身体を制限するのではなく、受け入れ、寄り添い、触覚的に可視化する存在であるべきだという提案である。レースの透け感、流動的なフォルム、レザーのチョーカーが首元に描く緊張感は装飾を超えて、感覚のレイヤーとして重ねられていた。

Umberto Fratini / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Umberto Fratini / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ブラックとミッドナイトブルーを基調に、グレーとレッド、少しのイエローを差し込んだ徹底して沈静的なカラーパレット。視覚的な刺激よりも、質感と構築にフォーカスする姿勢が明確だった。中盤以降はミリタリーからウエスタン、フォークロア、ストリートまで異なるスタイルを縦横無尽に掛け合わせながら、主軸となった厳粛なテーラリングとコントラストを成す。

Victor Virgile / Getty Images
Victor Virgile / Getty Images

その中で、キウリが前職から続けてきた女性アーティストとの対話も継続された。イタリアの芸術家ミレッラ・ベンティヴォリオが70年代に構想したアイデアをもとに制作された、NOI/Noia(NOI=私たち、Noia=退屈)やOlt3(Oltre=“より向こうへ”との語呂合わせ)という言葉遊びから着想した限定ジュエリーやモチーフ。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

さらに、ナポリ出身アーティスト、サグ・ナポリとの協業では、「Loyal but not obedient(忠実だが、従属しない)」「Present but not dependent(存在しているが、依存していない)」といった言葉が並ぶ。これらのフレーズは、一体化することではなく、バランスを保つことを基盤とした“所属意識”を提示する。何かに属するとは、固定されることではなく、能動的に選び続けること。融合ではなく、緊張をはらんだ共存。フットボールスカーフやTシャツにあしらわれたサグ・ナポリの言葉は、キウリ自身が「フェンディ」から学んだ、個を保ちながら重なり合う強さという共創の精神を示すもの。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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これまで数々のitバッグを世に送り出してきたキウリにとって、アクセサリーはやはり真骨頂だ。90年代、彼女が最初に「フェンディ」に在籍していた時代に誕生したアイコンバッグ“バゲット”は、ダブルバックル仕様で再構築され、時にサイケデリックな色彩で圧倒的な存在感を放つ。脇に抱えることも、クロスボディで掛けることもできる自由さは、まさに“私たち”の時代のバッグ。

Umberto Fratini / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

「フェンディ」へ凱旋(がいせん)したキウリのデビューコレクションには、イタリアのメゾンが100年かけて築いてきたコードを守りながらも、彼女の手跡がはっきりと刻まれている。エンターテインメントとして消費されるファッションではなく、きちんと機能し、長く愛されるワードローブを提供すること。流行の速さよりも、着る人の時間に寄り添う衣服を選ぶという、一貫した姿勢が感じられた。“私”ではなく、“私たち”で未来を築くために。「フェンディ」は今、その新しい章を歩み始めている。

Courtesy of Fendi
Hearst Owned
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