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30年前、イントロで空気を塗り替えた“時代のファンファーレ” 3人が放った自由という名の熱狂

  • 2026.4.7

1996年の春、日本の街並みはかつてないほどの速度で回転していた。街行く若者たちの手元には携帯電話が浸透し始め、情報の波は秒単位で更新されていく。デジタルテクノロジーが個人の領域にまで侵食し、誰もが「新しい時代」の輪郭を掴もうとしていたあの頃。テレビやラジオ、そして深夜のコンビニエンスストアから、執拗なまでに鳴り響いていた「音」がある。それは、時代の寵児であったプロデューサーが自ら立ち上がり、音楽シーンの最高到達点へと駆け上がっていく中で放った、あまりにも鋭利な宣戦布告だった。

globe『FREEDOM』(作詞:小室哲哉・MARC/作曲:小室哲哉)ーー1996年3月27日発売

デビュー以来、社会現象となっていたglobeにとって、通算5枚目となるこのシングルは、歴史的なメガヒットとなった前作『DEPARTURES』から一転、リスナーを再び狂騒のダンスフロアへと引き戻す一曲となった。

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1997年3月、大阪ドームで開催されたglobeのコンサートより(C)SANKEI

制御不能な熱狂が求めた、過剰なまでの音の積層

1996年3月、当時勢いに乗っていた国際電信電話(現・KDDI)のCMソングとして流れたこの楽曲は、イントロが響いた瞬間に空気を塗り替える力を持っていた。小室哲哉が構築したサウンドは、複雑に組み合わされた高速のビートと、鼓膜を圧迫するような重厚なシンセサイザーの旋律。そこには、聴き手の感情を揺さぶるための緻密な計算と、時代を支配することへの飽くなき執念が凝縮されていた。

楽曲の心臓部を担うのは、KEIKOの唯一無二の歌声だ。彼女の声は、どんなに激しいデジタルビートの中でも埋もれることなく、鋭く、高く、夜空を切り裂くレーザーのように放たれる。その声は、希望を歌っているようでいて、どこか壊れそうな危うさをはらんでいた。そして、そこに重なるMARCのラップは、無国籍な響きを持ち、楽曲に都会的な冷徹さと焦燥感を加えていく。

この二人の対極にある声が重なり合ったとき、楽曲は単なる娯楽としてのダンスミュージックを超えた「表現」へと昇華される。

小室哲哉は、作家として最高の状態にありながら、あえてこの曲で「過剰であること」を選択した。音数を増やし、音圧を高め、リスナーの脳内に情報を溢れさせる。その圧倒的な密度こそが、情報化社会の幕開けを象徴するサウンドデザインだったのである。

季節が刻んだ、残酷なまでの高揚

『FREEDOM』は、40万枚を超えるセールスを記録した。しかし、この曲の真の価値は数字だけでは測れない。当時の私たちがこの曲を聴いて感じていたのは、心地よい安らぎではなく、「どこまでも行ける」という全能感と、「どこにも行けない」という閉塞感が同時に押し寄せてくるような、奇妙なトランス状態だった。

深夜の高速道路を走り抜けるとき、あるいは喧騒の中に身を置くとき、この曲は常に最強のサウンドトラックとして機能した。重厚なビートは、立ち止まることを許さない時代の強制力のように響き、サビに向かって上昇していくコード進行は、終わりのない階段を駆け上がるような高揚感をもたらした。それはまさに、20世紀という時代が放った、最も華やかで、最も孤独なダンスだったのかもしれない。

あれから30年が経ち、情報の速度はさらに増し、当時の「最新」はすでに古典となった。それでも、ふとした瞬間にこのイントロの重厚な電子音が耳に飛び込んでくると、一瞬にして1996年のあの、熱に浮かされたような空気の中へと引き戻される。『FREEDOM』という名の、終わらない問い。それは今も、冷たく乾いた夜の風に乗って、私たちの記憶の底を揺さぶり続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。