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【美術ライターが選ぶ2月のアート展】「街歩き×アート鑑賞」の深い体験。“場所”をテーマにした展覧会3選

  • 2026.2.11

地域の歴史や文化は、その地に暮らすアーティストやその作品に強く影響を与えます。だからこそ、アートを深く知るためには、その土地を深く知ることが大切。今回は、「土地」や「街」をテーマにした展覧会をピックアップし、アートだけでなく、その地域についても思いを巡らせてみたいと思います。箱根、新宿、日本橋…おでかけや街歩きも楽しい場所なので、小旅行気分で訪れてみて。

「箱根」が好きになる展覧会|ポーラ美術館/「SPRING わきあがる鼓動」

展示風景より。大巻伸嗣《Liminal Air Space-Time》 2025年 作家蔵
展示風景より。大巻伸嗣《Liminal Air Space-Time》 2025年 作家蔵

箱根の豊かな自然のなかにある「ポーラ美術館(ぽーらびじゅつかん)」は、印象派から現代美術まで多岐にわたるコレクションを擁する美術館。現在開催中の「SPRING わきあがる鼓動」は、開館初となる「箱根」という土地そのものに焦点を当てた展覧会です。

展覧会の冒頭に登場するのは、箱根の自然を前に展開される、大巻伸嗣による布と空気を使ったインスタレーション《Liminal Air Space-Time》。床下から出る気流により、箱根の森を臨む展示室内をたゆたう布地は、窓から差し込む光に照らされて踊っているよう。陽の光によって違う表情を見せる作品で、午前中に見るのと、夕方に見るのでは受ける印象が異なってきます。春になったらまた見え方も変わってくるはず。自然豊かな箱根をたっぷり堪能できる作品です。

展示風景「1.はじまりの山―箱根」より。手前 初代歌川広重《東海道五拾三次 箱根》 1831-1844年(天保後期) 箱根町立郷土資料館 など
展示風景「1.はじまりの山―箱根」より。手前 初代歌川広重《東海道五拾三次 箱根》 1831-1844年(天保後期) 箱根町立郷土資料館 など

また展覧会では、江戸時代の箱根や芦ノ湖を描いた浮世絵や、明治以降に描かれた箱根を舞台にした油絵など、豊かな歴史と魅力をもつ箱根を出発点として、過去から現在、未来へとつながる作品を楽しむことができます。江戸時代の屏風と現代美術作品とをあわせて鑑賞できるのも、「ポーラ美術館」の楽しいところです。

 展示風景「1.はじまりの山―箱根」より。左 《東海道図屏風》(右隻) 江戸時代中期(18世紀) 箱根町立郷土史料館蔵 右 杉本博司《富士図屏風、大観山》2024年 作家蔵
展示風景「1.はじまりの山―箱根」より。左 《東海道図屏風》(右隻) 江戸時代中期(18世紀) 箱根町立郷土史料館蔵 右 杉本博司《富士図屏風、大観山》2024年 作家蔵

陶芸家の小川待子は、土やガラスなどの自然の力で生まれた素材を用いるアーティスト。また画家のパット・ステアは、重力の作用により壮大な滝を表現する作家です。この2名の作品のみで構成された空間は、壮大な自然の力を感じさせます。

展示風景「3.地水火風/小川待子、パット・ステア」より。手前 小川待子《月のかけら 25−P》2025年 作家蔵 奥右 パット・ステア《カルミング・ウォーターフォール》 1989年 ポーラ美術館蔵 奥中央《ウォーターフォール・オブ・ エインシェント・ゴースツ》1990年 個人蔵 奥左 小川待子 《97 −I−Ⅱ》1997年 中長小西蔵
展示風景「3.地水火風/小川待子、パット・ステア」より。手前 小川待子《月のかけら 25−P》2025年 作家蔵 奥右 パット・ステア《カルミング・ウォーターフォール》 1989年 ポーラ美術館蔵 奥中央《ウォーターフォール・オブ・ エインシェント・ゴースツ》1990年 個人蔵 奥左 小川待子 《97 −I−Ⅱ》1997年 中長小西蔵

このほかにも、「ポーラ美術館」が誇る西洋近代絵画コレクションと現代アート作品の競演があったり、名和晃平による、ガラスと鹿を組み合わせた彫刻が2体もあったりと、非常に豪華。

展示風景「5.共鳴の旅―彼方へ」より。手前は青木美歌のガラス作品
展示風景「5.共鳴の旅―彼方へ」より。手前は青木美歌のガラス作品
展示風景「エピローグ/名和晃平 」より。左 名和晃平《PixCell-Deer#74》2024年 ポーラ美術館蔵 右 名和晃平《PixCell-Deer#72(Aurora)》2022年 個人蔵
展示風景「エピローグ/名和晃平 」より。左 名和晃平《PixCell-Deer#74》2024年 ポーラ美術館蔵 右 名和晃平《PixCell-Deer#72(Aurora)》2022年 個人蔵

展覧会のタイトルに入っている「SPRING」は、箱根の代名詞である温泉(泉)のほか、まもなくやってくる「春」、そして「バネ」などの意味をもつ言葉。さまざまな感情が泉のように湧き上がってくる展覧会です。

■ポーラ美術館/「SPRING わきあがる鼓動」

会期:開催中~2026年5月31日(日)

住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285

休館日:会期中無休

TEL:0460-84-2111

入場料:一般2200円、大学・高校生1700円、中学生以下無料

開館時間:9~17時(入館は16時30分まで)

アクセス:箱根登山電車強羅駅から無料送迎バスで8分

新宿ゆかりの芸術家たちにふれる| SOMPO美術館/開館50周年記念「モダンアートの街・新宿」

展示風景より(SOMPO美術館提供)
展示風景より(SOMPO美術館提供)

新宿副都心にある「SOMPO美術館(そんぽびじゅつかん)」は1976年に開館、2026年で開館50周年になります。これを記念し開催された「モダンアートの街・新宿」は、「新宿」をテーマにした展覧会です。

新宿は、明治末期から近代芸術の主要拠点として知られていました。その要因のひとつが「中村屋」。菓子、中華まん、カレーなどで知られる、日本全国で人気のレストラン・食品メーカーです。創業者の相馬愛蔵・黒光夫妻のいる「中村屋」には、荻原守衛(荻原碌山)(おぎわらろくざん)や中村彝(なかむらつね)をはじめとする新進気鋭の芸術家たちが集まり、「中村屋サロン」が作られました。

中村彝は中村家の長女と恋愛関係になるものの破局、下落合のアトリエで体調を崩しながらも、37歳の若さで世を去るまで制作に打ち込みました。彼の作品は同世代、そして後進の画家たちに大きく影響を与えています。

中村彝《カルピスの包み紙のある静物》1923年 茨城県立近代美術館蔵
中村彝《カルピスの包み紙のある静物》1923年 茨城県立近代美術館蔵

パリで大きく才能を開花させた画家、佐伯祐三も下落合にアトリエを構え、新宿周辺を拠点に活動していた画家です。《立てる自画像》は彼の代表作であり、大阪中之島美術館の収蔵作品のなかでも人気作です。

佐伯祐三《立てる自画像》1924年 大阪中之島美術館蔵
佐伯祐三《立てる自画像》1924年 大阪中之島美術館蔵

佐伯の作品の約20年後、下落合にアトリエを構えていた松本竣介は自画像として《立てる像》を描きました。こちらも新宿を舞台に描かれた作品です。

松本竣介《立てる像》1942年 神奈川県立近代美術館蔵
松本竣介《立てる像》1942年 神奈川県立近代美術館蔵

ほかにも展覧会では阿部展也(あべのぶや)や、文芸評論家の瀧口修造らの周辺に集まった芥川(間所)沙織、福島秀子、宮脇愛子などの、新宿を舞台にした芸術家たちの作品が並びます。

左 芥川(間所)紗織《女》1954年 板橋区立美術館蔵 右 福島秀子《Work》1960年 板橋区立美術館蔵)
左 芥川(間所)紗織《女》1954年 板橋区立美術館蔵 右 福島秀子《Work》1960年 板橋区立美術館蔵)

超高層ビルが立ち並ぶ新宿は、実は芸術家たちが活発に新しい芸術を作り出す芸術都市であることがわかる展覧会。都市と芸術との関係をあらためて振り返ってみるのも楽しいですよ。

■SOMPO美術館/開館50周年記念「モダンアートの街・新宿」

会期:開催中~2026年2月15日(日)

住所:東京都新宿区西新宿1-26-1

休館日:月曜

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

入場料:一般1500円、25歳以下1100円、小中高生無料

開館時間:10~18時(金曜は20時まで、入場は閉館30分前まで)

アクセス:JR新宿駅、東京メトロ新宿駅から徒歩5分

戦後復興の過程で生まれたマーケットに迫る|高島屋史料館TOKYO/「闇市と都市―Black Markets and the Reimagining of Tokyo」

銀座4丁目付近の露店 1940年代後半 衣川太一コレクション
銀座4丁目付近の露店 1940年代後半 衣川太一コレクション

「日本橋高島屋S.C.」本館にある「高島屋史料館TOKYO(たかしまやしりょうかんとーきょー)」は、「都市にシーンを作る」をコンセプトに、独自の企画展を展開しているミュージアム。これまでにも、ショッピングモールや、団地と映画、サハリン少数民族などをテーマにした意欲的な展覧会を次々に手掛けてきました。開催中の「闇市と都市―Black Markets and the Reimagining of Tokyo」は、タイトルの通り「闇市」が題材です。

高島屋史料館 展示風景より
高島屋史料館 展示風景より

闇市の歴史は、第二次世界大戦中に遡ります。アメリカ軍の空襲による火災が周辺に広がるのを防ぐため、日本中であらかじめ建物を取り壊し、空地(防火地帯)を作る「建物疎開」が行われていました。戦後、この空地や戦争の焼け跡、路上などに人々が集まるようになり、仮設の市場が発生していきます。これが「闇市」のはじまりです。

新宿の和田組マーケット 1940年代後半 東京都公文書館提供
新宿の和田組マーケット 1940年代後半 東京都公文書館提供

この展覧会は、そんな「闇市」の空間や、組織の構造、文化について考察するもの。映画やドラマ、小説などの影響により「なんでもありの場所」だと考えられがちな闇市ですが、当時の組織体制図などから、実は警察や行政と密に連携していることがわかります。膨大な資料をわかりやすく、興味深く解説する展示がとてもたのしい!

吉村商会敷地内建物配置図 1951年頃 吉村商会所蔵
吉村商会敷地内建物配置図 1951年頃 吉村商会所蔵

建物疎開跡地に生まれたマーケットの分布図を見ると、人間は生きるために強く、そしてしたたかなんだと実感します。また、この時に誕生したマーケットの一部が「盛り場」として発展し、いまも人気のスポットになっていることもおもしろく感じます。

東京23区内の建物疎開跡地に形成されたマーケットの分布(「帝都疎開事業一般図」1944年に2025年加筆)
東京23区内の建物疎開跡地に形成されたマーケットの分布(「帝都疎開事業一般図」1944年に2025年加筆)

資料がとてもたくさんあるので、全部きちんと読むと半日はかかってしまいそう。入場無料なので、2〜3回に分けて鑑賞してもいいかもしれません。百貨店というフォーマルなお買い物空間のなかで、対極にあると考えられがちな「闇市」を扱うギャップもおもしろいです!

■高島屋史料館TOKYO/闇市と都市―Black Markets and the Reimagining of Tokyo

会期:開催中~2026年2月23日(月・祝)

住所:東京都中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋S.C.本館

休館日:火曜(祝日の場合は開館、翌日休館)

TEL:03-3211-4111(代表)

入場料:無料

開館時間:10時30分~19時30分

アクセス:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅直結、都営地下鉄浅草線日本橋駅から徒歩4分

場所を知ることも、アートに繋がっていく

今回紹介した展覧会は、場所に着目した展覧会。作品を通して、美術館が生まれた地域や都市の歴史についても思いを巡らせることができます。

 展覧会を見終わったあと、そのまま家に帰るのではなく、箱根や新宿、日本橋を散策してみてください。展覧会で知ったこと、興味を引かれたことを、街のなかで再び見たり、確認したりすることができるはず。街を歩くことがさらに楽しくなりますよ。

Text&Photo:浦島茂世

●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。

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