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第10回「あぶないチョコ味」

  • 2026.2.10

『わるい食べもの』シリーズの食エッセイでもおなじみ、食いしん坊作家の千早茜さんが、子供の頃から特別に思うチョコレート。好きであればあるほど許せないものが多くなる中で、巷にあふれるチョコ味を謳うものについて考えてみました。

好きであればあるほど狭量になる、という傾向が私にはある。例えば、梅。梅の香が好きなので紫蘇漬けの梅干しはちょっと違ったり、酸味を良しとしているので甘い梅菓子は苦手だったりする。スナック菓子でも料理でも、梅味だからといってどれも好ましいわけではない。

魂の血液と思っている茶全般はその傾向が顕著になり、紅茶味の洋菓子にはテンションがあがらず、抹茶にいたっては甘くされるだけでもう駄目だ。要するに、〇〇味というものがそんなに好きではない。焼き菓子は粉と砂糖と卵とバターの味で良くて、紅茶味のマドレーヌとか抹茶味のフィナンシェとかは求めていない。そもそも茶と菓子はセットだ。茶の味は飲み物で楽しむから不要。

では、私の心臓と呼んでも遜色ないチョコレートに関してはどうだろうか。チョコ味、もしくはカカオ味も拒絶するのか、と問われると苦しい。ものすごく多いからだ。クッキーにしろ、クレープにしろ、ドーナツにしろ、チョコ味もしくはカカオ味がないものはほとんどない。先日、甘食を買いにいき、さすがにないだろうと思ったらあってのけぞった。プリンにも、大福にもある。フレーバーの展開をする段階でまっさきにあがるのがチョコレートなのだ。みんなどれだけチョコが好きなの、と己を棚にあげて思う。

チョコ好きとしては、いくらチョコが愛されていても、安易なチョコ味(カカオ味)展開はやめていただきたい。つい、食べてしまうから。紅茶味の菓子を食べながら紅茶を飲みたくはないが、チョコに関してはココアを飲みながらチョコやチョコ味の菓子を食べてしまう。その結果、これはいける!と思うこともあるが、残念な気持ちになることが多い。

おそらく、ポイントはチョコ(カカオ)の含有量だ。ガトーショコラは好きだが、カステラやシフォンケーキやプリンのチョコ味(カカオ味)で満足したことがない。チョコの塊がゴロンと入ったチャンク系や溶かしたチョコでコーティングされているものは好き。要するにしっかりチョコレートを感じたい。カカオが香るくらいでは物足りないのだ。

問題はアイスだ。冷たすぎるせいか、どうもチョコ(カカオ)を感じにくい。含有量が多すぎると重くなりすぎてしまう。そもそも冷たいチョコがなめらかなわけないよね……と疑念が浮かび、自分がなにを食べているのかわからなくなってくる。よって、アイスはずっとパキパキ系、つまり「板チョコモナカ」や「ピノ」や『GODIVA』のハートチョコチップ入りといった、アイスとは混ざり合わずチョコがチョコとして存在しているものばかりを食べてきた。ジェラートでは『Gelateria SINCERITA』の「ストラッチャテッラ」に「板チョコの霧雨!」と感動した。

しかし、『PIERRE MARCOLINI』のグラスに出会ってしまう。バニラはもちろんフルーツやキャラメルも美味しい。「グラス ショコラ」は食べる前に少しおいて練ると、よりなめらかになり、濃厚なのにふんわりという至福を味わえる。そして、しっかりカカオの酸味や香りも感じられる。『PIERRE MARCOLINI』はショコラのパフェも美味しい。また、「パフェ オ カカオ」なるカカオティやカカオパルプを使った総カカオのパフェも期間限定で提供するくらいなのでカカオへの本気度が違う。カカオという果実の解像度が上がることを約束しよう。ここのグラスは、アイスのチョコ味ではなく、チョコのアイス展開なのだ。そういうものが増えたらいい。

こうやってぶつくさ言いながらも、新たな菓子でチョコ味がでれば、好みではないとわかっていてもつい試してしまうのだ。「チョコ味」はまるで誘蛾灯。

千早茜(ちはや・あかね)

1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2008年「魚」(受賞後「魚神」と改題)で第21回小説すばる新人賞受賞しデビュー。09年『魚神』で第37回泉鏡花文学賞、13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、23年『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞。近著に、西淑さんの挿絵も美しい短編集『眠れない夜のために』などがある。

文=千早茜
イラスト=西淑

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