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東京のスズメは大胆だった――逃げラインは東京4.2m、茨城11.1m

  • 2026.2.9
東京のスズメは大胆だった――逃げラインは東京4.2m、茨城11.1m
東京のスズメは大胆だった――逃げラインは東京4.2m、茨城11.1m / Credit:Canva

日本の国立科学博物館(科博)で行われた研究によって、東京の公園で見かけるハトやスズメなどの鳥は、地方の鳥に比べて人間に対する警戒心が格段に低いことが明らかになりました。

例えば都市部のスズメは、人が約4.2メートルまで近づいても逃げませんでしたが、地方のスズメは平均約11.1メートル手前で飛び去っていました。

さらに、この都市と田舎の差の大きさを世界のデータと比べると、東京の鳥たちはヨーロッパの都市の鳥よりも強く「人慣れ」している側に寄っていることも示されています。

鳥たちがこのような「人慣れ」を起こしたのは進化か、それとも順応なのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月23日に『Journal of Ethology』にて発表されました。

目次

  • 「慣れ」かそれとも「進化」なのか?
  • 東京のスズメは大胆だった

「慣れ」かそれとも「進化」なのか?

公園でベンチに座っていると、足元でパンくずをついばむスズメが、どんどん近づいてくることがあります。

なかには、こちらが立ち上がっても、数メートル先でチラッと見るだけで、なかなか飛び立たない個体もいます。

「昔の鳥はもっとすぐ逃げていたのでは」と感じたことがある人も多いはずです。

じつは「街にすむ動物のからだや行動は、自然の環境とはかなり違う」ということは、世界中で少しずつ分かってきています。

都市ではエサの種類も量も違い、外敵となる動物も変わります。

その結果、くちばしの形が変わったり、体重が変わったり、さえずりの音の高さが変わったりする鳥も報告されています(都市の騒音に負けないように、より高い音で歌うなど)。

また世界各地ではすでに「逃避開始距離」を比較することで「都会の鳥は田舎の鳥より逃げる距離が短い」という結果がたくさん報告されています。

しかしアジアの大都市、とくに東京のような超高密度の街で、複数の鳥をまとめて比べたデータは多くはありませんでした。

もうひとつの大きな疑問は、「この変化はゆっくりした進化なのか」という点です。

もし主に進化なら、都市に長く住んでいる種ほど大胆になっているはずです。

逆に、主に学習なら、都市に来てからあまり時間がたっていなくても変化が見えてくるかもしれません。

そこで研究者は、「東京とその周辺の田舎で、同じ鳥を並べて測ったらどう見えるか」「都市に住みついた時期と、怖がり方の変化には関係があるのか」をはっきりさせようと考えました。

もし通学路や通勤路で見ている鳥たちの“心の安全距離”が、どれくらい都会仕様に書き換えられているのかが見えてきます。

それは、人と野生動物がこれからどう距離を取って生きていくかを考える、重要なヒントになるはずです。

東京のスズメは大胆だった

調査が行われたのは、都市側が東京23区内の公園や緑地12か所、農村側が茨城県南部の農村地帯18か所です。

対象になったのは、キジバト、ハシブトガラス、シジュウカラ、ヒヨドリ、ムクドリ、スズメ、ハクセキレイの7種でした。

やり方はシンプルです。

観察者が鳥に向かってゆっくりまっすぐ歩いて近付き、鳥が飛び立つか走って逃げた瞬間の距離を測定します。

これが逃避開始距離です。

同時に、「歩き始めたときの距離」や「近くに木や茂みといった隠れ場所があるか」といった条件もメモしておき、あとで統計解析のときに影響をならす工夫もされています。

その結果、七種すべてで、東京の個体は茨城の個体より逃げ出す距離が短いことが分かりました。

スズメでは、茨城で平均十一メートル前後、東京で平均四メートル前後と、およそ二倍以上の差がついていました。

ほかの種でも、「田舎ではかなり手前から逃げるのに、東京ではかなり近くまで平気」というパターンが共通していました。

さらにこの値を、過去のメタ解析で集められた世界各地の鳥のデータと並べて比べてみると、日本(今回の東京と茨城のデータ)の箱ひげ図は、ヨーロッパの箱ひげより高い位置にありました。

つまり、「都市と田舎の差の大きさ」という点では、東京の七種はヨーロッパの都市の鳥よりも強く人に慣れている側に寄っていることになります。

もう一つおもしろいのは、「いつから都会に住み始めたか」と「どれくらい人を怖がらなくなっているか」の関係を調べた結果です。

各種が東京に定着した年代(たとえば1920〜1930年代から、あるいは1970年代から)を調べました。

すると「昔からいる種ほど差が大きい」といった単純な傾向は見られませんでした。

古くから都市にいる種も、比較的最近進出した種も、同じように「人に対して逃げる距離」が短くなっているのです。

ではなぜそんな変化が起きたのでしょうか?

研究者がまず示唆しているのは、「逃げることにも代償がある」という考え方です。

鳥にとって逃げる行動は安全を買うかわりに、エサを食べる時間や体力を失う“コスト”になります。

人がまばらな田舎なら、たまに人が来たときだけ大きく距離を取っても、生活は回ります。

ところが、東京の公園のように人が次々に通る場所では、田舎と同じように毎回大げさに逃げていたら、一日中落ち着いて食べることができなくなります。

つまり都会では、「逃げないほうが損をしにくい」状況が生まれやすい、というわけです。

もう一つの見方は、学習の積み重ねです。多くの場合、人間は鳥にとって本当の捕食者ではありません。

何度も近づかれても実害がない経験が続くと、「このくらいの距離なら大丈夫だ」という安全ラインが更新されていきます。

研究では、都会に住み始めた時期が違う種どうしでも、同じように“逃げない方向”へ寄っていたことが示されており、長い時間をかけた遺伝的な変化だけでなく、比較的短い期間の「慣れ」で行動が変わりうる、という予測につながります。

(※類似の研究では都市環境で鳥たちの進化が起きていることを示唆するものもあります)

今後の検証点として研究者たちは、「人に対する警戒が下がった鳥は、捕食者に対する警戒まで下がっていないか」「行動の差に遺伝的な要素がどれほど混ざっているか」といった方向を挙げられています。

もしかしたら未来の世界では、「この街は人慣れ度★5のスズメが見られる観光地です」といった、鳥の“度胸指数”までガイドブックに載るようになるかもしれません。

参考文献

都市の鳥はリスクを回避しない傾向をもつ ~大都市東京で野生鳥類の警戒性の低下を実証~
https://www.kahaku.go.jp/news/albums/abm.php?d=3990&f=abm00019138.pdf&n=20260127_press.pdf

元論文

Risk-taking behavior of birds in urban environment: assessment using flight initiation distance in Tokyo, Japan
https://doi.org/10.1007/s10164-025-00881-5

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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