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「ミラノ・コルティナ2026 冬季オリンピック」建築・デザインにまつわるトピック10

  • 2026.2.9
Getty Images

「ミラノ・コルティナ2026 冬季オリンピック」が、ついに開幕した。開催国のイタリアといえば、デザイン大国。建築・デザインの視点からも見どころが多い。

サステナビリティに力を注ぐ本大会では、会場の90%以上が既存の建築あるいは仮設施設。そのため、開会式の会場となった築100年の「サン・シーロ」のほか、古代ローマ時代の円形闘技場までも活用される。デザイン好きとしては、その中にあって唯一新たに建設されたデイヴィッド・チッパーフィールドによるアリーナも見逃せない。

本記事では、建築・デザインにまつわるトピックを紹介しつつ、競技観戦と共に巡りたい「デザインの聖地」も提案。熱戦に注目しつつ、その会場や街並みにも注目して、スポーツの祭典をさらに楽しもう。



© Fondazione Milano Cortina 2026

オリンピック・パラリンピック史上初、2つの聖火台が登場

今回、2つの聖火台が同時に点火され、消火される。これは、オリンピック史上初めてのこと。ミラノの「アルコ・デッラ・パーチェ(平和の門)」と、コルティナの「ピアッツァ・ディボナ(ディボーナ広場)」に、それぞれ設置された聖火台は、開会式のクリエイティブ・ディレクターを務めるマルコ・バリッチが、リダ・カステッリとパオロ・ファンティンと共にデザインしたもの。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされる幾何学模様「ダ・ヴィンチ・ノット」を着想源に、生命・エネルギー・再生の源である太陽へのオマージュを捧げた。

© Fondazione Milano Cortina 2026

航空用の軽量アルミニウムで作られた2つの聖火台は、完全に同期。分散開催の本大会において、約250km離れた場所で輝く2つの炎は、各地域が常に連動し、一体となって大会を形作る姿を象徴している。

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史上初、オンライン投票で選ばれたエンブレムデザイン

オンライン投票による大会エンブレム決定は史上初の試み。最終候補として残った「ロゴ・フトゥーラ」と「ロゴ・ダド」による決選には、169カ国から計87万1000票が投じられ、約75%の支持を得たロゴ・フトゥーラに軍配が上がった。

フトゥーラ(Futura)は、イタリア語で“未来の”を意味する言葉。無限の可能性を表す白いキャンバスを背景に見えるのは、一筆書きの「26」という数字だ。冬の寒い日、部屋の中にいる子どもが曇ったガラス窓に指を動かす姿をイメージした。小さな動きひとつで、世界をよりサステナブルで公平な状態へ導くことができる、という思いも込められている。

View towards the main entrance© Noshe

デイヴィッド・チッパーフィールドによる五輪アリーナ

既存施設を可能な限り活用するなどサステナビリティに重きを置く今大会において、唯一の新築プロジェクトが、「アレーナ・イン・サンタ・ジュリア」。設計は、2023年にプリツカー賞を受賞したデイヴィッド・チッパーフィールドと、国際的なエンジニアリング、コンサルティング会社のアラップが協働して行った。

Façade detail with large-scale media integration© Noshe

古代の円形闘技場に着想を得た楕円型のアリーナを囲むのは、上昇するにつれ拡大する3つのリング。日中は表面に垂直方向に敷き詰められたアルミニウム製のチューブが存在感を示してメタリックな印象を与えるが、夜になるとLEDが発光し、周囲を照らし出す。

16000人を収容するアリーナは、大会後も都市再開発地区「サンタ・ジュリア」の核として、コンサートやスポーツに使用される予定だ。

Arena in Santa Giulia
住所/Via Romualdo Bonfadini, 148, 20138 Milano MI

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五輪のあと消える、伝説のスタジアム「サン・シーロ」

イタリアらしい洗練されたスタイルとドラマチックな演出で約77000人の観客のみならず世界を魅了した開会式。その会場となった「サン・シーロ」(正式名称はジュゼッペ・メアッツァ・スタジアム)は、当時ACミラノの会長だったピエロ・ピレリ主導の下で1926年に誕生した“サッカーの聖地”。以来、セリエAの名門チームであるACミランとインテルの本拠地としての役割を果たしてきた。

大規模改修の際に加えられた11本の円柱と巨大な赤い鉄骨トラス梁の屋根が特徴的な「サン・シーロ」。1990年には「FIFAワールドカップ」が開催され、世界的なミュージシャンたちがコンサートを行うなどミラノを象徴する存在として愛されてきたが、本大会後に、解体される予定だ。

Stadio Giuseppe Meazza (San Siro)
住所/Piazzale Angelo Moratti, 20151 Milano MI

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閉会式は紀元1世紀の古代建築「アレーナ・ディ・ヴェローナ」で

千年以上の歴史を誇り、ルネサンス期の建築が街並みを彩るヴェローナ。「アレーナ・ディ・ヴェローナ」は、この街の中心にある古代ローマ時代の円形闘技場で、かつて剣闘士たちの戦いが繰り広げられた場所。ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスから、4代皇帝のクラウディウスの時代に建設され、西暦30年頃には完成していたと伝えられる。

古代ローマ時代には闘技、その後はさまざまな興行が行われてきたが、1913年にヴェルディの『アイーダ』が初めて上演されると、世界最大の野外オペラ会場として名を広めていく。この歴史的建造物が、オリンピック閉会式とパラリンピック開会式の舞台として新たな歴史を刻む。

Arena di Verona
住所/Piazza Brà, 1, 37121 Verona VR

Dave Burk © SOM

SOMが手掛けた、鉄道跡地の選手村

本大会の選手村は、ミラノ中でもひときわ活気のあるポルタ・ローマ地区に位置する旧鉄道操車場跡地に建てられた。設計を手掛けたのは、アメリカ・シカゴを拠点とするスキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル(Skidmore, Owings & Merrill、以下SOM)だ。

ミラノの街を彩る伝統建築に着想を得たSOMは、公共緑地が点在する敷地内に、選手が生活する6棟の建物を新築。さらに、2棟の歴史的建造物をリノベーションした。

大会後の2026年3月以降は学生寮や家族向けの住宅として利用される予定で、ミラノ中心部と周辺地域を結びつけるポルタ・ロマーナ鉄道地区マスタープランの一部に統合される。

© Fondazione Milano Cortina 2026

コルティナの雪山に溶け込むステルス建築

カーリングの試合が行われるほか、パラリンピックの閉会式の会場となるのは、「スタディオ・オリンピコ・デル・ギアッチョ(コルティナ・カーリング・オリンピックスタジアム)」。世界遺産ドロミテの絶景を主役にしたガラス張りの、いわばステルス建築だ。

1956年に開催された「コルティナ・ダンペッツォ1956冬季オリンピック」に合わせて建設された本スタジアム。本大会のために実施された改修工事では、オリジナルの木造様式を継承しつつ、石材やガラスを多用。さらに建物の高さを抑え、稜線に合わせた傾斜屋根を採用することで、その姿が雪山に溶け込むように仕上げられた。

Stadio Olimpico del Ghiaccio
住所/Via Alberto Bonacossa, 1, 32043 Cortina d'Ampezzo BL

Getty Images

ミラノとコルティナをつなぐ、時速300kmの建築

実は、ミラノとコルティナ・ダンペッツオ間は、同じイタリア国内とはいえ、実は直線距離で約250km、移動距離だと約400kmも離れている。そこで、移動手段としておすすめなのが、イタリアが誇る高速鉄道車両「フレッチャロッサ(Frecciarossa)」だ。

イタリア語で“赤い矢”を意味する名の通りの鮮やかな赤色と、流線的なラインが特徴的。中でも時速300kmに対応する形式「ETR500」には、フェラーリのデザインで知られる「ピニンファリーナ」も関わるなど、イタリアの鉄道デザインは、まさに動く建築。長距離の移動中もイタリアンデザインを楽しもう。

EA7 EMPORIO ARMANI

オリンピック後、ミラノはそのままファッション・ウィークへ

本大会でイタリア代表の公式ウェアのデザインを担当したのは、「EA7 エンポリオ アルマーニ」。「エンポリオ アルマーニ」のスポーツラインで、サッカーのイタリア公式選手団のオフィシャルスーツをはじめ、さまざまなスポーツチームへのユニフォームデザインの提供でも知られる。

2026年2月22日にオリンピックが閉幕すると、そのわずか48時間後(2月24日)には、この「エンポリオ アルマーニ」も参加するミラノ・ファッションウィークが開幕する。オリンピック観戦後、ミラノに観光客と、世界中から集まるファッション・エディターが街中に混在する稀有な光景を目にすることができそうだ。

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五輪を巡る「デザイン聖地巡礼」

アリーナ・イン・サンタ・ジュリア + フォンダツィオーネ・プラダ

アイスホッケーの試合が行われる「アリーナ・イン・サンタ・ジュリア」から、地下鉄を使い、30分ほどで到着するのが、プラダ財団が2015年にオープンした「フォンダツィオーネ・プラダ」だ。設計は、レム・コールハース率いるOMA。既存の建物7棟をリノベーションし、新たに3棟を設計した。この3棟のうち「ポディウム」で企画展、「トッレ」で常設展が催され、「シネマ」はマルチメディア対応のホールとして使われている。

オリンピック期間中(〜2026年2月22日)は、「ポディウム」でメキシコ出身の映画監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥによる展示を開催。施設内には、映画監督のウェス・アンダーソンがデザインを手掛けたカフェ「バー・ルーチェ」も。

Fondazione Prada
住所/Largo Isarco, 2, 20139 Milano MI

Aflo

サン・シーロ + シティライフ

開会式が行われた「サン・シーロ」からほど近い場所にあるのが、ザハ・ハディドと磯崎新、ダニエル・リベスキンド設計による建築が立ち並ぶ「シティライフ」。地下鉄で約15分、徒歩でも30分ほどで到着することができる。

国際見本市「ミラノ・サローネ」の会場であった旧フィエラの移転に伴い、約366,000㎡におよぶ広大な跡地の再開発計画がスタート。178,000㎡もの豊かな市民公園が整備され、3人のスター建築家による個性的なオフィスタワーやレジデンスなどが次々と誕生した。中でも、ハディドが設計したショッピングセンターにはさまざまなショップやカフェ、レストランも入り、敷地内で1日楽しめそうだ。

現在は、再開発の最終章としてビャルケ・インゲルス率いるBIGによるオフィスビル「シティウェーブ」が建設中。本大会が行われる2026年内の竣工を予定しており、ミラノの新たな顔として期待されている。

<写真>左から、それぞれハディド、リベスキンド、磯崎によるタワー。

CityLife
住所/Via Bartolomeo Colleoni, 14, 20149 MI

Aflo

コルティナ・ダンペッツォ + 建築家カルロ・スカルパの名作

コルティナに来たら、この機会を利用して足伸ばし、イタリアの巨匠建築家カルロ・スカルパの名作を訪ねてみては?

コルティナ・ダンペッツォから車を30分ほど走らせると、実業家のエンリコ・マッテイが建築家エドアルド・ゲルナーに依頼を受けて計画した村、ENIヴィレッジに着く。ここに立つ「ノストラ・シンニョーラ・デル・カドーレ」は、ゲルナーとその友人だったカルロ・スカルパが手を組み、設計した教会だ。木製の座席や祭壇などに、素材使いに長けたスカルパの痕跡を見つけることができる。

もう少し遠出をする余裕があれば、コルティナから2時間半ほどの村、サン・ヴィート・ディ・アルティヴォーレにある「ブリオン家墓地」(写真)へ。スカルパによる傑作としても名高いこの建造物は、ブリオンヴェガ社の設立者であるジュゼッペ・ブリオンの妻、オノリーナ・トマシン=ブリオンがスカルパに依頼したもの。幾何学的な要素を重ねながらも、光の入り方や量を調整し、水の動きを取り入れるなどして精神性を高めている。2度の来日経験があるスカルパが日本文化から受けた影響が認められるのも興味深い。

<写真>ブリオン家墓地の礼拝堂。

Nostra Signora del Cadore
住所/Via Metanopoli, 314, 32040 Corte BL

Brion Tomb
住所/Via Brioni, 31030 Altivole TV

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