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先住民の薬物に「PTSDへの治療効果」がある可能性

  • 2026.2.9
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

戦争や事故、災害といった強烈な体験のあと、心に深い傷を残す心的外傷後ストレス障害(PTSD)

薬物療法や心理療法が用いられてきましたが、十分な効果を得られない人も少なくありません。

そうした中、アマゾン先住民が伝統的に用いてきた幻覚剤「アヤワスカ」が、PTSD症状を和らげる可能性を示す研究が注目を集めています。

ただし、その効果や仕組みには、まだ多くの謎が残されています。

目次

  • PTSDを患った軍人の体験談
  • 科学はどこまで効果を測れているのか

PTSDを患った軍人の体験談

アヤワスカは、南米アマゾン地域の先住民社会で宗教儀礼や治癒目的に用いられてきた植物性の幻覚剤です。

アヤワスカのつる/ Credit: ja.wikipedia

近年、この物質が心のトラウマに作用する可能性が、退役軍人の体験談を通じて広く知られるようになりました。

米海軍の元戦闘機パイロット、キーガン・ギル氏もその一人です。

複数回の重度の脳損傷と強いストレスを経験した彼は、遅発性PTSDと診断され、薬物治療を続けながらも精神状態が悪化していきました。

やがて自殺念慮にまで追い込まれます。

転機となったのが、退役軍人を海外の管理下にあるサイケデリック療法につなぐ非営利団体・Heroic Hearts Project(HHP)との出会いでした。

ペルーで行われたアヤワスカのセッションを通じて、ギルは「回復への道が開けた」と語っています。

HHPはこれまでに1100人以上の退役軍人とその配偶者を対象にリトリートを実施してきました。

その目的は、PTSD症状の軽減や生活の質の向上です。

ただしアヤワスカは米国では規制薬物に分類されているため、こうしたプログラムは合法な国でのみ行われています。

科学はどこまで効果を測れているのか

体験談が数多く語られる一方で、科学的検証はまだ初期段階にあります。

HHPの研究部門は、2021〜2024年にかけて58人の退役軍人を対象とした観察研究を実施しました。

そのうち45人がアヤワスカ、13人がシロシビンを用いたリトリートに参加しています。

その結果、両グループでうつ症状は平均29%、PTSD症状は26%減少しました。

不安や睡眠、情緒的安定、生活の質にも改善が見られたと報告されています。

PTSDの診断基準を満たしていた参加者のうち、8割以上が、治療後には基準を満たさなくなったという点も注目されます。

ただし、この研究はプラセボ対照の無作為化臨床試験(=効果のない偽薬と比べて、本当に効いているかを確かめる厳密な試験)ではありません。

そのため、症状の改善がアヤワスカそのものによるものなのか、心理的サポートやリトリートという環境全体の影響なのかを切り分けることはできません。

さらにアヤワスカは、精神活性物質DMTとβ-カルボリン類を含む植物性混合物で、成分濃度が一定ではありません。

この点が、単一分子であるMDMAやシロシビンと比べ、臨床研究を難しくしています。

こうした課題を踏まえ、テキサス大学オースティン校デル医学校のサイケデリック研究チームは、HHPと協力し、PTSDをもつ退役軍人の脳活動がアヤワスカ体験後にどのように変化するかを調べる研究を進めています。

脳画像や脳波(EEG)を用いて、生物学的な指標としてPTSDの変化を捉えようとする試みです。

正式な治療薬となるか?

研究者たちは、アヤワスカが、固定化した心理パターンを一時的に崩し、その後に脳の可塑性を高める可能性があると考えています。

ただし、それだけで回復が完結するわけではありません。

HHPのリトリートでは、体験後の振り返りや心理的統合、生活習慣の見直しが重視されています。

実際、ギル氏自身も、睡眠や運動、栄養、自然や人とのつながりを意識したことで、回復が進んだと語っています。

先住民の知恵として受け継がれてきたアヤワスカが、現代医学の文脈でPTSD治療にどこまで貢献できるのか。その答えはまだ出ていません。

しかし、心の回復に新たな可能性を示していることだけは、確かなようです。

参考文献

Psychedelic drug ayahuasca could treat PTSD, early studies hint. But exactly how it works isn’t clear.
https://www.livescience.com/health/psychedelic-drug-ayahuasca-could-treat-ptsd-early-studies-hint-but-exactly-how-it-works-isnt-clear

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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