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朝ドラ【ばけばけ】吉沢亮演じる錦織の魅力!物語最大のキーパーソンに迫る。「もし彼がいなければ…」

  • 2026.2.9

朝ドラ【ばけばけ】吉沢亮演じる錦織の魅力!物語最大のキーパーソンに迫る。「もし彼がいなければ…」

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

運よく成功した者に対する「ひがみ」「やっかみ」が爆発する

朝ドラという半年にわたり届けられる作品は、「もう半分折り返しちゃった」と感じたり「あと1カ月もやるのかよ」と、作品ごとに時間経過の感覚のようなものが異なるのではないだろうか。

髙石あかりがヒロインをつとめるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』も、2月に入り、気づけば残り3分の1。もともと掲げた「何も起こらない」物語を描くというコンセプトはあったものの、さまざまなエピソードを楽しむうちにあっという間に3分の2を消化したといった感覚をおぼえる。

今さら説明するまでもなくこの物語は、今も世界中で読まれ続ける『怪談』を残した、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と、その妻・小泉セツの夫婦をモデルとしたものである。「何も起こらない」とはいうものの、いつか『怪談』が書かれる時がくる。そこにたどり着く過程はまだまだ楽しみにできそうだ。

放送された第18週「マツエ、スバラシ。」は、ここ数週の流れである主要な登場人物たちの環境の変化による微妙な人間関係のゆらぎのようなものを丁寧に描いてきたその延長のようにストーリーは展開する。

作品冒頭からトキの家族、松野家を苦しめ続けてきた多額の借金は、ついに完済された。松野家ではその借金完済パーティを開催するなど晴れやかな気持ちに包まれていた。その模様を、記者の梶谷(岩崎う大)が「松江新報」に連載し、ヘブンとトキを一躍時の人とした「ヘブン先生日録」に借金完済したことも含め記したが、借金完済はヘブンのおかげであること、そしてトキは借金のカタとしてヘブンに売られた〝ラシャメン〟であると、事実と異なるかたちで伝えられてしまった。

これを読んだ世間の空気は一変、あれだけスター扱いだったヘブンとトキへの世間の風当たりが強いものとなってしまう。これまで街を歩けばキャーキャー取り囲まれていた生活から、陰口をたたかれたりジロジロ軽蔑の眼で見られたり、さらには石を投げられトキが怪我を負うようにもなり、そんな状況から隠れるように、真逆の理由で変装して歩くようになってしまった。松野家には、ガラクタなどが投げ込まれ、中には〝ラシャメンおトキ〟と書かれたうちわもあったりする始末だ。

「シンデレラ」と言われ、華やかな存在になることで、時には「ちょっと嫌なやつ」のように見られかねない危うさはこれまでにも描かれてきたが、一気に坂道を転げ落ちるような「嫌われ者」になってしまうという、人が心の底に秘める「ひがみ」「やっかみ」のようなものが具現化されたような展開となった。

話は少しそれるが、視聴者サイドの世界、SNS上でもトキのシンデレラぶりに好感を抱けないといった意見を時折見かけたこともある。運よく成功した者に対する「ひがみ」「やっかみ」が、物語の中で爆発したかたちとなった。実際には違うものの、〝ラシャメン〟に対する職業差別的感覚と侮蔑。人が抱くイメージというものの恐ろしさをクッキリと見せつけられたかたちだ。

錦織こそこの物語最大のキーパーソンで

ヘブンとトキを心配して、そんな松野家を訪れたのは、錦織(吉沢亮)だ。時に頼りなさそうな扱いを受けたりするものの、ヘブンの来日時からずっと世話をし続け、見守ってきた存在である。

「ホントウノトモダチ」
ヘブンがそう言って感謝したのも本心からのものだろう。

日本、松江でヘブンが時には「ジゴク、ジゴク」と毒づきながらも定住し、『日本滞在記』を完成させ、トキと所帯を構えるまでに至ったのは錦織がいたから。そこは異論を挟む余地はないだろう。錦織がいなければトキと結婚することもなく、早々に出国し、もしかしたら『日本滞在記』も完成していなかったかもしれない。錦織こそこの物語最大のキーパーソンであるはずだ。

錦織ばかりではない。「私のせい?」と泣きながらやってきたサワ(円井わん)や、なみ(さとうほなみ)、庄田(濱正悟)、そしてヘブンの教え子たち……つぎつぎと松野家をおとずれ、心配して守ってくれる。「何も起こらない」ことを積み重ねてきた物語の中で、作り上げてきたものがしっかりある。ヘブンとトキは良くも悪くもゴシップに振り回される世間と違い、ふたりを真に愛する人たちがちゃんといること、その「思い」の尊さが確認できる展開だ。

そんな〝ラシャメン〟報道からの加熱ぶりは、一気に収束してしまう。それは、松野知事(佐野史郎)の食い逃げが報じられ、一気に世間の耳目がそこに移ってしまったためだ(これもまた、単なる払い忘れではあるわけだが)。いずれにせよ、マスコミの影響力、ゴシップへの風当たり、それに振り回され、加熱し冷めていく世間の無責任、その恐ろしさ、馬鹿馬鹿しさが突きつけられるような出来事であった。

報道によって苦しむトキにそっと寄り添うヘブンもまた、自身が異人であるだけでアゲられたりサゲられたりする経験を重ねてきたことでトキの気持ちを理解する描写は、これまでの丁寧な人物像の構築が感じられる描写だ。騒動が落ち着き、異人と一緒になったせいだと謝るヘブンの真摯な姿勢には胸を打たれる。そして、それを否定し、二度とそういうことで謝らないでほしいと言うトキ。ヘブンとトキは、心の底から通じ合う夫婦になれていることがあらためて確認できるやりとりである。

そんななか、ついに『日本滞在記』が出版され、好調な売れ行きをみせる。これによってまだまだ書いてほしいという流れも生まれ、『怪談』への期待値も高まる。いっぽうでまた、ヘブンが〝スバラシ〟と愛する松江を離れる時がいつか訪れそうな空気も漂いはじめる。

「何も起こらない」物語に次々起こり、訪れる何か。平穏無事ばかりでないそれぞれの登場人物の人生は、まだまだ何度も大きく展開しそうである。

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