1. トップ
  2. 恋愛
  3. 【web著者インタビュー】一条ゆかりさん「私の人生、山あり、谷あり!ぜんぶ描き切りました」

【web著者インタビュー】一条ゆかりさん「私の人生、山あり、谷あり!ぜんぶ描き切りました」

  • 2026.2.8

『有閑倶楽部』『デザイナー』『砂の城』と、マンガ史に残る数々の名作を世に送り出してきた一条ゆかりさん。最新エッセイでは、マンガ家としての原点や、作品制作と向き合い続けた日々が率直な言葉で語られています。作品の背景にある徹底したプロ意識、そして「終活」を始めたという今の日常についても伺いました。

仕事は絶対に“妥協なし!”。私生活は“ふしだらでよし!”

——『「私の履歴書」にうっかり出たら、家の掃除をするはめに』では、変わり者の少女だった一条さんがマンガ家を志して岡山から上京し、作品作りに心血を注ぐまでの半生が綴られています。これまで語られなかった “裏歴史”のエピソードも多いですよね。

一条ゆかりさん(以下、一条)「あんなこともあった、こんなこともあった」と振り返ってみると、私の人生、意外と山あり、谷ありで面白かったんですよね。仕事さえちゃんとしていれば、私生活は犯罪記録に残らなければ何をしてもいい、というのが私の流儀。仕事だけは絶対に妥協したくないけど、何もかも真面目にやろうとしたら自分が壊れちゃうから、私生活はギリギリまでふしだらにしてよし、と(笑)。20歳くらいのときにそう決めたんですよね。

——まだ若いときから、そうしたプロ意識があったんですね。

一条 大家族の末っ子だったから、というのは大きいと思いますね。一番上の姉とは10歳離れていたので、子どもの頃から大人の視点も持っていました。

——マンガ家を目指したきっかけは何だったんでしょうか。

一条 中学生のとき、とあるプロ野球選手が引退したニュースを見て、ショックを受けたんです。当時、彼はまだ40歳。80歳まで生きるとしたら、リタイア後も40年以上あるんだ……! と。老後まで含めて、真面目に人生を考えた方がいいんじゃないかと15歳にして思ったんですよ。ただ、私は小学生の頃から「結婚は地獄だ」と思っていたの。なにしろ、母は師範学校まで出た名家の娘だったのに、世間知らずだった父のせいで財産を失って苦労しましたから。だから恋愛はしても、結婚はしないでおこうと決めた。じゃあ、老後に必要なものは “友達と金”だな、と。若いときにしか稼げない職業はやばいから、死ぬまでできる仕事がいいな、と思って。もともとマンガが大好きでしたしね。小説家にも憧れて、小説を書こうとしたんだけど、「建物がつる薔薇に囲まれて……」みたいな最初の風景描写の段階で、「絵で描いた方が早い!」とイライラしちゃって(笑)。いいなと思う職業はすべて挫折して、マンガだけが残ったんです。

——でも、ファッション業界を舞台にした『デザイナー』という作品もありますし、そのときにいろんなジャンルに挑戦した時間も、作品の土台になっているんですね。

一条 マンガの小さなフキダシに収まるセリフを考えることは詩に近いし、インテリアの知識も背景の描写に役立つんです。連載を始めるときは、まず主人公の家の見取り図を描いて、ドアはここ、窓はここ……と決めるんです。

——プロデビュー後は順調に?

一条 クソ生意気な態度を取っている少女マンガ家だって知れ渡っていたんじゃないでしょうか。嫌なものは嫌、とハッキリ言うタイプでしたから。デビュー直後の、喉から手が出るくらいに連載が欲しかった時期に、バレーボールを題材にして連載をしないかという話があったんです。当時は「あしたのジョー」や「巨人の星」が大人気でしたから、少女マンガ誌でもスポーツものをやろうと。でも、私はいやだったの。それで、何でも即決するタイプの私が「すみません、3日間考えさせてください」と。部活に命をかけるなんておかしい、と考える性格だし、そもそも団体競技も大嫌いだし。ミスしたときにチームメイトが「ドンマイ!」「ファイト!」とか言ってなぐさめるのも好きじゃない。それで泣く泣くお断りしました。

嘘の中に“本物”を置くと、物語はリアルになる

——一条さんの作品はファッションも建築の描写も細かい部分までリアルですよね。

一条 そう、いかにリアルに見せるかが大事。私がつくった嘘のお話に本物を入れることで、読む人は嘘の世界を信じられるんです。そうそう、『有閑倶楽部』に、フィレンツェのウフィツィ美術館で、悠理(ゆうり、メインキャラクターのひとり)が灰皿と間違えてメディチ家の家宝を盗んじゃう回がありますよね。あれ、半分実話なんですよ(笑)。私がウフィツィ美術館で、その絵皿を見て、「ここでタバコ吸っていいのかな…?」と勘違いしたエピソードを入れたんです。

——事実を混ぜているからこそ、リアルに感じられるんですね。

一条 ただ、その分調べるのが大変なんですよ。オペラを題材にした『プライド』を描き始めたとき、私自身はほとんどオペラに興味がなかったんです。でも、お金持ちのお嬢さまと貧乏な苦学生……という対照的なふたりを描くのに、オペラがちょうどよかったんですよね。最初は乗馬も考えたけど、紳士のスポーツなので、卑怯なことができない。ピアノやバイオリンは描くのが面倒くさいし。でもオペラなら楽器はあまり描かなくていいし、女の子が好きな煌びやかな衣装も描けるし。いざ連載が始まったら、「オペラ界を盛り上げてほしい」とすごく期待されて、「ほとんど知りませんなんて今さら言えない!」と猛勉強しました(笑)。取材でウィーンにも行きましたね。留学生の部屋を訪ねて、冷蔵庫の中まで見せてもらったり、普段買いものに行く市場を案内してもらったり…。作者としては、読者がウィーンへ旅行したとき、「あ、ここ見たことがある!」と思ってくれたら嬉しいです。

——今はマンガ制作からは離れていらっしゃいますが、もう作品はお描きにならないのでしょうか。

一条 長年悩まされていた腱鞘炎(けんしょうえん)はよくなってきたけど、緑内障が進んでしまって。細かい文字や絵をチェックするのがしんどいんですよ。それに、マンガ家として描きたいものは全部描き尽くしましたから。ただ、『有閑倶楽部』の続編についてはさんざん聞かれたので、これだけはなんとかしないと、と。『不倫、それは峠の茶屋に似ている』というエッセイ集で「その後の有閑倶楽部」を描いたんです。清四郎と魅録がふたりで NASAに行くのも面白いな……とか、メンバーのその後についてもいろいろ考えたんですよ。アシスタントなしで、背景からすべて一人で描いたので大変でしたけど、ようやく「あの子たち、どうなるの?」という攻撃から逃げられました(笑)。

いろんな健康法を試しています 将来も自力で暮らせるのが理想

——このエッセイのタイトルとも関連しますが「終活」を始められたとのことですが。

一条 連載をやめて、プロダクションを解散してからは、終活に向けて部屋を片づけています。地下の倉庫に要らないものを何でもかんでも置きっぱなしにしているので。見られて恥ずかしいものはないけど、私が死んだとき、片づける人が困るものは処分しておこうと。とくに、どうしようかと迷っているのが、山のようにある原稿。美術館をつくったら? と言われることもあるけど、それも面倒で。私的には、死んだらヤフオクで売られていてもいいや、と思ってるんです(笑)。

——今の、日々のルーティンについてもぜひ教えてください。

一条 今まではマンガ家というだけで、昼過ぎに起きようが、パジャマでゴミ捨てに行こうが、許してもらえていたんですよ。でも、今までやっていなかった“正しい生活”を送ろうと。朝日とともに起きようとしたこともあったけど、さすがに無理でしたね。今は8時〜9時の間に起きて、水耕栽培で育てている植物を、わが子のように見守るのが日課です。
それといろんな健康法を試しています。“理想的な老後の食事”にも凝っていて。ビタミン剤を摂って、たんぱく質と炭水化物をバランス良く取るようにしています。最近ハマっているのはレンズ豆とひよこ豆。足腰を鍛えるため、週3〜4日は6000歩以上歩くようにしています。なぜこういう生活をしているかというと、寿命と健康寿命を一致させたいから。長生きしたいわけじゃないけど、私は心臓も丈夫だし、運もいいから、絶対に長生きすると思うんですよ。誰の世話にもならない、というのは難しいとしても、ひとり暮らしですし、なるべくできることは、自分でやるのが理想ですね。

いつもインタビュー取材では「少女マンガ家のイメージにふさわしい、ゴージャスな服を着る」という一条さんですが、この日は撮影があることを知らず、カジュアルなスタイルに。「スカートは、よく行く吉祥寺の古着屋で買ったもの。500円には見えないでしょ!?」

唇が乾きやすいので、リップクリームは必須。「いつでもさっと出して塗れるように、安全ピンで服に留められるクリップを手作りしました。家には柄違いでいくつもあります」

『「私の履歴書」にうっかり出たら、家の掃除をするはめに』
著/一条ゆかり
¥1,760(集英社)

日経新聞の名物連載「私の履歴書」の内容に加筆したエッセイ集。6人きょうだいの末っ子として育った子ども時代から、「りぼん」でトップ作家となるまで。“少女漫画界のレジェンド”が、多くの名作の裏で重ねてきた努力と執念、そしてユーモアあふれる日常を綴った、飾らない半生記です。

撮影/かくたみほ 取材・文/工藤花衣

*画像、文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

ファッション、美容、更年期対策など、50代女性の暮らしを豊かにする記事を毎日更新中! ※記事の画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる