1. トップ
  2. 『禍禍女』ゆりやんレトリィバァ監督と南沙良が撮影を通して築いた絆「一緒にいいものを作りたいという想いで臨んだ、転機にもなった作品」

『禍禍女』ゆりやんレトリィバァ監督と南沙良が撮影を通して築いた絆「一緒にいいものを作りたいという想いで臨んだ、転機にもなった作品」

  • 2026.2.7

芸人、俳優、ラッパーなどマルチな活動で注目を集めている、ゆりやんレトリィバァが念願の初監督で放つ『禍禍女』(公開中)。世界三大ファンタスティック映画祭のひとつ、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭を皮切りに、世界中の映画ファンをすでに熱狂と興奮の渦に巻き込んでいる本作は、ゆりやんの恋愛体験をベースに、好きになった男に執拗につきまとう“禍禍女”の狂気と妄想を、圧倒的な映像表現とこだわりの世界観で描く超絶恋愛映画だ。

「自分の殻をここまで破ることになるとは思わなかった」と語る南沙良

高い技術に加え、卓越したホラー表現も盛り込まれており、何物にも似ていない独創的な展開はとても新人監督のものとは思えない。“禍禍女”であるヒロイン・早苗に扮した南沙良の、ほかの作品では見たことのない、おぞましくも愛らしい表情と妙技の数々も目に焼きついて離れなくなる。そんなゆりやん監督と主演の南沙良が、濃密な時間が流れた驚愕の撮影現場を振り返った。

「自分の殻をここまで破ることになるとは思っていませんでした」(南)

――ゆりやんさんが最初に映画監督になりたいと思ったのはいつですか?

ゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん監督)「8歳のときから吉本興業の芸人になりたかったんです。でも、小学校の高学年か中学生ぐらいのときに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観て、大好きだったから、映画の世界でアメリカに行くか、芸人になるか?で考えが揺れ動くようになりました。でも、そのときは映画の仕事にどんなものがあるのかも、そもそも監督がどんな仕事なのかも知らなくて。とにかく目立ちたかったんです(笑)」

――でも、その夢をかなえてしまったわけですから、スゴいです。南さんは、そんなゆりやんさんの初監督作の主演の話を最初に聞いたときはどう思いました?

【写真を見る】ある男性にただならぬ想いを寄せる美大生の上原早苗を南沙良が演じる [c]2026 K2P
【写真を見る】ある男性にただならぬ想いを寄せる美大生の上原早苗を南沙良が演じる [c]2026 K2P

南沙良(以下、南)「ゆりやんさんと一緒に映画を作るのが純粋に楽しみで、この際どいシーンをどうやって撮影するんだろう?ミュージカルシーンはどんな感じになるんだろう?って思っていました。ただ、最初の脚本も結構インパクトが強かったけれど、実際に演じたときの脚本よりもう少しマイルドだった気がするので、自分の殻をここまで破ることになるとは思っていませんでしたね(笑)」

――やりながら、どんどん過激になっていったんですか?

南「そうですね。ゆりやんさんと話しながら撮影していくうちに、私の演じた早苗がどんどんできあがっていきましたし、狂気性をもっと持たせたほうがおもしろいものになるのかなという実感もありました」

――本作はゆりやんさんの恋愛体験がベースのホラー映画ですが、人間の闇の部分が描かれていたり、ブラックユーモアのテイストもあります。『パンズ・ラビリンス』(06)、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)で知られるギレルモ・デル・トロ監督の映画を想起させる大胆な映像表現もあって圧倒されましが、いちばんやりたかったことは何ですか?

ゆりやん監督「恋愛を語って、私のことをふってくれた人たちに復讐しようと思いました(きっぱり!)」

「子どもたちが一生忘れられない、トラウマになるような映画にしたい」(ゆりやん監督)

――映像的な試みで挑戦したいと思ったことは?

ゆりやん監督「私の実話の恋愛を描いて、なぜホラー映画になるのか?というところに関しては自分でも謎ですけど(笑)、子どものころから映画のジャンルでいちばん好きなのがホラー映画で。「学校の怪談」シリーズや『リング』、『呪怨』も怖いけど観たかったし、観てしまったらしばらくお風呂に入るのもトイレに行くのも怖かったんですけど、お姉ちゃんとコタツに入って指の隙間から震えながら観たあの体験はいま思えば本当に尊いものだったんですよね。なので、ホラー映画を撮らせてもらえるなら、子どもたちが一生忘れられない、トラウマになるような映画にしたいという思いがありました」

「好きになられたら終わり」という “禍禍女”を題材に、ゆりやん監督自身の恋愛経験を投影 [c]2026 K2P
「好きになられたら終わり」という “禍禍女”を題材に、ゆりやん監督自身の恋愛経験を投影 [c]2026 K2P

――ハードな描写が結構連続しますけど、南さんが撮影でいちばん大変だったのはどのシーンですか?

南「すべてが大変だったんですけど、ひとつだけ挙げるならやっぱりミュージカルシーンですね。気持ちをあの高いテンションまで持っていく作業が本当に難しくて。宏(前田旺志郎)の遺影を持って帰って来て、床に転がりながら地団駄を踏むところも同じようにかなり苦労しました(笑)」

ゆりやん監督「沙良さんは本当にすばらしい俳優さんで、1回目にバーンって出さはるエネルギーがスゴいんですよ。なので、『ここはこういう想いで』という擦り合わせだけしたら「もう1発で行きましょう」という話をしたし、いま「大変だった」って言われたシーンも基本1発OKだったから、あの臨場感が出たんです」

――望月瑠美役のアオイヤマダさんと罵り合う顔面対決みたいなシーンもすごいテンションで圧倒されました。

南「あそこはどんな感じでしたっけ?」

ゆりやん監督「忘れとるがな!(笑)」

南「ああ、『威嚇してほしい』ってゆりやんさんが仰ったので、『えっ、威嚇?』ってなったのを思い出しました(笑)」

ゆりやん監督「そうそう。あそこは『この人、まともやと思っていたけれど、あれ?』ってなるきっかけになるシーンだったので、違和感がどんどん膨らんでいくようにしたかったんですけど『そこまで変な人じゃないよね?』っていうニュアンスもまだ残しておきたくて。喧嘩慣れしていない感じも欲しかったので、決めた感じにならないように、練習なしでいきなりやってもらいました」

『PERFECT DAYS』(23)への出演で注目を集めているアオイヤマダが、ライバル役として出演 [c]2026 K2P
『PERFECT DAYS』(23)への出演で注目を集めているアオイヤマダが、ライバル役として出演 [c]2026 K2P

南「だから2回ビンタするけれど、慣れてないから叩き方がちょっと弱くて(笑)」

ゆりやん監督「顔を叩くときのあの遠慮している感じがリアルでいいんですよ」

「(撮影中は)ゆりやんさんが実際にやって見せてくださって、『これよりおもしろくなるかな?』って言われるんです」(南)

――監督のOKがなかなか出なかったシーンもありますか?

南「苦戦したのは、瑠美の悪口や自分の妄想を宏に向かってまくしたてるシーンです。でも、わりと序盤に撮影したので、早苗のベースのテンションを探ることができて。あそこがあったから、後半の狂気的なシーンもやりやすくなりました」

ゆりやん監督「あのシーン、海外の人たちは全員引いてました(笑)」

南「(爆笑)」

ゆりやん監督「最初のうちは『アッハッハ』って笑っていたのに、だんだん『言い過ぎやろ!』みたいな空気になって。でも、最終的には爆笑になったので、ありがたかったです」

――ゆりやんさんは『ミスミソウ』(11)や『許された子どもたち』(20)などの内藤瑛亮監督が脚本に書いたセリフを絶賛されてましたね。

ゆりやん監督「はい。内藤さん自身はほんまに優しくて、ご家族を大切にされているし、娘さんにも愛を注がれているんですけど、そんな方がなぜこんなおぞましいセリフを書けるんだろう?と思って(笑)。そのギャップも含めて大好きです」

『ミスミソウ』(17)や『ヒグマ!!』(公開中)の内藤瑛亮が脚本を担当している [c]2026 K2P
『ミスミソウ』(17)や『ヒグマ!!』(公開中)の内藤瑛亮が脚本を担当している [c]2026 K2P

――おふたりがいちばん印象に残っているセリフは?

ゆりやん監督「『脳みそツルツルの××××は…』とか『××された××みたいな顔して!』っていうところは、なぜ、そんなことが言えるの?って思いました(笑)」

南「私もそのふたつはすごく印象に残ってます。『ああ、これを言うんだ?』と思って。でも、言ってみたら意外と気分がよくて、なんだか、すっきりはしましたね(笑)」

ゆりやん監督「へ~すっきりしてたんや!(笑)」

――南さんは先ほど「ミュージカルシーンが大変だった」って言われましたけど、カメラに向かって笑顔で「好き」「好き」って何度も言うあの一連は、ほかでは見たことのない南さんの表情が見られて新鮮でした。

南「ミュージカルシーンは気持ちをあのテンションまで持っていくのも大変でしたけど、普段ああいう表現をしないので、どうしたら気持ち悪く見えるのか、なかなかつかめなくて。『もうちょっと顔を気持ち悪くしたい』という、ゆりやんさんの細かい指示を受けながら進めていきました」

ゆりやん監督「だけど、言葉ではうまく説明できないから……」

南「実際にやって見せてくださって、『これよりおもしろくなるかな?』って言われるんですよ!」

ゆりやん監督「言ってました、言ってました(笑)。でも、南さんはやっぱりそれを上回ってきましたね」

南「鏡を見ながら『こんな感じかな?こんな感じかな?』って表情をいろいろ研究して臨みましたからね(笑)」

「私の想いをお芝居を超えたもので見せてくれていたので本当にありがたかった」(ゆりやん監督)

――撮影現場のゆりやん監督は絶対妥協しない厳しい方なのか、優しい方なのか?どんな感じでした?

南「熱量がやっぱりスゴい方だから、私はすごく助かりました。ほかの皆さんも全員、ゆりやんさんの熱量に引っ張られて、『この作品を絶対にいいものにしたい』という強い想いで取り組まれていたけれど、それもすべて、ゆりやんさんのおかげです」

“禍禍女”に好かれてしまった男性たちの悲惨な結末が描かれる [c]2026 K2P
“禍禍女”に好かれてしまった男性たちの悲惨な結末が描かれる [c]2026 K2P

――詳細は書けないものの、クライマックスで早苗は大変なことになってしまいますが…あのシーンの撮影ではベトベトになって気持ち悪くなかったですか?

南「もちろん気持ち悪かったですよ!(笑)。でも、ゆりやんさんから『儀式みたいにしたい』と伺っていたので、清らかな気持ちであの中に入っていきました」

ゆりやん監督「あれは、好きな人がもう絶対に手に入らなくなってしまった状況を満足させる行為でもあるんです。なので、清らかな気持ちで自分を満足させているという見え方にしたかったんですよ」

――南さんは先ほど「自分の殻をここまで破ることになるとは思ってなかった」と言われましたが、この役を実際にやられて気づいたり、知らなかった自分を発見したりもしました?

南「まさかここまでのことをやるとは思ってなかったけれど、『あっ、私、こんな表情ができるんだ?こんな表現ができるんだ?』という発見があったので、心からやってよかったです。それに、早苗ほどでは全然ないんですが、彼女を理解していこうとする作業のなかで、私もわりと人や物に執着しているなってことに改めて気づきました」

ゆりやん監督「南さんは皆さんも知っているように可愛らしい素敵な方ですけど、それだけじゃないんですよね。『禍禍女』のインタビューなのであえてこういう表現をしますけど、心の奥底に“闇”を抱えていて、それを『可愛い、可愛い、元気、元気だけじゃ世の中生きていけない』というエネルギーに変えて出してくれるんです。それは、ほかの人には出し得ないものですよ。今回、撮影で1か月まるまる一緒にいたし、そこから編集が始まり、完成までの半年間は早苗を演じている南沙良さんの映像をずっと観ていたんです。でも、しばらく時間が経って、海外の映画祭などでフラットな気持ちで作品を観たら、南沙良さんとしてではなく、早苗にちゃんと見えたから改めてスゴい!と思って。『私のワケのわからないオーダーや演出をこんな風に表現してくれたんだ!』という驚きがあったし、私の想いを世界中の人たちに伝わる、お芝居を超えたもので見せてくれていたので本当にありがたかったです」

南「ありがとうございます」

「自分の殻をここまで破ることになるとは思わなかった」と語る南沙良 撮影/黒羽政士
「自分の殻をここまで破ることになるとは思わなかった」と語る南沙良 撮影/黒羽政士

「映画はチームで作るものだけど、監督はある意味孤独」(ゆりやん監督)

――ゆりやんさんが今回初めて監督されて、いちばん大変だったこと、いちばん苦しかったことは何ですか?

Netflixシリーズ「極悪女王」で共演した斎藤工も出演 [c]2026 K2P
Netflixシリーズ「極悪女王」で共演した斎藤工も出演 [c]2026 K2P

ゆりやん監督「自分はなにをやりたいのか?なにが好きなのか?それを自分に問いかけて判断することが意外に難しかったです。例えば現場で私が『これをやりたいです』と言って『それならこれとこれができますが、どうします?』って聞かれたら、自分が本当にやりたいのはどっち?ということを瞬時に決断しないといけない。『よ~い、スタート!』『カット、OK』って言うときも、いまの芝居もすばらしいんだけど、OKを出したらもう二度と撮れないので、OKにするか否かの決断に悩みました。それは初めてのことでしたね。映画はチームで作るものですけど、監督はある意味孤独で、『どうします、監督?監督が決めないと次に進めませんよ。時間ないですよ!』みたいなことを言われたときは本当に苦しくて。すばらしい体験でしたけど、そのときだけは大変でした。

――南さんは完成した本作を観て、どう思われました?

南「まだ客観的には観られないですけど、観ちゃいました。目が離せなかったですね。一種のトラウマです(笑)」

ゆりやん監督「自分が出ていないところがどんな感じになっているのか知らなかったものね」

南「そうなんですよ!ウワ~って目を背けたくなるところもたくさんあって、トイレも行けなかったです(笑)」

ゆりやん監督「え~、本当に?(笑)」

――ちなみに、おふたりがいちばん好きな、いちばん怖かったホラー映画は?

ゆりやん監督「『学校の怪談』です。1995年の第1作ですけど、5歳か4歳の私は口裂け女が『私って綺麗?』っ言ったときに『キャー!』ってお母さんの膝に顔を埋めたのを覚えていて。それが初めて映画館で観たホラー映画ですけど、いちばん覚えていますね」

“禍禍女”を取り巻く人々の行く末とは…? [c]2026 K2P
“禍禍女”を取り巻く人々の行く末とは…? [c]2026 K2P

――南さんは?サメ映画が好きというのは知っていますけど……(笑)。

ゆりやん監督「えっ、サメ映画?私も好きなんですよ」

南「本当ですか?」

ゆりやん監督「はい、サメ映画は好き!」

南「私は『シャークネード』が大好きなんです」

ゆりやん監督「もしかして、サメが飛ぶやつ?」

南「あっ、そうです、そうです。竜巻に乗ってくるやつ(笑)。それはずっと変わらないけれど、ホラー映画はあまり観てなくて。幼いころに観たホラー映画があまりにも衝撃的で、少しトラウマになってしまったから、それ以来ホラー映画をあまり観られなくなっちゃったんです。その作品はすごく印象に残っています」

――最後にこれから本作を観る人たちに向けて、メッセージをぶちかましてください。

南「『禍禍女』は、ゆりやんさんと一緒に“いいものを作りたい”という強い想いで臨んだ、私の転機にもなった作品です。早苗がすごく狂気的ではあるけれど、演じながら彼女がどんどん愛おしくなってきたので、そういったところも皆さんに伝わったらうれしいけれど、とにかく楽しんでいただけたらと思います」

第62回台北金馬映画祭では、日本人監督初となるNETPAC賞を受賞したゆりやん監督 撮影/黒羽政士
第62回台北金馬映画祭では、日本人監督初となるNETPAC賞を受賞したゆりやん監督 撮影/黒羽政士

ゆりやん監督「映画『禍禍女』は恋愛の辛い気持ちや悔しい気持ち、腹立たしい気持ちをすべて吹き飛ばす恋愛成就ムービーです。好きな方と観ていただいたらその方とつきあえるようになるし、嫌な思いをされた人も次は絶対にすばらしい方と出会える幸福ムービーでもあるので、絶対に観てください。そして観てくれた男性は、告白してくれた人に必ずOKを出してください!」

取材・文/イソガイマサト

元記事で読む
の記事をもっとみる