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10代の自殺――原因は直近の出来事より幼少期からの苦難の累積が関連

  • 2026.2.7
Credit:canva

最近、日本では自殺者の総数は減少傾向にある一方で、若年層、とくに小中高生の自殺は過去最多水準が続いていると報じられています。

こうした話題に触れると、私たちはつい「思春期ならではの原因」を探したくなります。

いじめ、SNS、受験のストレスなど、確かに思い当たる要素は多く考えられます。

しかし、実際は思春期の自殺は、その時期に起きた辛い出来事だけが決定的な原因になるわけではないという指摘があります。自殺のような問題は、直近のストレスや性格特性の問題ではなく、もっとずっと前からの積み重ねが関連するはずで長い時間の流れに注目するべきだと考えられるのです。

そこでオーストラリアのニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales; UNSW)臨床医学部(School of Clinical Medicine)を中心とした研究チームは、同国の「ニューサウスウェールズ児童発達研究(NSW-CDS)」のデータを活用し、計73,833人の子どもたちを対象に、誕生前から約18歳に至るまでの約20年間にわたる膨大な公的記録を分析しました 。

すると、思春期に自傷行為や自殺念慮のあった子どもの約73%が、幼少期に17分類の不利な経験が複数同時期に重なる状況に置かれており、さらにその状況が長期持続していたという関連性が示されました。

この研究の詳細は、2025年10月に学術誌『Journal of Adolescent Health』に掲載されています。

目次

  • 自殺の要因を「点」ではなく「流れ」で見る
  • ACEsが増え続けた子どもほど、思春期の自殺と強く結びついた

自殺の要因を「点」ではなく「流れ」で見る

現在、若者の自殺は世界中で主要な死因の一つとなっており、社会の大きな懸念事項です。

近年のデータでは、こうした深刻な心理的危機による救急搬送や入院が増加傾向にあることが示されています。

オーストラリアでも25歳未満の死因として自殺が主要な位置を占め、近年は10代の自傷行為や自殺による救急受診や入院が増えていることも報告されています。

しかし、大きな問題として浮かび上がっているのは、SOSを抱える若者全員が医療機関に繋がっているわけではないという現実です。

実際、ニューサウスウェールズ州児童発達研究のデータでは、自傷行為や自殺念慮に関する記録は医療記録よりも児童保護の記録で見つかる方が多く、該当する子ども全体のうち公的な病院や外来の記録でも確認できたのは3分の1未満だったと述べられています。

10代の自殺が増えているという話があると、カウンセラーなどのサポートをする人たちを増やす、相談できる窓口を増やすなどの対策が話し合われますが、この事実は、実際多くの思春期の若者は、自殺を考えるような危機に対して、サポートを行うサービスを利用していないということです。

つまり、この問題については、本人たちが助けを求めてくるのを待つのではなく、危機が深刻化する前に、誰に支援が必要かを予測できる方法を確立することが重要なのです。

では、思春期の若者が自殺を考える背景には何があるのでしょうか?

若者の自殺という問題について考えるとき、いじめや受験ストレスなど直近のストレス問題に目を向ける人は多いかも知れません。

しかし実際はストレスについては、「コップの水が溢れる」という例えがあるように、何か特定の要因に原因を求めるよりも、過去からの累積が重要な問題になります。

そこで研究チームは、「逆境的な児童期体験(Adverse Childhood Experiences:ACEs)」を17種類に分類し、出生前から11歳までに起きた出来事を行政記録から洗い出し、思春期の自傷行為・自殺念慮との関連を分析しました

ACEsの具体的な内容は、次のようなものです。

親に関するACE

子ども自身に関するACE

そしてこの研究では、出生前、0〜5歳、6〜11歳という発達段階ごとにACEsの累積を追跡し、似たパターンの子ども同士をまとめるという分析を行いました。

用いられたデータは、オーストラリアのニューサウスウェールズ州で出生登録された約7万人の子どもを対象に、医療や児童保護、警察などの行政記録を連結し、18歳頃までに記録された出来事を追跡したものです。

ACEsが増え続けた子どもほど、思春期の自殺と強く結びついた

分析の結果、ACEsの累積には6つのパターンが確認されました。

もっとも多かったパターンは、出生前から学童期まで一貫して逆境の水準が低いグループで、全体の約6割を占めていました。

一方で、残りの子どもたちは、逆境の現れ方や変化の仕方が異なるいくつかの少数派のグループに分かれていました。

第2のパターンは、出生前には逆境の水準が高かったものの、成長とともに低下していくグループ。

第3のパターンは、幼児期に限って逆境が一時的に高まるグループ。

第4のパターンは、幼少期には低い水準にとどまるものの、年齢とともに逆境が少しずつ増えていくグループ。

第5のパターンは、中程度の水準から始まり、成長とともに逆境が高まっていくグループ。

第6のパターンは、出生前から逆境の水準が高く、その状態が学童期まで続くグループ。

結論から言うと、ACEsが低い群に比べて、ACEsが高い、または増えていく群はどれも、思春期の自傷行為や自殺念慮の記録と関連していました。

しかし、その中でも研究者が特に注目したのは、出生前から12歳まで一貫して高い水準の逆境にさらされ続けていた第6パターンに分類されるグループの子どもたちで、全体の約3%を占めていました。

このグループでは、第1パターンの逆境が少ない多数派のグループと比べて、思春期に警察や児童保護サービスの記録に残る自傷行為や自殺念慮が確認される確率が、約20倍高くなっていたのです。

また、思春期に自傷行為や自殺念慮の記録があった子どもの約73%は、少なくともどこかの時期でACEsが高いパターンに属していたことも示されています。

また、もう一つ注目すべきことが、ACEsの内容によっても影響が異なっていた点です。

分析によれば、特に「親の服役」や「子ども自身の警察との接触」といった司法・警察関連の出来事は、非常に強力なリスクの指標となっていました。

ここでいう警察との接触には、子ども自身が罪を犯した場合だけでなく、事件の被害者や目撃者として、警察が介入せざるを得ない不安定な環境に置かれていた経験も含まれます。また、父親のメンタルヘルスの問題が「誕生前(胎児期)」にある場合も、後の思春期のリスクに関連していることが示されました。

ここの研究で重要な点は、思春期に表れる危機は、中学生や高校生になってから突然発生したものではなく、幼少期の長い時間の積み重ねの結果である可能性が高いということです。

ただ研究者らは、この研究が子ども側の精神的な問題を分析に組み込んでいないことを限界として挙げています。

また、いじめ、性的マイノリティに関する困難、医療にアクセスしていない親の精神的問題など、今回の行政記録では捉えにくいACEsが含まれていない点も注意が必要です。

それでもこの研究は、自殺を考える若者が、医療的サービスに助けを求めるより、警察や児童保護で発見されやすい可能性を示唆しています。

この段階で危機に気づき、適切なサポートができるようになれば、10代の自殺の増加という問題を減らせるかもしれません。

参考文献

Childhood trauma linked to high risk of self-harm in teens
https://www.unsw.edu.au/newsroom/news/2026/01/childhood-trauma-linked-to-high-self-harm-risk-in-teens

元論文

Trajectories of Adverse Childhood Experiences and Subsequent Adolescent Suicidal Ideation and Self-Harm
https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2025.09.014

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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