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ヒマラヤに眠っていた「海底超巨大噴火」の痕跡を発見

  • 2026.2.3
ヒマラヤに眠っていた「海底超巨大噴火」の痕跡
ヒマラヤに眠っていた「海底超巨大噴火」の痕跡 / Credit:Canva

中国の吉林大学(Jilin University)で行われた研究によって、ヒマラヤがあるチベット高原の岩石の中から「超巨大な海底火山噴火」の証拠が見つかりました。

この噴火がおきたのは2億5000万~2億800万年前の三畳紀にあたる時代であり、この時期に起きた「海の大量絶滅」の時期とぴったり重なっていることがわかりました。

つまり、三畳紀の海で起きた「絶滅イベント」のいくつかは、隕石でも陸上の火山でもなく、「深い海の底でひそかに起きた大噴火」が引き金だったかもしれないのです。

海底噴火はそれがいくら巨大でも、その痕跡はプレートの沈み込みによって失われてしまいますが、海の底にあった世界一高い山にはその記録が刻まれていたのです。

研究内容の詳細は2026年1月20日に『Geology』にて発表されました。

目次

  • 世界一高い山が教えてくれた海底火山噴火
  • 散々な三畳紀と海底火山の関係
  • 原因不明の絶滅事件の多くは海底火山噴火のせいかもしれない

世界一高い山が教えてくれた海底火山噴火

チベット高原
チベット高原 / Credit:Google Earth

地球の生命の歴史は、なめらかに増え続けたわけではなく、ときどき「ドン」と叩き落とされるような大量絶滅によって何度も中断されてきました。

これまでの研究によれば、約5億4千万年前から現在までだけでも、大小あわせて160回以上もの絶滅イベントが記録されていると報告されています。

その中でも約5000万年続いた三畳紀は、かなり変わった時代です。

というのも、この時代は始まりと終わりの両方が「大量絶滅」で区切られている、唯一の地質時代だからです。

始まりは約2億5,200万年前のペルム紀末大量絶滅で、このとき海の生き物の種の9割近くが死に絶えたとされ、陸上でも多くの生物グループが消え、古生代型の生態系はほぼ壊滅しました。

その直後の初期三畳紀は、「ほとんど更地になった地球で、生き残りの少数派がなんとか立て直しを始める時期」と言えます。

一方、終わりには約2億160万年前ごろの三畳紀末大量絶滅が起き、それまで繁栄していたワニの仲間の一部や大型の両生類、一部の海生爬虫類、アンモナイトのグループなどが姿を消しました。

こうしてライバルが一掃されたことで、比較的被害の少なかった恐竜がジュラ紀には一気に多様化し、「恐竜の時代」がさらに加速したと考えられています。

大量絶滅の原因としては恐竜の時代を終わらせた隕石が有名ですが、実は巨大噴火も同等かそれ以上に大量絶滅に関わっている場合もあります。

大量絶滅を引き起こす巨大噴火は「富士山の噴火」のような通常の噴火とは異なり、地球の深いところから「マントルプリューム」とよばれる巨大な熱い物質の柱が上がってきて、短い時間のあいだに、とてつもない量のマグマが噴き出す現象のことです。

これがどれほど凄まじいものかを簡単にたとえると、富士山の噴火が「富士山」という1つの山の噴火だとしたら、大量絶滅を引き起こす「マントルプリューム」(地球の内部から上がってくる巨大な熱い物質の柱)は地球そのものの噴火(地球山の噴火)と言える規模感の現象と言えます。

こうした「大陸での大規模火成活動」は、地球史上の五大絶滅のうち少なくとも三つに関わっていると考えられてきました。

今回の舞台になる三畳紀も巨大噴火とは切り離せません。

大量絶滅で挟まれた三畳紀の始まりには現在のシベリア地域にあたる場所で起きた超大規模噴火(シベリア・トラップ)が、二酸化炭素や有毒ガスを大量に放出し、急激な温暖化や海の酸素不足、海洋酸性化などを引き起こしたことが主な原因と考えられています(ペルム紀‐三畳紀境界:P–T境界)。

また三畳紀の終わりには、パンゲア大陸の裂け目に沿って形成された中央大西洋マグマ大陸(CAMP)での超大規模な火山活動が有力視されており、ここでも膨大な二酸化炭素による温暖化、海洋の酸素不足、海の酸性化などがいっせいに起きたと考えられています(三畳紀‐ジュラ紀境界:T–J境界)。

しかし同じような大規模火成活動が、海の底で起きた場合はどうでしょうか。

深さ二千〜四千メートルほどの深海で大量のマグマが噴き出すと、海底には「海洋高原」や「海山列」とよばれる巨大な火山の台地ができます。

ところが、海の底のプレートは、やがて大陸の下にもぐりこむ「沈み込み」を起こし、多くの部分がマントルの中へとリサイクルされてしまうのです。

大陸上の溶岩台地は何億年も残りやすいのに対して、海洋高原や海山列は、プレートごと飲み込まれてしまうため、あとから探し出すのがとてもむずかしいのです。

そこで「ヒマラヤ山脈を含むチベット高原がかつて海の底にあった」という多くの人が知る知識が着目されました。

チベットの中央部には、かつての海洋島や海山、海洋高原の「かけら」が帯状に分布しています。

またこれらの岩石は大陸の近くの浅い海ではなく、陸から遠く離れた深い海で形成されたものでした。

つまりチベット高原は、「三畳紀の深海博物館」として、とても貴重な役割を果たしているのです。

そこで今回研究者たちは、それらの岩石の年代や成分、そして世界各地の海底堆積物に記録された環境変化のデータをていねいに分析しました。

もし見つかりにくい「海底の巨大噴火」が起きていれば、この博物館の内部にその痕跡が隠されている可能性があったからです。

散々な三畳紀と海底火山の関係

2億5000万〜2億4800万年前ごろの海底噴火
2億5000万〜2億4800万年前ごろの海底噴火 / 1回目のドーン/Credit:Marine large igneous provinces: Key drivers of Triassic recurrent extinction

生命を脅かす「海底の巨大噴火」は存在したのか?

答えを得るため研究者たちは岩石の中の鉱物からマグマが固まった年代を調べたり、元素や同位体の割合からマグマの性質や噴火の規模を推定しました。

その結果、三畳紀には少なくとも三回、世界の海の底で大規模な火山活動が山場をむかえていたことがわかりました。

またそれら3回がおよそ2億5000万〜2億4800万年前ごろ、2億3300万〜2億3100万年前ごろ、2億1000万〜2億800万年前ごろであることもわかりました。

論文ではこれをそれぞれ、オレネキアン期、カーニアン期、後期ノーリアン期の海洋での大規模火成活動として整理しています。

2億3300万〜2億3100万年前ごろの海底噴火
2億3300万〜2億3100万年前ごろの海底噴火 / 2回目のドーン/Credit:Marine large igneous provinces: Key drivers of Triassic recurrent extinction

さらに研究者たちは、チベットの岩石のデータだけでなく、日本の深海でたまったチャートとよばれる堆積岩に残されたオスミウムという元素の同位体比、世界の古い温度変化のグラフ、そして絶滅の時期に関する生物学的なデータを重ね合わせました。

その結果、三回の海底大噴火のピークは、地球全体の気温が上がる時期と、海で酸素が不足する「無酸素イベント」、そして海の生き物が急に減る絶滅イベントと、時間的におおむね重なっていることが明らかになりました。

コラム:巨大海底噴火が絶滅を引き起こす仕組み
海の底で「海底スーパ火山」とも言える大規模火成活動が起きると、まず深い海の底で大量のマグマがあふれ出し、その熱でまわりの海水がじわじわあたためられていきます。水は冷たいほど多くの酸素を溶かしこめるので、海水があたたまると、それだけで海の中にとけていられる酸素が減っていきます。温められた炭酸飲料では二酸化炭素が抜けてしまうのと同じように温められた海水から酸素が抜けてしまうのです。
また火山ガスによる温暖化や気候の乱れで大陸の雨が増えると、栄養分がどっと海へ運びこまれプランクトンが一気に増えますが、バクテリアたちがそれを分解しながら酸素をどんどん消費してしまうため、さらに海水から酸素が抜かれていきます。こうして、あたたかくなって酸素をためにくくなった海に、プランクトンの大繁殖と死骸の分解が重なることで、広い範囲の深海が「ほとんど酸素ゼロ」の状態に追い込まれます。
さらに条件が悪化すると、酸素の代わりに硫黄を使って呼吸するバクテリアが増え、彼らの活動によって硫化水素という有毒ガスが水の中にたまっていき、多くの海の生き物にとってはほとんど生きていけない致命的な環境になります。
また、酸素のない深海では有機物が分解されにくく、細かい泥と一緒に真っ黒な有機物がたっぷりたまるため、のちの時代から見ると「黒い泥岩(ブラックシェール)」としてはっきりした層をつくります。
つまり、海底の巨大噴火が引き金を引いた温暖化と栄養過多の連鎖は、海の酸欠や有毒化を通じて大量絶滅を引き起こし、その痕跡が炭酸塩の減少や黒い泥岩というかたちで、何億年もあとまで地質記録の中に残るのです。
2億1000万〜2億800万年前ごろの海底噴火
2億1000万〜2億800万年前ごろの海底噴火 / 3回目のドーン/Credit:Marine large igneous provinces: Key drivers of Triassic recurrent extinction

これまで三畳紀の始まりと終わりに起きた大量絶滅については巨大噴火だとわかっていましたが、そのあいだに起きた海の絶滅については、これまで決定的な犯人が見つかっていませんでした。

ですが今回の研究は、その「空白」を海底の大噴火でうめる形になっているのです。

また研究では影響度についても分析されており、海底の巨大噴火は、三畳紀に起きた絶滅のうち、およそ半分について説明できる規模であることがわかりました。

三畳紀という散々な時代を説明するうえで、「海の底でくり返し暴れたスーパ火山」が主役級の一人であることがはっきりしてきたわけです。

(※三畳紀には大きな隕石が大地に4カ所のクレーターを作ったことも知られています。そのうち2つは生態系に劇的な影響を与えたと考えられています。)

原因不明の絶滅事件の多くは海底火山噴火のせいかもしれない

原因不明の絶滅事件の多くは海底火山噴火のせいかもしれない
原因不明の絶滅事件の多くは海底火山噴火のせいかもしれない / Credit:川勝康弘

今回の研究のいちばん大きな意義は、「大量絶滅の主役は大陸の火山と隕石」という、これまでのイメージに新しい登場人物をくわえたところにあります。

チベットの岩石や日本のチャートのデータを組み合わせることで、三畳紀には三回の大規模な海底火山活動があり、そのたびに海の酸素が不足し、海の生きものの絶滅が増えることとの関連が示されました。

研究者たちは、この結果から「海洋での大規模火成活動は三畳紀のたび重なる絶滅の主要な引き金であり、地球史全体を見ても重要な役者だった可能性がある」と結論づけています。

過去五億年で百六十回以上も知られている絶滅のなかには、これまでちゃんと説明されてこなかったものが多くありますが、その一部は、まだ姿を見せていない海底大噴火が原因だったかもしれないのです。

また、この研究が示したのは「結果」だけではありません。

どのようにして見えない海底大噴火を探し出すか、という「方法」そのものも大きな成果です。

研究チームは、山脈の中に挟みこまれた海底火山のかけらから年代とマグマの性質を調べ、さらに深海の堆積岩に記録されたオスミウム同位体の変化と、世界規模の気温や酸素不足、絶滅の記録を時間軸の上で重ね合わせました。

こうして、「岩石の年齢」と「海水の化学的なサイン」と「生物の変化」を一体として扱うことで、昔の海洋大規模火成活動のタイミングをかなり正確にしぼりこむ手法を示したのです。

このやり方は、三畳紀に限らず、ほかの時代の「見えない海底大噴火」をさぐるうえでも強力な道具になります。

世界には、チベット以外にも北東中国や日本、北米など、多くの山脈や付加体(海の堆積物が大陸にくっついてできた地帯)とよばれる地帯に、古い海洋のかけらがはさみこまれています。

そこから海底火山の破片を見つけ出し、同じように年代や成分を調べていけば、これまで「理由不明」とされてきた絶滅イベントの背後に、いくつもの海洋大規模火成活動が見えてくるかもしれません。

また、オスミウム同位体だけでなく、ほかの元素の比や有機物のしるしを使って、海の酸素や温度の変化をより細かく復元する研究も進められています。

こうした情報を、気候のシミュレーションや地球システムのモデルに取り入れることで、「過去の地球がどれくらい急な変化に弱かったのか」を、より定量的に理解できるようになるでしょう。

元論文

Marine large igneous provinces: Key drivers of Triassic recurrent extinction
https://doi.org/10.1130/G53406.1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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