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『閃光のハサウェイ』澤野弘之が語る、相乗効果を生み出す音楽「人の心に残るものにしたい」

  • 2026.2.3

興行収入22億円を超える大ヒットを記録した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(21)。その待望の最新作となる『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』が公開中だ。今作は、圧政を強いる連邦政府に対抗する反地球連邦政府運動「マフティー」のリーダー、ハサウェイ・ノア(声:小野賢章)と、謎の美少女ギギ・アンダルシア(声:上田麗奈)、地球連邦軍の大佐ケネス・スレッグ(声:諏訪部順一)を中心に物語が動いていく。

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「映像に感情移入しながら、流れる楽曲も魅力的に感じてもらえるものにしたい」

第2章となる今作では、それぞれの道に進みながらも惹かれ合うハサウェイとギギを中心に、マフティーVS連邦軍による戦火のなかで、胸に葛藤を抱える周辺人物たちの人間模様がドラマチックに描かれる。前作から引き続き音楽を担当している作曲家の澤野弘之は、「打ち合わせの時に制作サイドが、“大人のガンダムを目指したい”とおっしゃっていたことが印象的です」と語る。

前作に引き続き音楽を手掛けた澤野弘之にインタビュー!
前作に引き続き音楽を手掛けた澤野弘之にインタビュー!

「僕はガンダムシリーズをすべて観ているわけではありませんが、『機動戦士ガンダム』の劇場版三部作では、当時の人気アイドルのヒット曲をたくさん手掛けていた井上大輔さんが主題歌を書かれていましたし、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌はTM NETWORKの『BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)』で、いわゆる“ザ・アニソン”とは異なるものでした。そもそも『ガンダム』が決して子どもだけでなく大人も意識していただろうことは、歴代の主題歌からも感じることができます。とは言え『キルケーの魔女』は、単なる大人向けの恋愛映画というわけではありません。ガンダムシリーズならではの恋愛描写が、絵の質感や全体のトーンからも滲み出ています。でもそれこそが、今作の大きな魅力のひとつです」。

恩田尚之描きおろしジャケット!『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は2月4日(水)発売 [c]創通・サンライズ
恩田尚之描きおろしジャケット!『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は2月4日(水)発売 [c]創通・サンライズ

澤野は劇伴だけでなく、挿入歌「ENDROLL」も手掛けている。「村瀬監督から、『ENDROLL』が流れるシーンの曲は切ないバラードがいいと。村瀬監督が作成したVコンテ(絵コンテを映像にしたもの)には参考として、洋楽のバラード曲が付けられていました。しかしこれは、あくまでも村瀬監督が参考程度に当てはめていただけであって、そこから離れて僕の解釈で自由に作っていいということでした。なので自分が普段聴いている洋楽から“こういうアプローチはおもしろいな”と思ったアイデアを参考にしながら作っていきました。とにかく観た人が映像に感情移入しながら、そこに流れる楽曲についても魅力的に感じてもらえるものにしたいな、と。劇中で『ENDROLL』はハサウェイとケリアの回想シーンで、キャラクターの心情のより深いところに関わってくるものなので、もう一回そのシーンを観たくなったり、後々サントラ盤でも聴きたいなと思ったりしてもらえるような、音楽としてちゃんと人の心に残るものにしたいという気持ちで作っていきました」。

この「ENDROLL」には、SennaRin(センナリン)と川上洋平[Alexandoros]がボーカルとして参加している。SennaRinは、作品に対する深い理解力と独特な言葉のチョイス、類い希なるボーカルセンスによって2022年に澤野のプロデュースでデビュー。今回の曲では作詞も務めるなど澤野の懐刀として才能を発揮している。

「SennaRinに関しては、エグゼクティブプロデューサーの小形尚弘さんが彼女の音楽を普段から聴いてくれていて、『キルケーの魔女』の音楽打ち合わせをする前にお会いした時に“SennaRinさんの声が合うかもしれないですね”と言ってくださっていたのもあって、彼女をボーカルに起用しました。彼女に作詞もお願いしたら、書くにあたって『閃光のハサウェイ』に繫がる作品を最初から全部観て勉強してくれて。いまでは僕よりよっぽど『ガンダム』に詳しいです(笑)」。

SennaRin新曲「CIRCE」も『キルケーの魔女』の挿入歌として使用されている
SennaRin新曲「CIRCE」も『キルケーの魔女』の挿入歌として使用されている

また壮大なバラードのデュエットソング「ENDROLL」は、ハサウェイと彼を近くで支える恋人だったケリア・デースの心がすれ違うシーンに、思い出の回想と共に流れる楽曲。1番を川上洋平が、2番をSennaRinが歌い、やがて2人の声が重なっていく展開は、物語の展開とも相まって非常にドラマチックだ。川上は前作の主題歌「閃光」を手掛けた[Alexandros]のメンバー。ボーカリストとして、伸びやかなハイトーンとロックスピリットを内包したシャウトに定評がある。

「2人の声の違いによって、1曲のなかでコントラストがパッと切り替わる。そこは観ているお客さんのなかでハッとしたり、響いてくれたらいいなと思っています。実は川上さんの起用も小形さんからの提案です。バラードには男性ボーカルの声も欲しいという村瀬監督からの要望があったうえでデュエットを書き上げ、曲を聴いてもらった小形さんから名前が挙がり、前作からの流れともリンクするのでぜひにとお願いしました。川上さんとは今回が初対面でしたが、レコーディング当日までにアプローチを固めてきてくださっていて。僕が細かく指示しなくても、川上さんから出てきたものが最初からとてもすばらしかった。2人の声が合わさると、“こういう勢いとかエモーショナルさが出てくるのか”と、それは川上さんとSennaRinだったからこそ生まれたものだと思いました。イメージしていた部分もあったけど、それ以上に広げてもらえた感覚です」。

「映像と一緒になった時により相乗効果が生まれるものになればいい」

澤野がこれまでに劇伴を手掛けた「機動戦士ガンダムUC」や『機動戦士ガンダムNT』(18)では、宇宙空間を中心に物語が展開していたが、『閃光のハサウェイ』では地球、地上が主な舞台。海上での作戦行動やマフティーVS地球連邦軍のモビルスーツによる空中戦などのシーンで、澤野によるスリリングかつ高揚感あふれる音楽が各シーンを盛り上げている。この“宇宙”と“地上”という対極的な場所が舞台となる作品の劇伴制作では、取り組み方に違いはあったのだろうか?また、戦闘シーンでの爆発音やモビルスーツの起動音、金属音が劇伴の音と被らないように気をつけたりするのだろうか?そうした質問に対して澤野は「まったく考えたことがありませんでした」と笑って答えた。

迫力満点のMS戦も展開される [c]創通・サンライズ
迫力満点のMS戦も展開される [c]創通・サンライズ

「あくまでも音楽として、映像と一緒になった時により相乗効果が生まれるものになればいいという考えなので、そういうことは意識したことがありません。こういう曲が流れたらおもしろいんじゃないかと。万が一にも音がぶつかって邪魔だとなっても、音響さんのほうで音を下げたりオフにしたりできるように、ステムデータ(音楽制作やミキシングの現場で使われる用語。曲を構成する各パートを個別の音声ファイルに分けたデータのこと)を渡してあります。前作の劇伴は、制作サイドから“宇宙やSFを感じるサウンド”というオーダーを受けて、僕が聴いてきたSF作品の音から自分なりに解釈したものを、素直にぶつけていけばいいんじゃないかと思って、『ブレードランナー』などシンセサイザーが鳴っている作品から影響を受けて作ったものです。今回はそれを『キルケーの魔女』用にアレンジしていく作業が多かった。ただシンセの音色は、前回から5年も経っているので、僕が考える“いまのサウンド感”に変換して選んでいきました」。

劇場の大音量で体感したい『キルケーの魔女』の音楽 [c]創通・サンライズ
劇場の大音量で体感したい『キルケーの魔女』の音楽 [c]創通・サンライズ

小室哲哉とCHAGE and ASKAを自身のルーツに挙げ、ハンス・ジマーなどの劇伴から影響を受けていると話す澤野。現在は音楽サービスのトップ画面でオススメされている曲やヒットチャートものの洋楽を聴くことが多いとのこと。「いま、女性アーティストだったらテイト・マクレーという方がかっこよくて好きです。男性アーティストなら、『トップガン・マーヴェリック』の挿入歌も手掛けていたOneRepublicやColdplayが昔から好きで」と笑顔で語る。J-POPと洋楽のエッセンスが彼のなかでミックスされ、生み出されたのが、今回の曲だと言えるだろう。

SennaRinのCONCEPT EPとなる「LOSTandFOUND」も2月4日(水)に発売となる [c]創通・サンライズ
SennaRinのCONCEPT EPとなる「LOSTandFOUND」も2月4日(水)に発売となる [c]創通・サンライズ

また2月4日(水)には本作をモチーフとした、SennaRinによるコンセプトEP『LOSTandFOUND』もリリースされる。「『ガンダムUC』の時は、Aimerさんと『UnChild』というコンセプトアルバムを作ったので、今回はSennaRinと作らせていただきました。先ほどお話した挿入歌もサントラ盤には映画で使われているサイズのMovie Edit ver.を収録していますが、こちらにはフルサイズが収録されています。映画、サントラ盤、そしてこのコンセプトEPを聴いて、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』の世界観をより楽しんでいただけたらうれしいです」。

余談ではあるが、SennaRinはマルチな器用さで今作に登場するモビルスーツ「Ξ(クスィー)ガンダム」のガンプラを完成させたそう。澤野は『ガンダムUC』の時に「クシャトリヤ」のガンプラを手に入れたものの、「作るのは大変そうだったので、プロのモデラーの方に作っていただきました(笑)」とのこと。作ることは得意だが音楽に全振りしている澤野らしいと思えるエピソードだ。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は公開中! [c]創通・サンライズ
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は公開中! [c]創通・サンライズ

取材・文/榑林史章

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