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オン・ザ・ロックに少しのソーダを。ソムリエ若林英司氏が教える【食事×ウイスキー】、どちらの風味も損なわずに楽しむ方法

  • 2026.2.1

ウイスキーと食べ物の絶妙なペアリングを探索する「ウイスキーと食」の連載もいよいよ15回目。今回も家庭料理の延長線上に栄養や健康に配慮した料理を考案する料理研究家の野口真紀さんと、ソムリエの若林英司さんがコラボレートします。野口さんが料理をつくり、若林さんがそれに合うウイスキーを選ぶという贅沢なこの企画。前回はピータンの白和えとラフロイグのハイボールを合わせましたが、今回はどんな料理とウイスキーが登場するか。さっそく、絶妙ペアリングを紹介しましょう。

オン・ザ・ロックに少しのソーダを。ソムリエ若林英司氏が教える【食事×ウイスキー】、どちらの風味も損なわずに楽しむ方法

■れんこんと豚肉の重ね蒸し×I.W.ハーパー オンザロック 少しソーダ

シャキシャキの食感と適度な水分と、ほのかな甘味で魅了するれんこんに、豚バラ肉の薄切りを重ねて蒸します。下味は、甜麺醤、豆板醤、すりおろしたにんにくと生姜、醤油に胡麻油。レシピを見ただけでじわりと唾液が出てきそうな、いかにも旨そうで、食欲をそそる料理だ。

料理
料理

野口さんの手にかかると実に事もなげに、難なく1品の料理ができていく。蒸し器から取り出され盛大に湯気を放つ皿の中央にパクチーの鮮やかな緑を置くと、これはまたまたアジア風の、野趣もありながら上品でもある、豪華な見栄えの一品となったのである。
ここに、どんなウイスキーを合わせるのか。いったい、この料理のどこに注目して、最高のペアリングを発想していくのか。さっそく若林さんのコメントに耳を傾けよう。

■甘辛の味付けに合うのは強さのあるウイスキー

野口さん
野口さん

「レシピを拝見したときの印象は、台湾の屋台で出てきそうな、家庭的でおいしい料理です。最初に注目したのは、甜麺醤と豆板醤。ジャンを使っているので、甘辛の味と、コクが出ます。味わいはけっこう強い。そこに掛け合わせるのは、やはり強さのあるウイスキーがいい。強くて、まろやかで、ジャンの甘辛とコクを包み込むようなタッチの味わい深いもの……。と考えて選んだのがバーボンです」

若林さん
若林さん

そして、若林さんが数あるバーボンの中から選んだのが、I.W.ハーパーだ。都会的で洗練されたバーボンウイスキーと言われるが、原料の86%がトウモロコシで、味わいはやわらかく甘味があり、キャラメルのような香りを持ちながら、スパイシーな味わいもある。そのまま飲んでもいいし、カクテルの材料にしてもいいオールマイティーで飲みやすいバーボンだ。しかし、ひと口飲めば、このシリーズでも取り上げたウッドフォードリザーブというバーボンに比べて、I.W.ハーパーが、バーボンらしい強さを持った酒であることはわかる。
「ウッドフォードリザーブでもメイカーズマークでも、ジャック・ダニエルでもない。ここは、ハーパーですよ」
若林さんが微笑みながら言うのを聞きながら、れんこんと豚肉の重ね蒸しを食べてみた。

■絶妙な厚さのれんこんが食欲を引きだしてくれる

料理
料理

豚バラの甘味と、それを包むようなハーパーの甘い香り、そして、このバーボンが秘めているスパイシーさとジャンとが響き合っている。少しだけ口に入れたパクチーがさらに軽妙なアクセントになり、このペアリングのすばらしさを引き立たせている。バーボンの故郷であるケンタッキーの人々も、台湾や中国本土、シンガポールなどのチャイナ文化圏の人々も、このペアリングは知らないのではないだろうか。筆者はこの感動を英語と北京語と広東語に翻訳して伝えたいと、一瞬、真剣に考えた。それくらい、新鮮で、うれしい発見なのだ。

それにしても、この料理、旨いなあ、とレシピを振り返ると、れんこんの厚さは5ミリとあったのを思い出す。適度に厚く、適度に薄い。絶妙な食感の秘密は5ミリにあったのか……。料理の素人がひとりウンウンと納得していると、こちらの心を見抜いたものか、若林さんは言った。
「れんこんがおいしいですよね。けれど、ウイスキーにとって野菜は、とても手強い敵なのです。ウイスキーが強く前面に出てしまうと、野菜のおいしさは消えてしまうんですね。その点では、魚のほうがまだやりやすい。ウイスキーの強敵は野菜です」

なるほど、れんこんの旨さは、歯ごたえであり、ほのかな甘味であり、合わせる食材を引きたたせるような、控えめだけどほかの食材にうまく寄り添える脇役ぶりにある。筆者はそんなことを思いつつ、またれんこんと豚バラとパクチーを食べる。いや、しかし、れんこんを単体で焼いたり、薄く衣をつけてあげたりしたものを酒のアテにしたことがあるけれど、あれはあれで抜群だった。たしか焼酎系のスピリッツを飲んでいたときだから、ウイスキーに合わせるのもありだろう。

筆者がまた素人考えを巡らせていると、若林さんは、それも見透かしたかのように解説した。

■ウイスキーの強敵・野菜をどう愉しむか

「野菜にウイスキーを合わせるとき、野菜を焼くなら、まだやりやすいのですが、蒸す料理だと、ウイスキーが強すぎると野菜の旨味を壊してしまうんです。しかし、この料理はれんこんが入らないと、このおいしさは出てこない。シャキシャキの食感とれんこんがもっている水分が活きる形でウイスキーを合わせる必要があるのです」

料理がもつ強さに、バーボンウイスキーの強さを合わせ、同時に、蒸したれんこんの旨さを損なわないために、若林さんは、さり気ないが、きわめて精巧な工夫を施していた。

■たった10mLのソーダが旨さのカギを握る

ウイスキー
ウイスキー

「強さと強さを合わせたいが、ハーパーのオンザロックでは強すぎて、野菜の旨味を壊してしまうかもしれない。かといってハイボールにすると、料理の繊細な味を流してしまう。料理は、つくってくれた人の心と食材のもっている力の組み合わせで成り立っている。だから、料理の味を損なわず、おいしさを引き出すために、私はオンザロックに10mLのソーダを加えました。これはハーパーを薄くするのが目的ではなく、この料理には少し強すぎるかもしれないハーパーの角を取るため。10mLくらいのソーダを加えるだけで、酒をまろやかにして、料理を引き立てることができる。そう考えたのです」

野口さん、若林さん
野口さん、若林さん

そこでまた料理をひと口。そして、ウイスキーをするりと口に含む。たしかに、その通りだ。酒の角がとれて丸みが膨らみ、料理の味と香りと食感に、見事に寄り添っている。

I.W.ハーバー オンザロックのちょいソーダかあ……。40年酒を飲んできて、こんなうまい料理でバーボンロックのちょいソーダを飲んだの、初めてだ。このペアリング、ホントに痺れます!


――教える人

「若林 英司さん エスキス 総支配人兼ソムリエ 」

1964年長野県生まれ。あの、故ジャン・クロード・ヴリナ氏から、もっとも厚い信頼を得ていた日本のソムリエ。1995年より東京・恵比寿の「タイユバン・ロブション」シェフ・ソムリエ、2003年より「レストラン タテル ヨシノ」の総支配人を務める。2012年から銀座、エスキス勤務。エグゼクティブシェフ、リオネル・ベカの料理をペアリングで華やかに盛り上げる。2023年「ゴ・エ・ミヨ2023」ベストソムリエ賞、2024年「ミシュランガイド東京2025」ソムリエアワード受賞。テレビ等でも活躍し、ペアリングの醍醐味と楽しさを伝える。

「野口真紀さん 料理研究家」

1973年東京都生まれ。料理雑誌の編集者を経て、料理研究家となる。自身の子育て経験も活かし、簡単でつくりやすく、栄養や健康に配慮した家庭料理が人気。自然体なのにおしゃれなライフスタイルも注目されている。著書に、『家族でごはん12か月』(新星出版社)、『ぱらぱらきせかえべんとう』(アノニマ・スタジオ)、『毎日食べて体すっきり 野菜の酢漬けと展開レシピ』(エムディエヌコーポレーション)など多数。


文:大竹聡 撮影:池田博美 編集:木田明理

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