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まるで実写映画の“リアル”な表現…『ガンダム』で難題に挑戦する『閃光のハサウェイ』のアプローチ

  • 2026.1.31

待望の最新作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(以下、『キルケーの魔女』)が公開中だ。第1章である前作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)は、宇宙世紀を舞台とした『ガンダム』作品としてファンから熱い支持を受ける一方で、その完成度の高さから“映画”としても高い評価を受けている。そのポイントとなるのが、「実写映画的=洋画ライク」な映像の見せ方にあると言えるだろう。本稿では、近年のハリウッド映画にも通じるシリアスな技法を取り入れた本作の描写を、村瀬修功監督の趣向や演出の見せ方を含めて解説していきたい。

【画像を見る】ビームライフルで応戦するΞ(クシィー)ガンダム!TV SPOTには「逆シャア」に登場したνガンダムの姿も…

アニメーション制作の最大の利点は、省略と誇張

前提として、アニメーションの制作は「人が絵を描いて動かす」ことであり、省略や誇張によってより印象的に見せられることが最大の利点だ。大ヒットアニメ「鬼滅の刃」を例に出すと、主人公たちが超人的な身体能力を発揮する場面では、実写では不可能なカメラアングルや画面を彩るエフェクトなど、アクションの見せ方を“誇張”することで印象を強めている。また、日常的なやり取りやコメディシーンでは、表情や仕草をデフォルメした作画で“省略”し、わかりやすくするという手法も採られている。

本作の主人公であるハサウェイ・ノア [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
本作の主人公であるハサウェイ・ノア [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

逆に、食事や日常の何気ない仕草といった行動を“リアル”に見せることは、アニメーション制作で苦労する部分となる。視聴する側にとっては、「普段よく見ているもの」が描かれているため、ちょっとした違和感が目立ちやすく、また自然に見せるためには作画に大きな負担がかかるという面もあるからだ。そのため、実写映画のような“リアル”な見せ方は不可能ではないが、しっかりと表現し尽くすには、手間と時間がかかり大きなハードルが存在していると言える。

だが『閃光のハサウェイ』は、あえてその難題に真っ向から挑戦した作品だ。そもそもガンダムシリーズ第1作『機動戦士ガンダム』は、それまでのロボットアニメには無かった戦争や政治を織り交ぜた“リアル”な設定が、以後の人気を支える要素のひとつとなった作品。その後、様々なアプローチで『ガンダム』作品は作られたが、『閃光のハサウェイ』は「モビルスーツが実際に存在する世界」の“リアル”さをより深く描こうとする試みがなされ、実写的な演出を織り交ぜた緻密な作画や演出が徹底されている。

アニメ的“誇張”を徹底的に排除。抑制の効いた演出で広がる緊張感

そこで参照されている可能性があると思うのが、近年のハリウッド映画における映像スタイルだ。なかでも、『ダークナイト』シリーズや『インターステラー』(14)などを手掛けたクリストファー・ノーラン監督や、『007 カジノ・ロワイヤル』(06)からはじまるダニエル・クレイグの『007』シリーズに通ずる見せ方が印象に残る。

多くの映画が影響下にあるといえる『ダークナイト』 [c]EVERETT/AFLO
多くの映画が影響下にあるといえる『ダークナイト』 [c]EVERETT/AFLO

その雰囲気が伝わるのは『閃光のハサウェイ』の冒頭、特権階級だけが搭乗できるスペースシャトル「ハウンゼン356便」内での襲撃シーンだろう。「マフティー」を名乗るハイジャック犯が乗り込み、乗客たちを人質に取るという流れとなっているが、その前にまず豪華な船内の客席や食器などをさりげなく、それでいて印象的に写す。その優雅な場をハイジャック犯がかき乱すまでを、特定のキャラクターに寄ることなく、また音楽なども抑え気味にし、静謐かつやや距離を置いて俯瞰的に見せていく。マスクで顔を隠したハイジャック犯の行動を静かな緊張感と共に描く様子はノーラン監督『ダークナイト』(08)冒頭の銀行強盗のシーンを思い出す。

仮面を被った偽「マフティー」が襲撃する [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
仮面を被った偽「マフティー」が襲撃する [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

そして、ハイジャック犯の銃声でとある夫人はパニックで昏倒し、政府高官夫婦は傲慢な交渉で銃殺される。ここでの効果音は実写映画に近い乾いた銃声が響き、銃から吐き出された薬莢に残った熱がカーペットを焦がす。この描写1つが加えられることで、よりシーンが印象づけられていく。シンメトリーに近いアングルや、不必要にアップにしない画角など、抑え気味の見せ方は、ハリウッド映画的な実写に近い仕上がり。登場人物の心情に寄せる“誇張”を排することで、通常のアニメーションとは一線を画す演出を作り上げている。

一瞬で戦士の眼に…ただ者でないことが一目でわかるハサウェイの動き [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
一瞬で戦士の眼に…ただ者でないことが一目でわかるハサウェイの動き [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

その後、主人公であるハサウェイ・ノア(声:小野賢章)がハイジャック犯を制圧する、アクション映画的な流れになる。ここでは、ハサウェイの主観視点を織り交ぜつつ、スピーディーかつドライな視点でのカメラワークが展開。ここも、アニメーションらしいケレン味は徹底的に排除されている。この抑制の効いた見せ方による、ジワジワと広がる緊張感も実写的だと言えるだろう。

対比的に描かれる三角関係。キャラクターに深みを与える視線と影

実写的な深みを出す演出は、キャラクター描写にも表れている。腐敗した地球連邦政府の治世を覆そうとする反連邦政府運動「マフティー」のリーダーであり、政府高官たちを排除するべく行動しながらも、その暴力的なやり方が正しいのかと思い悩むハサウェイ。裕福なパトロンのもとで暮らし、鋭い直感や洞察力など不思議な魅力を持つ存在として描かれるギギ・アンダルシア(声:上田麗奈)。抜け目のない優秀な軍人であるケネス・スレッグ(声:諏訪部順一)。この3人はある種の三角関係にあり、要所で対比的に描かれる。

キャラクターの視線、仕草が丁寧に描写されていく [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
キャラクターの視線、仕草が丁寧に描写されていく [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

彼ら自身のことはセリフでは説明されないが、その表情や仕草によって内面が映像として伝わるような演出がなされている。ハサウェイは好青年という表の顔でギギとケネスに接し、本心では「マフティー」としての在り方に苦悩する。劇中ではその葛藤を表すかのように、感情が交錯する時には目や顔が画角から外れることで、戸惑いと揺れる本心を隠しているような見せ方がなされる。

一方のギギは、相手の心を見透かしたような言動をする際、視線は強くまっすぐに描かれるが、若さや経験値の浅さからくるメンタルの弱さが垣間見える時には視線が外れる。彼女の不安定な心の動きと連動した視線の変化、つまり彼女の瞳はセリフ以上にギギというキャラクターを描いているように感じる。

グラスの持ち方ひとつでも性格が見えてくる [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
グラスの持ち方ひとつでも性格が見えてくる [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

「ハウンゼン356便」内で共にハイジャック犯を制圧したことをきっかけにハサウェイに関心を持ち、不思議な魅力を持つギギに惹かれるケネス。プライベートでは表情や態度が柔らかくなる瞬間もあり、軍人としては、部下たちに向き合う際、乗馬用のムチを振るうなど、時に厳しさが過度に見える一面も持ち合わせている。それぞれが裏と表を持ち、向き合う面が所々で変化するやり取りは、人間ドラマをより深く見せる効果を現す。

“光と影”の演出は本作の注目ポイント! [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
“光と影”の演出は本作の注目ポイント! [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

また、ギギやケネスに光(照明)が当たっている時、ハサウェイが影にいるようにする明暗を使った演出、食事を摂る時にみせる内面的な要素(節制し綺麗に食事をするハサウェイ、人の食事にも手を出すケネス、朝食からステーキを食べるギギ)など、セリフに頼らず映像でキャラクターの心情や内面を見せる描写も細やか。ここも実写映画における役者が表情で内面を語るような見せ方を積極的に取り入れることで、ほかのアニメーション作品とは異なる手触りを残しているのだ。

かっこよさは存在しない。恐怖すら感じる“巨大兵器”、モビルスーツ

『ガンダム』シリーズと言えば、もう一つの主人公とも言える巨大人型機動兵器=モビルスーツの存在を外すことができない。『ガンダム』作品では、モビルスーツが兵器として描かれたことが世界観のリアリティを引き上げたが、『閃光のハサウェイ』ではその雰囲気がより徹底されている。物語前半に登場するモビルスーツは、軍による威圧の象徴であり、劇中設定では兵器として30年近く利用されている状況を含めて、その世界には馴染みきった形で存在している。不法移民摘発に使用される忌み嫌われる存在として描かれ、機体の全体像さえ映されない演出がされる。物語後半でハサウェイがΞ(クシィー)ガンダムに乗り込むまでは、背景もしくは舞台装置的な存在として描かれ続ける。

現実世界にモビルスーツがあったら?そんな状況を再現するリアルな戦闘シーン [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
現実世界にモビルスーツがあったら?そんな状況を再現するリアルな戦闘シーン [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

物語中盤、「マフティー」がモビルスーツで敵を襲撃するシーンにおいても、いわゆるロボットアニメらしい「格好いいメカが戦うケレン味」は徹底して排除。闇に紛れた強襲で、画面上に見えるのは、暗闇の中にかすかに浮かぶモビルスーツのシルエットと、時折はぜる噴射炎と発砲で尾を引く弾道、そして爆発の煙だ。実際の戦地で撮影されたものや、ニュースなどで見る映像のような、「現実でモビルスーツ同士の戦闘を目撃する」とこの見え方になるはずだという雰囲気が伝わる。

モビルスーツ同士の戦闘では、人間はただ逃げるしかない [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
モビルスーツ同士の戦闘では、人間はただ逃げるしかない [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

この戦闘と重なるように、宿泊中のホテルが攻撃されて脱出を図るハサウェイとギギ。すぐ上空や周辺では交戦が発生しながらも、2人をはじめとする戦闘の被害者たちは、その全貌を把握できずに自己判断で逃げるしかできない。スティーヴン・スピルバーグ監督『宇宙戦争』(05)をも彷彿とさせる襲撃に、モビルスーツの攻撃が周囲にもたらす影響や破壊というディザスター(災害)感もまた実写映画的な雰囲気だ。

モビルスーツが現実に存在すると、どうなるのか

一方で、モビルスーツのパイロットの描写に関しても、実写的リアルが徹底されている。「マフティー」のメンバー、ガウマン・ノビル(声:津田健次郎)を主軸に描かれるコックピット内は、重力があるなかでの浮遊感や降下感、ガウマンの主観視点を織り交ぜた視線の動きなど、ジョセフ・コシンスキー監督の『トップガン マーヴェリック』(22)や『F1(R)/エフワン』(25)にも通じる背景の描き込みや心情が伝わる表情で、モビルスーツに疑似的に乗っているような雰囲気を味わうことができる。そしてパイロットの緊張感が伝わるカメラワークは、実際のカメラでは狭い機内を撮影できないため、実写的な要素も含みつつもアニメだからこその映像であると言えるだろう。

数々の大戦を戦い抜いてきたベテランパイロット、ガウマン [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
数々の大戦を戦い抜いてきたベテランパイロット、ガウマン [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

対する地球連邦軍の切り札、ペーネロペーに対しては、巨大な怪鳥を思わせる異形さと独特の飛行音や高速な動きで、圧倒的な強さを際立たせながらも、あえて機体をアップで映すことはしない。この演出が、未確認の兵器を前に不安感を募らせる兵士の心情にシンクロさせ、戦争映画的な緊張感がさらに強くなる。そして戦闘が激化し、圧倒的な破壊力を発揮する武装を持つモビルスーツが周囲にどのくらいの影響を与えるのかを、観客にまざまざと見せつけることとなる。

戦闘中に機体から外れて落下したビーム・ライフルは周囲に大きな破壊をもたらし、目標を外れたビームの着弾によって逃げ惑う人々は爆風に巻き込まれ、さらに飛び散ったビームの粒子は車止めのポールやアスファルトを溶かす。スラスターの噴射炎は公園の木々を焼き、格闘するモビルスーツの脚部は逃げ惑う人々を簡単に踏み潰す巨大な鉄塊として迫る。そこには、モビルスーツの格好よさは存在せず、動くだけで人々を殺める冷たい兵器としての佇まいだけが描かれる。アレックス・ガーランド監督『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)での緊張感溢れる戦場のような生々しさ、そしてサム・メンデス監督の『007 スカイフォール』(12)を思わせる光と影を活かした演出が、ハサウェイとギギの避難劇をさらに盛り上げていく。

まるで花火のよう…命を奪い合う戦闘のなかにも美しさを表現 [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
まるで花火のよう…命を奪い合う戦闘のなかにも美しさを表現 [c]創通・サンライズ※画像は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より

そして、窮地に追い込まれたガウマンの機体が背部から攻撃され、引火した推進用の燃料が噴出する。圧倒的な破壊をもたらす物であり、悲惨な現実の象徴から吹き上がる火花が美しい花火のように見える。そこに重なる形で、生き残れたことを実感して抱き合うハサウェイとギギの姿を映すシチュエーションも、戦火を美しく映す戦争映画的なインパクトを残しているのだ。

ハサウェイたちのドラマが第2章でさらに激化!

シチュエーションやキャラクターの描き方に加え、モビルスーツの徹底した兵器としての描かれ方も含めて、「かつて大きな戦争があり、未だにその影響下に有り続ける世界」というリアリティ。『閃光のハサウェイ』は、戦争が身近に有り続ける『ガンダム』の世界に正面から向き合い、実写的な手法でストイックに描き切ったところに大きな価値と魅力がある作品となっている。

1月30日に公開となった第2章『キルケーの魔女』では、前作で触れられていた「マフティー」を支持する反地球連邦の私設軍隊と地球連邦軍との衝突に、ハサウェイたち「マフティー」本隊が接触すること展開が繰り広げられる。状況はより戦争映画的な要素に、ハサウェイやギギたちのドラマがどのように絡むのか?第1章とは異なるシチュエーションで披露される実写映画的なアプローチを、ぜひ劇場で目撃してほしい。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は公開中! [c]創通・サンライズ
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は公開中! [c]創通・サンライズ

文/石井誠

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