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室井滋、6匹の愛しい猫たちを見送って「ハエや蚊も、チビの生まれ変わりだと思っちゃうの」《インタビュー》

  • 2026.1.29

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なりゆきで家に迎えた6匹の野良猫と暮らしたにぎやかな日々、そして訪れた「別れの日」――女優・室井滋さんの新刊『やっぱり猫 それでも猫』(中央公論新社)は、もはや猫というより肉親、相棒だった猫たちとの時間を丁寧に描いた心に沁みる書き下ろしエッセイだ。著者の室井さんに本作についてお話をうかがった。

気がついたら飼っていた6匹の野良猫

――この本は書き下ろしですが、何か書くきっかけがあったんでしょうか?

室井滋さん(以下、室井):「猫の本を書きませんか」ってお話をいただいたのが最初ですね。連載とかではないので、文字数などの制約もないからディテールも書けるだろうと、「いつできるかわからないけれど」って2023年の末くらいから書き始めたんです。最初は6匹いた猫たちがタマだけになった頃で、書いている途中でそのタマも逝ってしまいました。みんな17〜23歳と長寿だったので、あの頃は1年ごとに猫たちを見送るみたいな感じでしたね。

猫たちはもともと野良猫だったんですよ。なんとなく家の中に入れざるを得なくなるきっかけがあって、気がついたら6匹飼うことになっていて。猫も哺乳類なんで、どこか自分の老い先を見せられているようですごく勉強になったし、「教えてくれたこと」をちゃんと形にしたいっていう気持ちもありました。

書く上ではあんまり感傷的にならないようにしようとしたんですが、「こんなふうにお別れしました」というのを書こうとすると、やっぱり泣いちゃって。ただ、愛猫ですがなるべく客観的に書きたいなとも思っていたので、そのへんはできたんじゃないかと思っています。

――室井さんと猫たちのふれあいが自然で。元は野良だというのにちょっと驚きました。野良もあんなになつくんですね。

室井:保護猫活動も盛んになってきているので、最近は野良猫がずいぶん減りましたよね。そういう運動の大事さはもちろん理解していますが、なんとなく街の中に普通に野良猫がいないのもちょっとさみしいって相反することも思ったりして。私の住むエリアも昔より野良は減りましたけど、それでもまだいて、そういう猫にせっせとご飯をあげている人たちとかもいたりします。「街の中の猫との物語」がやっぱりあちこちであるのがちらちら見えてくるというか、そういうのがやっぱりいいなって思うんですよ。

ただね、その猫を家の中に入れるかどうかって難しいんです。その子にとって幸せかどうかわからないし、いろいろ悩んで、いざ「入れよう」と思ったら全然来なくなっちゃったりもしますから。自分勝手な思い込みかもしれませんけども、その意味ではうちにいた6匹はたぶんうちに「来たかった」のかもしれない。みんな自分たちは「ずっとここで生まれた」みたいに粗相も1回もしなかったですからね。

――すごい。運命を感じますね。

室井:外で生きるのも危険ですけど、家の中に入ることでかえって寿命を縮めたり、可愛がりすぎて変な病気になっちゃったり、もっとひどいことになるのだけは嫌で。災害だっていつあるかわからないけれど、とにかく天寿をまっとうする以上に元気で長くいてしてほしいという気持ちがすごく強かったですね。それまで好き放題に生きていたロングっていう長毛の子はうちに来た時点で10kgもあって、歳を取ったら糖尿になっちゃったので朝晩にインスリン注射を打ってましたけど、その子以外はあまり大病もせずみんな長生きしました。

猫たちとの別れで実感した「死ぬ」ということ

――本書には猫ちゃんたちとの「別れ」が丁寧に書かれているのが印象的です。生き物を飼っているとその時は必ず来るわけですが、日頃はどんなふうに意識していましたか?

室井:飼い始めたときはみんな若者だったので、たとえばどんどん顔が丸く柔らかい表情になってくると「安心してるんだなー」と嬉しかったものです。一緒に暮らすとその子たちが何を訴えて、何を感じているのかもだんだんわかってきて、相手が「猫」ではなく人間に近いものに思えるようになってくるんですよね。

ロングは10歳過ぎるぐらいからインスリン投与を始めて5年後に亡くなって、そのあとは1匹ずつ年の順に。だんだん歳を取っていくにつれて、眠り方や食べ方も変わってくる。すごくゆっくりゆっくり変わるんですけど、それまでに看取った経験から「こういうふうになったということは、もうあとちょっとかな。なるべくうちにいさせたいな」って予感がするようになって。できる限り仕事以外のことはやめて、その期間は家にいるようにしていました。

――看取りにも経験値が生きるんですね。

室井:ロングに毎日インスリンを打たなきゃいけないって獣医師さんから言われたとき、最初は「絶対できない。本当に大変なことになった」って思ったんですけど、本人が協力的というか治療の意味をこの子なりにわかってると感じてからは、私たちは一心同体みたいになりました。注射の時間が遅れると私も汗ばんで辛くなる気がしました。10kgだった体重は亡くなったときは2kgを切っていましたが、5年って猫にとっては20年ですから、それだけ生き抜いたんだと思うとすごいなって思います。

ロングのケアをしたことで、皮下点滴とか皮下注射もお医者さんの許可をもらえば私が家でもできるようになりました。だからその後の猫たちの看取りは病院には行かず、お医者さんに自宅で診て処方してもらって自分で点滴を打っていました。最後に胃ろうになった子もいたんですが、胃ろうにする処置だけは病院でしてもらって、後は家で最期まで過ごしました。彼らにとっては家がやっぱり最高なので。手術のようなことも高齢の猫には必要ないと思いましたし。野良のままだったらもっと早く違う形で命は閉じたと思うんですけど、せっかくうちに来たんだからなるべく長くいてもらいたかった。「安心する環境」で、もっともっと長く、と。

猫たちはまだ死んでいない

――なりゆきでなった猫飼いですが、室井さんご自身が猫を受け止められるタイミングだったんでしょうか?

室井:チビと出会ったときはとにかくものすごく忙しかったので、最初は他に飼い主を探してたんですね。でもすごい猫好きのうちのおばさん社長から「アンタ飼いなさい」って言われて。「無理。そしたら女優やめなきゃいけない」って答えたら、「なら女優やめなさい」って言われて「えー」ってなってたんですが、結局、3日一緒にいたらものすごく可愛くなっちゃってあげられなくなりました。当時は仕事もありましたけど、やっぱり自分が遊ぶことにも忙しかったんですよね。飲みに、雀荘に、釣りにすごく激しく動いていたんですけど、猫が来てガラッと変わりました。

――そういう変化は嫌じゃなかったのでしょうか?

室井:嫌じゃなかった。その頃は小型船舶一級の免許を取って、休みのたびに真夜中に車で海に出掛けて行って、自分で操船して釣りもしてたんです。チビを飼い始めたのが1999年で、ちょうど2000年になるミレニアムのカウントダウンには、横浜の氷川丸のあたりに船が集まってみんなで汽笛を鳴らして乾杯するイベントがあって、私も自分の船に友人を誘って大はしゃぎしてたんです。そしたら汽笛が怖かったのか、オーナーズルームに入れていたチビがカニみたいに泡吹いてしまって。「降ろして!」って半狂乱で家に帰って、それで「もうやめよう」って船も売りました。気がついたらそのぐらい「かけがえのないもの」になっちゃってたわけです。

――猫と一緒に暮らした一番の影響ってどんな点だと思いますか?

室井:私にとって、彼らは猫の形はしているけど、猫じゃなかったんだと思うんですよ。どの子ともしっかりしたコミュニケーションが取れるから、ずっと喋ってましたし。そして彼らがいなくなった今でも、やっぱりみんなに「行ってくるからね」とか「ただいま。どうしてた?」とか、話しかけています。

ときどきお世話になった動物病院から「すっごく可愛い赤トラを見に来ませんか?」と連絡が来るんですけど、今はまだいいやって。抑えていたものがなんかガラガラ崩れそうな気もするし、自分でも怖いんですよ。もちろん撮影で猫を抱っこしたりなんてことはありますけど、連れて帰りたくなる気持ちを抑えてます。

――本を書いたことで何か心境に変わったことはありますか?

室井:やっぱり私にとって彼らは死んでいないんだと思うんです。実は(猫についての)絵本も書いていて、それを朗読したりするとそのたびに胸がいっぱいになって泣いちゃうんですけど、やっぱり死んでいないんです。チビは特にですが、どの猫も猫じゃなかったんじゃないかと思うし、もしかしたら毛の生えた宇宙人だったかも。ならば今もその辺にいるわね(笑)。

――この本を書き上げて、猫ちゃんたちは何て言ってくれていると思いますか?

室井:書きながら、一緒にいた頃のことを思い出して、あの時はこうだった、こういう感情だったってもう1回自分の中で再現していくわけですけど、猫たちも私の姿に「なんか思い出してるな」って感じてたんじゃないかな。「忘れてないよ」って思ってくれてたり、もしかすると「いつまでもそんなこと言ってんじゃねえよ!」って思ったりしてるかもしれないですけど、間違いなくそばで様子を見てたろうなって思います。って、今も見てるんですけどね。

――なんか室井さんの足元にいっぱい猫ちゃんたちが並んでる絵が浮かびました。

室井:「ペットロス」って言葉がありますけど、私もそうなのかなぁ? じゃあこの先自分はどういうふうにやっていこうか? って考えることがある。このまま飼わないかもしれないし、沢山飼うかもしれない、それは本当にわからない。でも、あの子たちは今も気がついたらいつの間にか横にいますからね。それはそれです。

よく墓参りに行ったらそこに出てくる虫も殺しちゃいけないって言いますけど、私はハエや蚊が来ても「もしかしたらチビなの?」って思っちゃって。ゴキブリもチビなんじゃないのと。「(チビに)もうちょっと修行して違うものになってくれる?」って(笑)。逆に猫たちも虫や蝶々になって「これは気づいたかな?」なんて思っているかもしれません。

取材・文=荒井理恵 撮影=中惠美子

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