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アカデミー賞候補作『ブゴニア』の“変”な魅力を、鈴木ジェロニモとISOが解説!「ものすごく変で、ものすごく人間を見たい人に見てほしい」

  • 2026.1.28

第98回アカデミー賞にて作品賞や主演女優賞(エマ・ストーン)を含む4部門にノミネートされた誘拐サスペンス『ブゴニア』(2月13日公開)。本作のトークショーが1月26日に都内で開催され、お笑い芸人で歌人の鈴木ジェロニモ、ライターのISOが映画の見どころや魅力を語り合った。

本作では丸坊主という衝撃的なルックを披露しているエマ・ストーン

【写真を見る】映画好きとして知られるお笑い芸人で歌人の鈴木ジェロニモ
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韓国の伝説的なカルト映画『地球を守れ!』(03)を現代的なエンタメ作品に脚色した本作。衝撃的なクライマックスに会場が騒然となるなか、ステージに登場した鈴木ジェロニモは、本作の感想について「それはいい、悪いという話ではなく、(意図的に)変だと思わせようとして作っているんだろうなと」と述べる。「瞬間瞬間で『このシーンは好きだな』『このシーンはおもしろいな』というものがあるんですけど、トータルでつなげていくと、自分としては直線だったり、きれいな放物線だったりを描きたかったはずなのに、最終的にできあがったものが自分の予想もつかない形の折れ線グラフだったような。そんな感覚が“変だな”という言葉になりました」 とコメント。

司会を務めたライターのISO
司会を務めたライターのISO

ISOも「僕も最初は『なにを見せられているんだ』という感想だったんですけど、ジワジワとあとからおもしろかったという感想が湧いてきました。テーマとしては陰謀論とか分断だと思うんですけど、どちらを信じるのか、どちら側に立つのかという状況が絶えず揺れ動いていて。観るものに常に問いかけてくるような能動的な作品。観終わったあとに『周りはどんな反応してるんだろう』とキョロキョロしてしまうような作品でした」と振り返る。

続いてISOが「陰謀論とか分断というものがテーマに描かれているという意味で、アリ・アスターさんが最近発表した『エディントンへようこそ』という映画にも共通する部分があるんですが、『ブゴニア』のほうがよりカリカチュアされているというか。心理的なパワーゲームみたいなところがあって、エンタメとして昇華されているという印象がありました」と説明した。

さらにISOは、ヨルゴス・ランティモス監督の作家性として不条理な社会を描きつつ、人間の滑稽さを描くことにあると指摘。「彼はいままでの作品でも“支配”というものを描いてきました。閉じられた空間に人を閉じ込めて支配する『籠の中の乙女』や、特定のシステムやルールに支配される人間を描いた『ロブスター』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』など、不条理なルールを強いられる人の苦しみみたいなものを描いてきたんです」と前置きしつつ「今回も不条理ですけど、片方がやられっぱなしではない。不条理の奪い合い、支配権の奪い合いみたいなところが、これまでのランティモス作品と違い、エンタメに昇華している部分じゃないかなと思いました」と語る。

誘拐された側と誘拐した側との心理戦が見どころ [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
誘拐された側と誘拐した側との心理戦が見どころ [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

ストーン演じるカリスマ経営者ミシェルと、ジェシー・プレモンス演じる彼女を宇宙人だと信じて疑わない陰謀論者テディたちの、かみ合わない会話のやりとりも映画の見どころとなる。「かみ合っていない会話って、コントでも笑いの要素として演じられることがあるんですけど、あのかみ合わなさって、そもそも目線が合っていないところがあると思っているんです」と言う鈴木が、「(両者が言い合うシーンでは一緒に映らずに)お互いの顔のカットだけが映し出されているのってまさにレスバ(レスポンスバトル)的ですよね」と指摘すると、ISOも「レスバというのは本当にその通りで。議論をせずに“いかに自分の主張が正しいか”を押しつけ合うというので、結構なじみがある光景だなと思ったんですけど、それってTwitter(現:X)だなと思って。Twitterって議論じゃなくて『いかにこっちが正しいか』と、自分の言いたいことばかり主張していますよね。そういうのは、いまの分断を象徴するやり取りだなと思いました」とコメント。

本作は2003年の韓国映画『地球を守れ!』が大好きだったというアリ・アスターが、ランティモス監督に同作を持ち込んだところから映画化がスタートした。「原作自体は大体同じような流れなんですけど、CEOがおじさんだったりといった違いがあります。ただ大きな違いとしては、もうちょっとB級寄りでばかばかしい映画なんです。(誘拐犯が)アンテナ付きのヘルメットをかぶったり、ビニールでできたスーツを着たりして。それってきっと陰謀論との距離がいまよりだいぶ遠かったからだと思うんです」と解説するISO。

「この複雑な社会は非常に入り組んでいて。不条理なことに声を上げてもなかなか声が届かない。複雑ゆえにいまいち理解できないところもありますけど、陰謀論ってある意味それをすごくシンプルに語ってくれるんです。だから納得できないものを自分のなかで腹落ちさせる手段としては、結構“癒やし”の手段なのかなと思ったりもするんです。社会に対して無力感を抱いたりする時も、陰謀論を身に着ければどんどん真相に近づいている気がするし、自分に価値を見いだすことができる。そういったシステムの欠如の結果、生まれたものなのかなと。それは共感はしないけど理解はできるなと思います」とコメント。

本作では丸坊主という衝撃的なルックを披露しているエマ・ストーン [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
本作では丸坊主という衝撃的なルックを披露しているエマ・ストーン [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

続いて、主演のストーンの役作りについてISOは「エマ・ストーンは、これまでヨルゴス・ランティモスのいろいろな映画に出てきたんですけど、毎回挑戦的な役柄をやっていて。今回は丸刈りになっているんですけど、その条件が『監督もやるよね』といったこと。彼女がやったあと、すぐに監督も丸刈りになったそうです」と明かし、LAの試写会において「丸刈りの人か、その場で(用意された特設理容室で)丸刈りにできる人だけが入場できるということをやって。丸刈りということにものすごく価値を付与していたんです」というエピソードを披露。その世界観作りの徹底ぶりに会場からも驚きの声が漏れた。

2人ともこの日が2回目の鑑賞だったそうで、「2回目の方が全体のトータル感で見ることができて、楽しめました」と鈴木が語れば、ISOも「最初は結構振り回されていたので、2回目は落ち着いて見ることができた。すると構造的な部分が見えてきたし、音楽や映像のおもしろさに改めて気づくことができた」とコメント。今回、アカデミー賞にもノミネートされているイェルスキン・フェンドリックスが手掛けた音楽や、「ビスタビジョン」という35ミリフィルムを使用して撮影した映像などについて、興味深い話を次々と明かした。

映画『ブゴニア』の魅力を語り合った
映画『ブゴニア』の魅力を語り合った

最後に鈴木が「僕は開口一番、『変でしたね』ということを言いましたが、今日ISOさんとお話しさせていただくなかで“変だ”というのはものすごく人間的だと思ったんです。陰謀論はきれいすぎるというか、3Dプリンターで作られたように、形が整いすぎていると思っていて。きれいすぎることは実は違和感があるんじゃないかなと思うんですが、この映画が変だと感じたということは、ものすごく人間を感じたということなのかもしれません。ものすごく変で、ものすごく人間を見たい人にぜひ見てほしい映画だなと改めて思いました」 とコメント。

ISOも「本当にこの映画は、1回目よりも2回目の方が落ち着いて観られますし、発見もいろいろあるので。音楽もそうですが、映像もなかなか凝っているので。ぜひもう一度劇場で見て、いろいろと発見していただければ」と会場に呼びかけ、イベントを締めくくった。

文/山崎伸子

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