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『ワンバト』や「アドレセンス」が席巻した「第83回ゴールデン・グローブ賞」を振り返り!『鬼滅の刃』プロデューサーに当たった意外なスポットライトとは?

  • 2026.1.24

2026年1月11日、ロサンゼルスのザ ビバリー ヒルトンで開催された第83回ゴールデン・グローブ賞授賞式は、最多9部門にノミネートされていたポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』(25)が、ミュージカル&コメディ部門作品賞など4冠を達成し、下馬評どおりの圧倒的な強さを見せた。ドラマ部門では、クロエ・ジャオ監督の『ハムネット』(4月10日日本公開)が作品賞と主演女優賞(ジェシー・バックリー)を獲得。テレビ部門では、Netflixの「アドレセンス」がリミテッド・シリーズ作品賞、主演男優賞(オーウェン・クーパー)など4冠を達成した。

【写真を見る】『ワン・バトル・アフター・アナザー』で作品賞・監督賞・脚本賞の3冠を達成したポール・トーマス・アンダーソン監督

『ワンバト』をはじめ、多くのヒット作を送り出したワーナー・ブラザース映画

ミュージカル・コメディ部門の最優秀作品賞に輝いた『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、「革命」を題材としたポリティカル・アクションという野心的な企画でありながら、現代性とエンタテインメント性を高い次元で両立させた作品として評価されている。ポール・トーマス・アンダーソンは、作品賞に加えて監督賞、脚本賞も受賞し、作品賞・監督賞・脚本賞の3冠を達成した。

【写真を見る】『ワン・バトル・アフター・アナザー』で作品賞・監督賞・脚本賞の3冠を達成したポール・トーマス・アンダーソン監督 Gilbert Flores/2026GG
【写真を見る】『ワン・バトル・アフター・アナザー』で作品賞・監督賞・脚本賞の3冠を達成したポール・トーマス・アンダーソン監督 Gilbert Flores/2026GG

受賞スピーチでは、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)以来の盟友であり、昨年亡くなった助監督のアダム・ソムナーに哀悼の意を表した。短いスピーチのなかでアンダーソン監督は、ザ ビバリー ヒルトンのボールルームに集った映画関係者を代表するかのように、ワーナー・ブラザース映画部門社長マイケル・デ・ルカを称賛した。

「今夜、繰り返し耳にする名前があるでしょう。心から感謝を伝えたい人物がいます。彼は数多くの映画を支えてきました。25年、あるいは30年前、彼は私の人生に現れ、私の味方となり、私と私が作りたい映画を、たったひとりで支えてくれました。彼は『いつかスタジオを経営し、君たちのような監督に自由に創作させてあげたい』と語っていました。だからこそ『罪人たち』が生まれ、『WEAPONS/ウェポンズ』が生まれ、次々と傑作が生まれたのです。心から感謝しています」

2025年に数々のヒット作を送り出したワーナー・ブラザース映画を率いたデ・ルカに、この場で感謝を述べることは、今後数か月のうちにハリウッドで起こりうる変化への牽制とも受け取れる。会場には、デ・ルカと共同社長のパメラ・アブディのほか、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー社の売却を主導するデヴィッド・ザスラフCEO、買い手に名乗りを上げたNetflixのテッド・サランドス共同CEO、さらにWBDとNetflixの買収合意に対し敵対的買収を仕掛けている最中の、パラマウント・スカイダンス社CEOデヴィッド・エリソンの姿もあった。

受賞作には日本公開を控える作品も多数

ドラマ部門では『ハムネット』が作品賞と主演女優賞(ジェシー・バックリー)の2冠を達成した。シェイクスピアの息子の死を題材にしたこの文芸作品は、スティーヴン・スピルバーグが企画し、クロエ・ジャオに監督を託したことで知られる。授賞式にはスピルバーグ自身も出席し、プロデューサーとして彼女たちの栄誉を静かに見守っていた。

『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオが監督を務めた映画『ハムネット』(4月10日日本公開) Rich Polk/2026GG
『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオが監督を務めた映画『ハムネット』(4月10日日本公開) Rich Polk/2026GG

ミュージカル・コメディ部門の主演男優賞は、ティモシー・シャラメが『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(3月13日日本公開)で受賞した。同作からの受賞はこの1冠のみだったが、『マーティ・シュプリーム』はシャラメ自身が北米公開時にマーケティングの指揮を執り、A24史上最高の北米興行収入記録を更新中である。演技力やスター性だけでなく、作品への深いコミットメントが評価され、今後のアワードレースでも躍進が期待されている。

ティモシー・シャラメ主演『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は3月13日(金)日本公開 Tommaso Boddi/2026GG
ティモシー・シャラメ主演『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は3月13日(金)日本公開 Tommaso Boddi/2026GG

女優部門では、同じくA24作品である『If I Had Legs I’d Kick You(原題)』(25)のローズ・バーンが、ミュージカル&コメディ部門主演女優賞を受賞した。本作は、ジョシュ・サフディと共に『マーティ・シュプリーム』の脚本を執筆したロナルド・ブロンスタインの妻であるメアリー・ブロンスタインが、監督、脚本を手掛けている。

アニメーション映画賞は、Netflixの『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(25)が受賞した。同作の劇中歌で、Billboard Hot 100において8週連続1位を記録したHUNTR/Xの楽曲「Golden」は、主題歌賞も獲得している。韓国ポップカルチャーとアニメーションを融合させた本作は、Netflixがグローバル市場で影響力を拡大している現状を象徴する存在だ。

惜しくも受賞を逃した『鬼滅の刃』に当たった思わぬスポットライト

同部門には日本から『劇場版「鬼滅の刃」 無限城編 第一章 猗窩座再来』(25)がノミネートされていたが、Netflix史上最高視聴数を更新中の『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の勢いは圧倒的で、その牙城を崩すには至らなかった。

しかし『鬼滅の刃』は、思わぬ形でスポットライトを浴びることになる。製作のアニプレックスの岩上敦宏社長が、米「GQ」誌によるゴールデン・グローブ賞の「メンズウェア・ベストドレッサー10名」に選出されたのだ。GQ誌は、「授賞式のレッドカーペットには、著名なスターたちよりもはるかに洗練された装いを披露する、一般には知られていない業界関係者が少なくとも一人いる」と前置きしたうえで、岩上氏について「伝統的なディテールがふんだんに施された超クラシックなフォーマルスタイルに、ジル・サンダーの椰子の木モチーフのクラッチバッグを巧みに調和させていた」と評している。

今年最大のサプライズとなったのは、クレベール・メンドンサ・フィリオが監督を務めたブラジル映画『シークレット・エージェント』(2026年日本公開)が、非英語映画賞に加え、ドラマ部門の主演男優賞(ワグネル・モウラ)を受賞したことだ。

軍事政権下のブラジルを舞台に描かれる政治スリルサスペンス『シークレット・エージェント』で主演を務めたワグネル・モウラ Tommaso Boddi/2026GG
軍事政権下のブラジルを舞台に描かれる政治スリルサスペンス『シークレット・エージェント』で主演を務めたワグネル・モウラ Tommaso Boddi/2026GG

1970年代のブラジル軍事独裁政権下で身を隠さざるを得なかった教授を演じたモウラは、『罪人たち』(25)のマイケル・B・ジョーダンら有力候補を抑えての受賞となった。同賞候補作の多くが他部門にもノミネートされるという強豪部門で、ゴールデン・グローブ賞が世界各国のジャーナリストによって選ばれている賞という観点からも、国際映画の台頭は今後も続くことだろう。

「アドレセンス」がノミネートされた4部門をすべて制覇

テレビ部門では、Netflixの「アドレセンス」が、昨年のエミー賞に続き圧倒的な強さを見せた。リミテッドシリーズ作品賞に加え、オーウェン・クーパー(助演男優賞)、エリン・ドハティ(助演女優賞)、スティーヴン・グレアム(主演男優賞)が演技部門を独占。16歳のクーパーは、史上最年少での助演男優賞受賞という記録を打ち立てた。少年犯罪と周囲の人々の衝動をワンカット風に撮影した「アドレセンス」は、ノミネートされた4部門すべてを制覇する完璧な結果となった。

「アドレセンス」で助演男優所を受賞したオーウェン・クーパーは、16歳で史上最年少の受賞 Rich Polk/2026GG
「アドレセンス」で助演男優所を受賞したオーウェン・クーパーは、16歳で史上最年少の受賞 Rich Polk/2026GG

ドラマシリーズ部門では、HBOの医療ドラマ「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」が作品賞と主演男優賞(ノア・ワイリー)の2冠を獲得した。かつてドラマ「ER 緊急救命室」で名を馳せたワイリーは、リアルタイム形式で展開される本作において、円熟味を増した演技を見せ、高く評価された。

女優部門では、レア・シーホーンがApple TVの「プルリブス」で主演女優賞(ドラマ部門)を初受賞。「ベター・コール・ソウル」で幾度もノミネートされながら受賞に至らなかった彼女にとって、この栄冠は特別な意味を持つものとなった。

“幸福”で支配された世界で人々を救おうと奔走する孤独な主人公・キャロルを演じたレア・シーホーン Gilbert Flores/2026GG
“幸福”で支配された世界で人々を救おうと奔走する孤独な主人公・キャロルを演じたレア・シーホーン Gilbert Flores/2026GG

コメディ部門では、Apple TVの「ザ・スタジオ」が作品賞と主演男優賞(セス・ローゲン)の2冠を達成した。ハリウッドのスタジオシステムをパロディ化した本作では、劇中でゴールデン・グローブ賞授賞式を描くエピソードも制作されており、その偶然も話題を呼んだ。ローゲンはスピーチで、「パロディをやっていたら本当になってしまった。このトロフィーを手に入れるには、自分でドラマを作って自分に与えるしかないんですね」と語り、会場の笑いを誘った。

ゴールデン・グローブ賞からひも解く2026年の“ハリウッドの実像”

今年の授賞式で印象的だったのは、ベテラン俳優たちの健闘である。ノア・ワイリー、ジーン・スマート、ステラン・スカルスガルドといった実力派が次々と受賞し、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツがプレゼンターとして登場したことで、かつてのハリウッド黄金期への郷愁が会場に漂っていた。

プレゼンターとしてジュリア・ロバーツと共に登場したジョージ・クルーニー Rich Polk/2026GG
プレゼンターとしてジュリア・ロバーツと共に登場したジョージ・クルーニー Rich Polk/2026GG

皮肉なことに、クルーニーが主演したNetflix作品『ジェイ・ケリー』(25)は、急速に消えゆくハリウッドのスターシステムへの惜別を描いた作品である。また、テレビシリーズ部門で人気を博した「ザ・スタジオ」も、変化するビジネス環境のなかで純粋な芸術性を守ろうとするスタジオ社長の悲喜を描いている。

ワーナー・ブラザースは、『ワン・バトル・アフター・アナザー』、『罪人たち』、そしてHBOの「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」で主要部門を席巻した。しかし、スタジオ自体の将来については、依然として不透明感が漂っている。ハリウッド全体が政治的、技術的な激変期を迎えるなかで、今回の授賞式は、業界全体が防御的な姿勢を取っているようにも映った。

今年、最も物議を醸したのは作曲賞の扱いだった。授賞式直前にDeadline誌が報じたとおり、作曲賞は時間的制約を理由に生放送では発表されず、『罪人たち』のルドウィグ・ゴランソンの受賞がオンラインのみで公表されるという異例の措置が取られた。

『罪人たち』は作曲賞に加え、興行成績賞を受賞した Rich Polk/2026GG
『罪人たち』は作曲賞に加え、興行成績賞を受賞した Rich Polk/2026GG

1週間前に行われたクリティクス・チョイス・アワードでも、国際長編映画賞がレッドカーペットで授与されるという出来事が起きている。『シークレット・エージェント』は昨年のカンヌ映画祭で監督賞、男優賞、国際批評家連盟賞などを受賞しており、同賞でも複数部門にノミネートされていたクレベール・メンドンサ・フィリオ監督に、レッドカーペットのインタビュー中に国際長編映画賞のトロフィーが無造作に手渡された。

その後、作品賞のプレゼンターとして登壇したフィリオ監督と主演のワグネル・モウラは、英語作品が並ぶノミネート作を紹介する際、「(この作品賞こそが)ブラジルでは国際長編映画ですけどね」と語り、授賞式最大の笑いをさらったという。

「あらかじめ決められた放送スケジュールからの解放」は、Netflixがかつて宅配DVD事業から配信事業へと舵を切った際に掲げた理念だった。放送時間に合わせるために発表部門を制限したり、受賞スピーチを短縮するための工夫は、ゴールデン・グローブ賞やクリティクス・チョイス・アワードに限らず、アカデミー賞においても長年の課題であり続けている。

この「放送時間制限」からの解放は、2028年からアカデミー賞の生中継がABCからYouTubeへと移行する決定とも無関係ではないだろう。より柔軟な配信プラットフォームへの移行は、すべての受賞者に等しく敬意を払い、国際映画をはじめとする多様な作品を適切に扱うための、新たなハリウッドの幕開けを示唆している。その一方で、老舗スタジオは配信プラットフォームへと飲み込まれていく。こうした矛盾した空気感こそが、2026年のハリウッドの実像なのかもしれない。

<主要受賞作品・受賞者一覧>

●映画部門

作品賞(ドラマ):『ハムネット』

作品賞(ミュージカル・コメディ):『ワン・バトル・アフター・アナザー』

監督賞:ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)

脚本賞:ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)

主演男優賞(ドラマ):ワグネル・モウラ(『シークレット・エージェント』)

主演女優賞(ドラマ):ジェシー・バックリー(『ハムネット』)

主演男優賞(ミュージカル・コメディ):ティモシー・シャラメ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)

主演女優賞(ミュージカル・コメディ):ローズ・バーン(『If I Had Legs I'd Kick You(原題)』)

助演男優賞:ベニチオ・デル・トロ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)

助演女優賞:テヤナ・テイラー(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)

作曲賞:ルドウィグ・ゴランソン(『罪人たち』)

アニメーション映画賞:『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』

主題歌賞:「Golden」(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』)

興行成績賞:『罪人たち』

非英語映画賞:『シークレット・エージェント』

●テレビ部門

ドラマシリーズ作品賞:「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」

コメディシリーズ作品賞:「ザ・スタジオ」

リミテッドシリーズ作品賞:「アドレセンス」

主演男優賞(ドラマ):ノア・ワイリー(「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』)

主演女優賞(ドラマ):レア・シーホーン(「プルリブス」)

主演男優賞(コメディ):セス・ローゲン(「ザ・スタジオ」)

主演女優賞(コメディ):ジーン・スマート(「Hacks(原題)」)

主演男優賞(リミテッドシリーズ):スティーヴン・グレアム(「アドレセンス」)

主演女優賞(リミテッドシリーズ):ミシェル・ウィリアムズ(「人生の最期にシたいコト」)

助演男優賞:オーウェン・クーパー(「アドレセンス」)

助演女優賞:エリン・ドハティ(「アドレセンス」)

ベストポッドキャスト賞:「Good Hang With Amy Poehler」(エイミー・ポーラー)

スタンドアップコメディ・パフォーマンス賞:リッキー・ジャーヴェイス「リッキー・ジャーヴェイスのどうせ皆死ぬ」

文/平井伊都子

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