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「仁左衛門のおにいさんが偉大過ぎて…」尾上左近が舞台で感じた〈人間国宝〉の圧倒的な存在感

  • 2026.1.24
尾上左近さん。(右:『菅原伝授手習鑑』苅屋姫 ©松竹)

いま、歌舞伎界では注目の若手がみるみる輝きを増しながら成長を続けています。そんな彼らが一堂に会する公演が「新春浅草歌舞伎」。中村橋之助さんを筆頭に主要キャストがそれぞれの個性を生かしてさまざまな役を演じている中、今回クローズアップするのは尾上左近さんです。昨年は「歌舞伎『刀剣乱舞』」でも幅広い層から注目を集め、2026年のさらなる大躍進が予想される左近さんの初登場インタビューです。


浅草『男女道成寺』で鳴りやまぬ拍手

――昨年に続き2度目のご出演となる「新春浅草歌舞伎」。まずはこの公演についての率直な感想からお聞かせください。

若手が主体となって上演する公演に出演するのは「新春浅草歌舞伎」が初めてだったので、前回はそれがとても新鮮でした。今年は新体制となって2年目ということもあり、個人的にもリラックスして挑めています。やはりお客さまの力は凄いもので稽古の時より楽しんで舞台に立たせていただいています。千穐楽まで精一杯勤めますので、一度ご覧になった方もまた二度、三度とご来場いただけると幸いです。

――第2部で上演中の『男女道成寺』は女方がひとりで踊る『娘道成寺』のアレンジ・バージョン。どんなことを心がけて踊っていますか。

『男女道成寺』白拍子桜子実は狂言師左近 ©松竹

とにかく基礎に忠実に、そして行儀よく、です。踊りの名人と言われる方々の舞台を拝見すると自分流に自由に踊っているような印象も受けますが、それは基礎がしっかりと出来ているから成り立っていること。経験の浅い僕らがそれを真似したらとんでもないことになってしまいます。「新春浅草歌舞伎」第2部の最後を飾る演目なので、お客様に楽しんいただけるよう華やかなものにしたいという気持ちで臨んでいます。

――まさにその通りの舞台となっています。中村莟玉さんの白拍子花子と左近さんの白拍子桜子実は狂言師左近、そして強力役の中村橋之助さん、市川染五郎さんの4人が顔を揃える華やかな幕切れは大変な盛り上がりで拍手が鳴りやみません。

ありがとうございます。「山尽くし」といわれる鞨鼓(かっこ)を用いた踊りのパートでは立廻りも取り入れているので、そこからの流れもあって喜んでいただけているのではないでしょうか。

『男女道成寺』白拍子桜子実は狂言師左近 ©松竹

――「道成寺」ものにはいろいろなバリエーションがありますが、『男女道成寺』ならではの、見どころをもうひとつ挙げていただけますか。

例えば「恋の手習い」という男女の恋愛模様を描いたところは、ひとりで踊る場合は花子の恋人はお客様にとって想像上の人物でしかありません。『男女道成寺』では狂言師左近が花子の恋の相手として目の前に現れます。ふたりで表現しますので、初めてご覧になる方にもとてもわかりやすいと思います。

娘役でわからないことがわかった!

『梶原平三誉石切』梢 ©松竹

――第1部の『梶原平三誉石切』では、染五郎さん演じる梶原平三と密接にかかわることとなる六郎太夫の娘・梢を演じています。歌舞伎に登場する娘役として代表的なもののひとつですね。

女方も勉強したいと思うようになってからはいずれはと思っていた役です。親を思う気持ちを大切に、芝居の中で紅一点の存在であることも意識して娘らしい可愛らしさを出せるよう心がけています。

――娘役といえば、昨年10月に歌舞伎座で上演された『義経千本桜』Aプロでのお里が健気で可愛らしく、とても印象に残っています。

ありがとうございます。お里は自分にとって初めての娘役で大変でした。例えばお姫様の場合は、何もしていない時の袂の扱いなどに決まりがあるんです。だからそれに則っていればある程度はそれらしい形にはなるのですが、何気ないシーンでも「この手はどうすればいい?」みたいな状態で。いざ舞台に立ってみてわからないことがわかり、自分などは女方として赤子のようなものなんだなと思いました。新作でもそれを痛烈に感じます。

『義経千本桜』お里 ©松竹

――直近で言うと12月の超歌舞伎Powered by IOWN『世界花結言葉』での初音姫実は白鷺の精霊とか?

はい。このせりふを言う時はどんな形を取るべきか、相手のせりふにどうリアクションすべきかでいちいち立ち止まってしまい、すぐには反応できませんでした。経験はもちろんですが、先輩の舞台を日々拝見して勉強することの大切さを実感しています。技術を一つひとつ学んで、稽古で身につけて……という努力の積み重ねなしにできるものではありません。もちろんそれは立役にも通じることですが、女方はより特殊な技術を必要とされるように感じています。まさに職人芸なんだと思いました。

超歌舞伎Powered by IOWN『世界花結詞』初音姫実は白鷺の精霊 ⓒ松竹/超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』

――『義経千本桜』でお里が登場するのはお里の兄・いがみの権太を主人公とするエピソード。Aプロでのお里に対してBプロでは立役の主馬小金吾も演じました。どちらも若手俳優にとっては登竜門と言える役ですね。

小金吾は自分に限らず若手が憧れる大役のひとつです。(自分と年齢の近い)前髪の若衆の役なので発声もことさら意識してつくらなくても済みますし、割とすんなりと入れました。昨年勤めた役のなかで一番しっくりきたお役だった気がします。そうはいうものの気持ちがはやるとキーキー叫んでしまいそうになり、そこの両立は本当に難しかったです。

仁左衛門から得た一生の宝

――気持ちとスキルの融合は常に直面する課題なのでしょうね。竹藪での場面は歌舞伎の代表的な立廻りのひとつで大きな見どころですね。

立廻りそのものは純粋に気持ちよかったです。手負いであることに特徴があり、若衆らしい色気や憂いが必要な役なので、それを意識しながら勤めました。命果てる寸前に仕えていた御台様と若君を送り出すのですが、そこではいろいろなことを考えさせられました。また演らせていただける機会があったら、その時は別の気持ちでやってみたいとも思いました。ただそれを具体的に話したくないのですが……。すみません。

――いえいえ、次に拝見できた時にどのような小金吾となるか楽しみにしたいと思います。そんなふうにいろいろなことを考えたくなる役なのですね。

はい。とにかくしどころのある役だと思いました。

『義経千本桜』主馬小金吾 ©松竹

――立廻りに至る前、小金吾は茶店で出会った権太にお金を騙し取られてしまいます。権太を演じていらしたのはこの役を何度も勤められている片岡仁左衛門さん(人間国宝)でした。相対してみての実感は?

もう仁左衛門のおにいさんが偉大過ぎて……。自分がどう出ようとも受け止めてくださるので何のためらいもなく小金吾として突っ込んでいけました。

――小金吾にとっては初めての出来事だけど、権太にはよくある日常の風景。もはや役を楽しんでいるかのような余裕をも感じさせる仁左衛門さんの懐に、真正面から向かっていく左近さんの姿を清々しい思いでご覧になっていた方も多いと思います。

ありがたいことに去年は歌舞伎座で通し上演された三大狂言すべてに出演させていただきました。そしてどの作品でも仁左衛門のおにいさんのそばで重要な役を勉強させていただけたのは、自分にとって一生の宝です。

――三大狂言とは『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』。左近さんは『仮名手本忠臣蔵』では大星力弥、『菅原伝授手習鑑』では苅屋姫を演じられ、どちらも仁左衛門さんとは親子の役。

とにかくおにいさんが勤められる役に対する人物としてちゃんとそれらしく見えるように、という思いでした。

『菅原伝授手習鑑』苅屋姫 ©松竹

文=清水まり
撮影=深野未季(インタビュー)

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