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朝ドラの“15分の演出力”が話題に「金曜日は神回」「毎回泣かされる」視聴者に“何かある”と思わせる巧みなマジック

  • 2026.2.6
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『ばけばけ』第13週(C)NHK

髙石あかりがヒロインを務める朝ドラ『ばけばけ』について、話題をさらった2025年末の伝説回からというもの、すっかり“金曜日の演出がとくに上質”という共通認識が定着した。金曜放送回は毎週のように「金曜日は神回」「毎回泣かされる」と話題になっている。その理由として、極力セリフを削ぎ、光と沈黙を操り、言葉で感情を説明しすぎないという緻密な演出設計があるように思える。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“金曜神回”と名高い理由

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『ばけばけ』第13週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』の金曜回は、どこか心して観る日である。たった15分、されど15分。泣かされるかもしれないし、大きく心が揺さぶられる展開があるかもしれない。毎週のようにそんな予感を抱かせる朝ドラは、そこまでは多くないはず。

“神回”とSNS上でも話題になる理由として、まず研ぎ澄まされたセリフまわしが挙げられる。前週の流れを汲みつつ、月曜から木曜にかけて積み重ねていく関係性や感情を、金曜で結実させる。そこに過剰な説明はなく、あくまで登場人物の沈黙や呼吸、間、ほんのわずかな表情の揺れに委ねる。

第13週「サンポ、シマショウカ。」最終65回で話題となった宍道湖の夕景シーンは、その象徴である。思いを通じ合わせたトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が手をつなぎ、ゆっくりと佇む。ただそれだけの場面だが、セリフは最小限に抑えられ、湖面の光とふたりのシルエットが、感情を表現している。正直、朝ドラでここまでやってくれるのか、と感動が幾重にも押し寄せる場面だった。

あえて物語を綺麗に閉じない

もうひとつ、金曜日に顕著なのが光と影の使い方である。逆光、夕暮れ、夜のシーン。画面の彩度が落とされ、コントラストが強調される。どんなに幸福な場面であっても、どこか不穏な影が差し込む。そこに、もはや『ばけばけ』の真骨頂とも言えるスローモーションの妙が合わさることで、ますます物語への没入感を増幅させる。

すでに第1週でその趣は表れていた。幼少期のトキ(福地美晴)が、父の司之介(岡部たかし)とともに笑顔で屋台の群れを練り歩いていたシーン。その直後、松野家は多大なる借金を背負って返済地獄に陥る。

方々に滲み出る演出の巧みさは、視聴者を泣かせることよりも、あえて“感情を持ち越させる”ことに主眼を置いているようにも見える。あえて物語をきれいに閉じることなく、新たな問いを来週まで置いておくことも。サワ(円井わん)のプロポーズ拒否、錦織(吉沢亮)の進路、借金完済後に漂い始める不穏な空気。視聴者は答えを与えられないまま、土日を迎える。

これは単なる感情操作ではなく、視聴者を物語の当事者に引きずり込む演出と言っていいだろう。解釈を委ねられた視聴者は、無意識のうちに登場人物の感情を自分のなかで反芻し続けることになる。

確立された演出文法

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『ばけばけ』第13週(C)NHK

興味深いのは、この“金曜日神回”が偶発的な成功ではない点だ。回を重ねるごとに、視聴者は“金曜は何かある”と学習し、身構えるようになった。それでもなお期待を裏切らず、毎回違う角度から感情を揺さぶってくる。これは演出文法が確立され、意図的に運用されている証拠だろう。

『ばけばけ』の金曜日は、物語のクライマックスではない。むしろ、感情がもっとも静かに、深く沈んでいく地点になっている。感情を揺さぶられ、涙を流した理由をうまく説明できなくてもいいのだ。ただ受け取ってしまった何か、その余韻こそが、“神回”と呼ばれる最大の理由なのだから。

18週以降にかけても、油断はできない。「ラシャメン」と揶揄され、心ない言葉を投げられるようになったトキだが、江藤知事(佐野史郎)にまつわる新たなゴシップが報じられるや否や騒動は下火に。万事解決かと思いきや、錦織の経歴に関して新たな火種が投じられる予感もある。

次も、その次の金曜日も、きっと私たちは同じようにテレビの前で構える。そしてまた、セリフの少ない静かなラストに、言葉にならない感情を託すことになるかもしれない。ごく稀な視聴体験そのものを、演出によって作り上げている『ばけばけ』の凄みは、底が知れない。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_