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東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第30回(やまぎわ)「素人は黙っとれ、は芸人として正しい態度か」

  • 2026.1.22
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵やまぎわ
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵やまぎわ

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第30回はやまぎわ回。

第30回(やまぎわ)「素人は黙っとれ、は芸人として正しい態度か」

この記事にたどり着くあなたは、日々自身の肩書を問う「プロの芸人」でしょうか。それとも、お笑いが大好きなゆえに色々と考えてしまう「素人」の方でしょうか。

こんなことを尋ねておいてですが、僕は芸人における「プロ/素人」という線引きは、論争に耐え得るほどの実体を持たない概念だと思っています。

昨今、「プロ」と「素人」というものを明確に峻別した話題が、芸人界のニュースを席巻しているようなイメージがあります。

例えば「素人は発信をするな、批評をするな」といった、プロと素人を強く区別した発言が取り沙汰され議論の肴となっております。「素人だからって何も言ってはいけないのか?」という否定的な文脈だけではありません。「確かに素人がプロに口出しするのは違うだろ」と素人陣営からプロ陣営を擁護する意見も散見されます。

むしろお笑いシーンでは「プロ礼賛」の潮流すらあり、令和ロマンくるまさんや霜降り明星粗品さんに代表されるような、「プロにしか持てない高度な視点」からお笑いを評論する行為そのものが、観客に「やっぱりプロはすげえわ……」といった畏敬の念を与えています。

僕はそういった「プロ/素人」を明確に二分した議論を目の当たりにするたびに正直モヤります。それはその議論の中で「プロの芸人」というもの自体が、およそ明確に定義されていないからです。されていないより、定義できない、という方が僕の感覚には近いですが。

他のプロと呼ばれる種々の職業からプロの定義を借りるなら、例えば「芸人専業であること」などが考えられるでしょうか。それなら、僕は平日昼間正社員として働いていて、その定義ではプロの風上にも置けません。ただ僕を「素人」とみなす人はほとんどいないでしょう。

「そらそうや、あんたは事務所に所属してるやんか」と思った人もいるでしょうか。確かに事務所に入っているか/いないか、というのは最も大衆支持を得られそうなプロ/素人の定義でしょう。このような客観的な指標は、誰が見ても同じ分け方になるという点で優れています。

しかしそれでは上記のように、プロ=「素人とは別格に高度な視点を持つ面白い存在」、と100%言い切れるでしょうか。正直、事務所所属の芸人の中でも、ピンからキリまで存在することは皆さんもお気づきでしょう。

医者のように明確な資格制度も存在せず、各事務所が定めた一定の(統一されていない)基準さえ通過してしまえば、誰だってプロを名乗れてしまいます。お笑いというものの性質もまた異質です。同じ人であっても提供できるお笑いの質に時折ムラが生じてしまうことも、よりプロ定義の明確化を困難にしているでしょう。

そのような状況でプロと素人を区別することにどれだけの意味があるのでしょうか。「プロだからすごい、素人だからおもんない」という議論自体が、例外が無数に存在する時点で簡単に反証可能な、稚拙なポジショントークに僕には感じられます。

例えば賞レースの文脈で語られる、「素人が評価するシャバい漫才」「プロがうなる高度な漫才」という観点があります。それも極論、評価軸が共有されていない以上「好みの話」でしかありません。ネタを作ったことがあるかないか、今までどれだけの量のネタを見てきたかによって嗜好は容易に変わるでしょう。それは良い悪いの文脈では測れません。

自分の中に確固たる評価軸があって、そこに当てはめ是非を語ることは大いに結構です。ただ過度な教養主義のような、知らない/視座が浅いことを即悪とするという風潮には、100%のNOを突きつけたいと思います。一流のシェフは客の舌をバカにはしないはずです。

ましてや、高度な知識や技術を持つ人間の意見を借り、それを鵜吞みにし、それを振り翳すことで、自らの虚栄心を満たし不安定なアイデンティティを守ることは、少なくともお笑いの楽しみ方として健全とは言えないでしょう。

お笑いの図式上、舞台の上と下、自由に物言える芸人と笑い声以外の音を発してはいけない観客、という非対称性が成立してしまっていることも、プロの芸人の優越性を後押ししてしまっているようです。

しかしそれは本来「違い」でしかないはずです。

芸人はプロという肩書きに固執する必要はないし、観客は素人という肩書きに卑屈になる必要はありません。必要なのはお互いが同じ人間であり、かつ価値観は相異なり、それを互いに認めリスペクトを持てているかどうかということでしょう。

その関係を維持するために、お笑いの提供者として真摯であって、尚且つ観客の皆様に対してのリスペクトと踏み込みすぎないある種ドライな態度を続けることが、僕に求められていることだと思います。

 提供:無尽蔵やまぎわ
提供:無尽蔵やまぎわ

■無尽蔵

サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。

無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao

無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin

無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane

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