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アレッサンドロ・ミケーレ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニを偲ぶ ──「私にとって、雲の上の存在でした」

  • 2026.1.21
2018年のブリティッシュ・ファッション・アワードで撮影された、ガラヴァー二とミケーレの唯一のツーショット。
The Fashion Awards 2018 In Partnership With Swarovski - Pre-Ceremony Drinks2018年のブリティッシュ・ファッション・アワードで撮影された、ガラヴァー二とミケーレの唯一のツーショット。

昔からヴァレンティノさんの存在を常に側に感じていました。彼とは深く付き合うことも、直接一緒に仕事をすることもありませんでしたが、自宅にいる姿など、さまざまな場所にいるヴァレンティノさんの姿を想像しては、彼の存在を感じていました。彼の拠り所でもあるメゾンの敷居をまたいだよそ者は、私が初めてです。

彼とは、数回しか会って話したことがありません。もう何年も前に、何かのファッションアワードで知り合いました。私はラナ・デル・レイなど、何人かと立ち話をしていて、そこにヴァレンティノさんがやってきて、ものすごく丁寧にあいさつをしてくれたのです。その場にはジャンカルロ(ジャンメッティ)もいましたね。確か2018年ごろのことで、ほんの二言三言あいさつを交わし、握手をしただけですが、感無量でした。私にとってヴァレンティノさんは雲の上の存在で、まるで子どもみたいに、どこか恥ずかしそうに笑みを浮かべていた彼のその優しさに、強く心を揺さぶられたのです。

ふたりで写っている写真は1枚しかありません。誰かと撮った写真をあげることは好きではないのですが、この1枚はインスタグラムでシェアしました。今や世間で当たり前のようになっているインスタグラムへの追悼投稿もいつもならしないのですが、今回ばかりはお悔やみの言葉を綴った投稿をしました。ヴァレンティノさんに対してはそうする義理があると思いましたし、それほど面識はなかったものの、こういった形で敬意を表したことを彼は喜んでくださっているはずです。本当に偉大な人物で、数々の偉業を成し遂げた男でした。伝説に残る存在となり、それはイタリアに限った話ではありません。

イタリア人がいかに素晴らしい“蛇使い”であるか、いかに私たちが真の魔法を編み出すことができるかを語ったのは彼だと思います。彼自身も見事な魔法使いでした。その洗練されたセンス、美しい邸宅の数々、身の回りに置いていた豪華かで貴重な品々を通じて、イタリア人の美意識の素晴らしさを世に知らしめました。彼の作品のおかげで、世界はイタリアが打ち出す美に、驚きと感動を覚えるようになったのです。

ヴァレンティノ 2026年春夏コレクションのバックステージにて。
ヴァレンティノ 2026年春夏コレクションのバックステージにて。

ヴァレンティノさんは、イタリアでクリエイティビティがこれまでにない発展を遂げていた、特別な時代を生きたイタリアの偉人のひとりです。当時の彼はファッションを通じて、アートさえも成し遂げられなかったことを成し遂げ、アルマーニ氏とともに巨匠としてモード界に君臨しました。かれらがいなければ、今の私たちは存在しなかったでしょう。ふたりが築き上げ、私たちに遺してくれたものを思うと、頭が下がります。

いち個人として、ヴァレンティノさんのことはほんの少しの間しか知りませんでしたが、私は今、彼のメゾンに身を置いています。彼が遺した痕跡や、かつて彼とともに創作に励んだ現役のスタッフたちの話を聞くことで、彼のことをより深く知ることができました。ヴァレンティノ(VALENTINO)のオフィスとアーカイブに足を踏み入れたその瞬間から私は魅了され、ふたつの希少な中国の飾り壺など、かつて彼が所有していた美しい品々をいくつか自分のオフィスに置いています。並外れたセンスを持つ偉大なアートコレクターだった彼は、イタリアの感性を壮大なスケールで展開してみせたのです。

彼は、クラシックなハリウッドの美学に根ざしたコードを復活させることで、女性らしさというものを称え、自身の生きた時代を決定づけた美の概念を作り上げたのです。非凡な感性を持ち、女性を女神として見ていた彼は、数々の偉業を成し遂げました。アルマーニと並んで、これほど長い間、卓越した創造力を発揮した人はそういないと思います。かれらは人々の習慣、文化や社会が大きく変動した時代を生き抜き、それぞれ計り知れないレガシーを遺し、同時に埋めることのできない大きな喪失感をファッション界に遺しました。ふたりは美の原型を創出した始祖であり、その存在は感謝と敬意の念を持って記憶にとどめておかなければなりません。

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクションのバックステージにて。
ヴァレンティノ 2025年春夏コレクションのバックステージにて。

ヴァレンティノさんは、想像し得る限りの美しい女性たちに服を作っていました。貴族、そしてローマとハリウッドを含む映画界に身を置く女性たちのために。アーカイブに保管されている素晴らしい衣服の数々は、どれもいまだに鮮烈な存在感と強烈なオーラを放っていますが、私は引き出しの中から発見された、まるで遺物のようなドレスにすっかり魅了されてしまいました。まさに、昔の聖者が着た服を目の前にしているような感じでしたね。

ヴァレンティノ 2025年春夏オートクチュールコレクションより。
ヴァレンティノ 2025年春夏オートクチュールコレクションより。

その服とは、オードリー・ヘプバーンのために作られたドレスです。昔からずっと、彼女は私にとって憧れのクライアントで、繊細さ、エレガンス、知性を兼ね備えた稀有な存在でした。このピースは、1970年代初頭にヴァレンティノさんがプルーストの舞踏会のために制作したと言われているスレンダーなガウンで、ふんわりと広がる袖には、全面クリスタルが散りばめられています。ドレス全体のボリュームは控えめですが、その出来栄えは見事で、熟練の職人たちの繊細かつ正確で、絶対的な手仕事の賜物です。装飾されたクリスタルが透き通った輝きを放ち、それが上品で崇高な色味を醸し出しています。

ヴァレンティノさんには、女性の身体にミリ単位の感覚で沿った服を完璧に仕立てる稀有な能力がありました。この世のものとは思えないほど洗練されたこのドレスも、人の手によるものとは思ええません。神の介入をどこか感じさせます。オードリー・ヘプバーンのオーラが生き生きと宿っており、一瞬、本人が現れたかのように感じられるのです。

Text: Tiziana Cardini Adaptation: Anzu Kawano

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