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【老化に抗う】運動で”若々しい筋肉”を保てるメカニズム解明

  • 2026.1.21
運動が老化した筋肉をどのように修復するか解明 / Credit:Canva

年齢を重ねても、運動を続けている人はどこか若々しく見えるものです。

それはなぜでしょうか。

外見だけでなく、筋肉の中でも本当に「若い状態に近づく」ような変化が起きているのでしょうか。

シンガポールのDuke-NUS Medical Schoolの研究チームは、運動が高齢の筋肉で乱れた仕組みを立て直し、修復する力を取り戻させる分子メカニズムを明らかにしました。

筋肉の老化と運動効果をつなぐ重要な経路が見えてきたのです。

この研究は2025年11月24日付の『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載されました。

目次

  • 筋肉は「作る」と「捨てる」を同時に管理している
  • 加齢で筋肉が衰えるのは、「DEAF1」スイッチが原因だった
  • 「運動」は加齢した筋肉の制御系を修復する

筋肉は「作る」と「捨てる」を同時に管理している

私たちの筋肉は、一度作られたら終わりではありません。

日常生活や運動によって常に細かな傷がつき、そのたびに修復と作り替えが行われています。

このとき大事なのが、「新しいタンパク質を作ること」と「古く傷んだタンパク質を分解して捨てること」のバランスです。

このバランスを統合的に管理しているのが、mTORC1と呼ばれる細胞内の成長制御経路です。

mTORC1は、今が「筋肉を増やすとき」なのか、それとも「一度休んで片づけをするとき」なのかを判断する司令塔のような役割を持っています。

若い筋肉では、必要な分だけタンパク質を合成し、同時に不要になったものをきちんと処理することで、しなやかさと強さを保っています。

ところが加齢とともに、この仕組みに異変が起こります。

高齢の筋肉ではmTORC1が慢性的に過剰に働き、「作れ」という指示ばかりが強くなってしまうのです。

一見すると筋肉にとって良いことのようですが、「捨てる」作業が追いつかなくなり、傷んだタンパク質が筋細胞の中にたまり続けてしまいます。

こうした「ゴミ」の蓄積が細胞にストレスを与え、加齢による筋力低下や回復力の低下、いわゆるサルコペニアの一因になると考えられています。

では、なぜ加齢によってmTORC1は過剰に働くようになるのでしょうか。

加齢で筋肉が衰えるのは、「DEAF1」スイッチが原因だった

研究チームが注目したのが、mTORC1の上流に位置する「DEAF1」という分子です。

DEAF1は、遺伝子のON・OFFを切り替える遺伝子のスイッチ役(転写因子)です。

この研究では、高齢の筋肉でDEAF1の量が増えていることが確かめられました。

DEAF1が増えると、mTOR遺伝子の発現が高まり、mTORがたくさん作られます。

その結果、mTORC1全体が常に高回転で動く状態に陥り、タンパク質の作り替えバランスが崩れてしまうのです。

本来、DEAF1はFOXOと呼ばれる調節タンパク質のグループによって抑えられています。

若い筋肉ではFOXOがしっかり働き、DEAF1が増え過ぎないようブレーキをかけているのです。

しかし、加齢によってFOXOの活性が低下すると、このブレーキが緩みます。

その結果としてDEAF1が上昇、mTORC1が暴走気味になり、筋肉のタンパク質管理システム全体が乱れてしまうのです。

つまり、加齢で筋肉が衰える理由は、単に「使わなくなるから」だけではなく、「筋肉の中の制御装置そのものが狂ってくる」ということを、この研究は示しています。

では、年を重ねた人に対して、「運動」はどんな効果をもたらすのでしょうか。

「運動」は加齢した筋肉の制御系を修復する

加齢で衰えた筋肉に対する、「運動」の役割とはどんなものでしょうか。

研究チームは、運動を行うことでFOXOが再び活性化し、その結果DEAF1の発現が抑えられることを見いだしました。

FOXOが働きを取り戻すと、過剰だったmTORの転写が抑えられ、mTORC1の活動が「適切な水準」に戻ります。

すると、筋肉は再び傷んだタンパク質を除去し、新しいタンパク質と入れ替える能力を取り戻します。

運動は単に筋肉を大きくする刺激ではなく、乱れてしまった細胞内の管理システムを整え直す合図として働いているのです。

さらに研究チームは、FOXOを人工的に抑えたり、DEAF1を過剰に発現させたりすると、運動を行っても筋肉の改善が起こらないことを確かめました。

つまり、運動の効果は「FOXO–DEAF1–mTORC1」という経路全体がきちんと反応できる状態であってこそ発揮される、ということになります。

この結果は、高齢者の間で運動効果に個人差が生じる理由を、分子レベルで説明する手がかりにもなります。

今回の実験は、ショウジョウバエと高齢マウスを使って行われました。

種が違っても同じ仕組みが確認されたことから、この経路は生物に共通する基本的な筋肉制御システムである可能性が高いと考えられます。

この研究は、運動が老化した筋肉に効く理由が、筋肉の中で乱れた「作る」と「捨てる」のバランスを整え、細胞レベルで立て直している点にあることを示しました。

年齢を重ねても体を動かすことが勧められる背景には、筋肉の中でひっそりと進んでいる「精密な分子の修復作業」が隠れているのです。

参考文献

Exercise rewinds muscle aging by restoring repair and growth power
https://newatlas.com/health-wellbeing/anti-aging-muscle-repair/

Duke-NUS scientists uncover how exercise helps ageing muscles repair themselves
https://www.duke-nus.edu.sg/newshub/media-releases/deaf1

元論文

Exercise suppresses DEAF1 to normalize mTORC1 activity and reverse muscle aging
https://doi.org/10.1073/pnas.2508893122

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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