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旅は、遠くに行くだけじゃなかった。地元のゲストハウスが教えてくれたこと

  • 2026.1.21

「旅」と聞くと、自分の住む土地から何らかの交通機関を使い少し離れた遠い場所へ行くことを思い浮かべる人が多いかもしれない。

遠い地で知らない景色や言葉、文化に触れることこそが醍醐味だと私もそう思っていた。

しかし、私にとって多くの刺激と経験をくれた「旅」とつながる場所は、意外にも地元にあった。

旅は、いつも遠くにあると思っていた

北海道札幌市豊平区にある「ゲストハウスWAYA」。

この場所のコンセプトは“新しい冒険のはじまり”。札幌の中心地から少し離れたここはいつもどこか遠い国の空気が流れ、世界中からやってくる旅人と地元の人が交流する場所。

私が初めて訪れたのは7年以上前の高校生の頃だった。学校に来てくれた英語の教育実習の先生をきっかけにこの場所を知ったが、当時はまだここが自分の人生において大切なターニングポイントになるとは想像もしていなかった。

その後、高校を卒業し大学に進学、今度は当時アルバイトをしていた放課後学童の先生のお誘いで再びこの場所に通うように。随分と時間が空いていたにはずなのに扉を開けた瞬間、懐かしさと同時に「戻ってきた」という感覚があった。初めて出会う人たちと会話を通して交流を重ね美味しい食べ物を囲んだ1日。

遊びに行くたび新しい出会いがあり、この素敵な場所を誰かに伝えたくて私自身これまでたくさんの友人を連れて行った。誰かを連れて行くたびに、その人なりの楽しみ方があり捉え方があり、WAYAはいつも異なる表情を見せてくれた。そんな時間を重ねるうちありがたいことに声をかけてもらい、私はここでアルバイトとして働くこととなった。

帰りたくなる場所にはいつも”出会い”があった

築60年の古民家を改装して作られた2階建ての建物。1階が宿の受付とカフェバー、そして2階が宿になっている。私はゲストハウスに併設された1階のバーで働いていた。ここではカウンター越しに、初めましての旅人や顔なじみの近所の仲間たちと、数えきれない時間を共有した。

名前を聞くことも忘れて旅の話に花を咲かせ、どうしてここに辿り着いたのか、ゆっくり考えて心の底に触れる時間、そしてこの先まだまだ続く未来の話。性別や年齢、国籍に関係なく、そんな会話を交わすことが日常だった。今振り返っても、とても贅沢な時間だったと感じている。

この有意義な時間は、当時の私にとって大好きな仕事でもあり、自然と未来について考えるきっかけにもなっていた。なかなか出会えないような考え方を持つ面白い人たちにもたくさん出会い、そのたびに自分の中にあった「普通」や「常識」が静かに、でも確実に壊されていく瞬間を何度も体感した。

旅人や札幌に住む人、ヘルパーとして2階の宿に滞在している人たち。その日その日で顔ぶれは変わるため、全く同じ人々が集まる日は1日としてない。だからこそ、たった数十分•数時間の会話が妙に深く心に残ることもあった。連絡先を聞かなかったことを後悔して数ヶ月、偶然再会するなんてことも。

私にとってここは「出会い」こそ人生を豊かにしてくれるものだと考えるきっかけを与えてくれた、一期一会の瞬間に溢れた場所だった。

世界中の旅人が集う場所

ここには国際色豊かな仲間たちもたくさん集まる。特に冬の北海道といえばスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツが有名。世界に誇る北の大地のパウダースノーを求めニセコやルスツで冬を越す前に、札幌に立ち寄ってくれる人も多い。今思えば海外に住んでいた頃よりも英語を話していたのではないかと思う夜が何度もあったほど。それもまたこの場所ならではの時間だった。

たくさんの出会いの中には母語の異なる友人も多い。私たちは、お互いの共通言語に寄り添いながら陽が昇るまで将来について語り合った。今でも頻繁に連絡を取り合いビデオ通話をしたり、日本以外の場所で再会を果たした友人も。

お互いのこれからの大きな夢の話や価値観や考え方の違いにも躊躇することなく本音でぶつかり合った。言葉が完璧に通じなくても、伝えたい気持ちがあれば私たちの会話は自然と続いていた。今でも何に変えることのできない大切な時間だった。

何度でもただいまを繰り返すこと

もちろん、出会いが溢れる場所には数えきれない別れもある。いつかその時が来ると分かっていても、どうかその瞬間が来ませんようにと心から願った夜もあった。

それでもたくさんの「いってらっしゃい」と「おかえり」を繰り返し、やがて私も「いってきます」と「ただいま」を口にする側に。

どれだけ時間が空いても、また帰りたいと思える場所があること。それは、旅を続けていく上で、とても心強いことだと感じている。もうあの頃の仲間はいないかもしれないし、働いている人も変わっているかもしれない。

それでも、ここには不思議なあたたかさがある気がする。変わっていくものを受け入れながら、変わらず迎えてくれる空気が確かにここにはある。

遊びに行くたびに今ごろあの人はどうしているだろうかと、ふと思い出すこともある。当時交わした何気ない会話や、笑い声、別れ際に交わした短い言葉が、時間を越えてよみがえってくること。それは決して、過去に縋っているという感覚ではない。

むしろ、過去の出会いが今の自分の中に静かに残り続け、今もなお未来へとつながっていることを確かめるような時間だと思っている。

旅の途中で出会った人たちは、今それぞれの場所でそれぞれの人生を歩いている。それでも、同じ時間と場所を共有したという事実は消えることなく、確かに私たちの中に残っている。思い出すたびに少しだけ世界が広がるような愛おしい感覚がある。

あの出会いがあったからこそ、今の自分がいてこれから出会う誰かへもまた心を開いていける。

日本中を旅しさまざまなゲストハウスに足を運んできたが、これほど安心して「帰ってきた」と思える場所は今のところまだ他に見つけられていない。

1階の扉を開ける直前、今でも「今日はどんな人がいるんだろう」「今日はどんな出会いがあるんだろう」と、そんなことを考えながら少しドキドキする。その期待がある限り、この場所はきっと、私の中で旅の延長であり続ける。そして、旅とは遠くへ行くことだけではなく、人と人のあいだに生まれる時間そのものなのだと、ここに来るたび思い出させてくれる。

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