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メジャーリーガー・吉田正尚がチャリティ活動を続ける理由とは? 人間性に迫るスポーツノンフィクション【書評】

  • 2026.1.20
決断ーカンボジア72時間ー 吉田正尚、長谷川晶一:著/主婦の友社
決断ーカンボジア72時間ー 吉田正尚、長谷川晶一:著/主婦の友社

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すばらしい活躍の一方で、チャリティイベントに参加したり、寄付をしたり、なんらかの社会貢献活動をしているトップアスリートは少なくない。日本人メジャーリーガーとしてボストン・レッドソックスで活躍する吉田正尚外野手(32)もそのひとり。2016年にオリックス・バファローズに入団してプロ入りした吉田選手は、プロ3年目から「ホームラン1本につき10万円」を、メジャーリーガーとなってからは加えて「ヒット1本につき1万円」を、認定NPO法人「国境なき子どもたち」に寄付している。

『決断ーカンボジア72時間ー』(吉田正尚、長谷川晶一:著/主婦の友社)は、そんな吉田選手が2023年シーズン後のオフに、支援先のひとつであるカンボジアを実際に訪れた記録だ。2023年といえば、WBCの大活躍のあとメジャーリーグに移籍、ルーキーながら首位打者にも肉迫する活躍をみせた年。そんな大忙しだった年のオフに、あえて吉田選手は家族を連れてカンボジア行きを敢行する。使える時間は72時間。限られた時間しかなくても、彼自身が「どうしても行きたい」と願ったからだ。

なぜチャリティをはじめたのか?

原点は小学生の時に『世界がもし100人の村だったら』というドキュメンタリー番組で、ゴミ山に住むフィリピンの少女、マイナス20度のロシアで生きるストリートチルドレン…過酷な環境を生きる世界各地の子どもたちの姿を見たことにある。「自分と同じくらいの年齢の子どもたちが生きるか死ぬかの状況にさらされている」というショックは吉田少年の脳裏に焼きつき、プロ入り会見の際に「社会貢献できるような選手になりたい」と表明した。そして3年目から、カンボジア・フィリピン・バングラデシュの子どもたちに向けた支援活動をスタートさせたのだ。

ただし吉田選手は、自分が「チャリティ活動をしている」ということを喧伝したいわけではない。大事なのは、自分の活動を通じて世界には絶対的貧困や人身売買に苦しむ子ども、学校に通えない子どもが多くいるのだということを多くの人に認識してもらうこと。本書の刊行理由もそこにある。

なぜカンボジアに行ったのか?

あえて吉田選手がカンボジアに飛んだのは、実際に自分の目で現状を見て、子どもたちと触れ合うため。「『支援する側』と、『支援される側』という、ある種の上下関係ではなく、もっとフラットに、もっと気軽に子どもたちとの関係を築きたい。もっと身近に子どもたちのことを感じたい」(はじめにより)と思ったからだ。

現地では自身の支援が活かされている「若者の家」(支援の届きにくい15歳以上を主な対象に教育や職業訓練の機会を提供する)を訪問。心温まる歓迎セレモニーを受け、施設にいる若者たちと交流した(なんと飛び入りで一緒にバレーボールを楽しむ一幕も)。入所者の家を訪問し――終始、淡々とした感じにも見えた吉田選手だったが、見学を終えたあと「僕が野球を頑張ることで彼らの力になれるというのか、サポートできるのであれば、もっともっと頑張りたい。(中略)本当に来てよかった」と思いを噛み締める姿は密かに熱い。

本書は吉田選手の旅に同行した人気ノンフィクションライター長谷川晶一さんとの共著。本文執筆は主に長谷川さんで、72時間のカンボジア行きを縦糸に、横糸では吉田選手の家族や恩師、先輩後輩などさまざまな関係者への取材を通じて「吉田正尚」という人物像に迫る。「吉田選手を突き動かすエネルギーは?」「強靭な精神力の源は?」と、いくつもの「?」を解き明かす本書は、渾身のスポーツノンフィクションとしても楽しめる。

文=荒井理恵

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