1. トップ
  2. 恋愛
  3. 炎症まみれの身体はコンビニ飯を選びがち? 肥満と“めんどくさい脳”の意外な関係

炎症まみれの身体はコンビニ飯を選びがち? 肥満と“めんどくさい脳”の意外な関係

  • 2026.1.19
炎症まみれの身体はコンビニ飯を選びがち? 肥満と“めんどくさい脳”の意外な関係
炎症まみれの身体はコンビニ飯を選びがち? 肥満と“めんどくさい脳”の意外な関係 / Credit:Canva

オランダのラドバウド大学医療センター(Radboudumc)で行われた研究によって、肥満者の体内でくすぶる慢性的な軽度炎症が「面倒くさがりな食事選び」を引き起こしている可能性が示されました。

炎症レベルが高い人は、労力をかけて食事を選ぶ比率(オッズ)が通常の約4分の1に低下していたのです。

ですがこの傾向は炎症を抑える薬を服用すると有意に増加しました。

今回の研究は炎症と食習慣が因果的に関わることを支持する重要な証拠の一つとなります。

私たちの「今日はラクなほうでいいや」という気持ちは、どこまで自分の選択で、どこから炎症に左右されているのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年1月10日に『bioRxiv』にて発表されました。

目次

  • 疲れた夜にコンビニへ向かう理由
  • 炎症とやる気の関係が見えてきた
  • 炎症型肥満という新しいものさし

疲れた夜にコンビニへ向かう理由

疲れた夜にコンビニへ向かう理由
疲れた夜にコンビニへ向かう理由 / Credit:Canva

夕食に疲れて料理する気力がなくなり、ついコンビニのお弁当に頼ってしまう――そんな経験は誰にでもあるでしょう。

人は体調が悪かったり疲れていたりすると、どうしても簡単に済ませられる食事に手が伸びがちです。

意思の弱さだけでなく、もしかすると体の中の見えない変化が、私たちの「まあ手軽でいいか」という気持ちを後押ししているのかもしれません。

実は、肥満状態の人の体内ではしばしば慢性的な低レベル炎症(はんのうが弱い炎症反応)が起きています。

病気のときのような激しい炎症ではないため自覚症状はほとんどありませんが、肥満の女性では約5~6割、男性でも3~4割にこの「慢性炎症」の指標が見られるとの報告があります。

この炎症は拡大した脂肪組織から生じる免疫反応が原因で、日々の高脂肪・高糖質な食生活も火に油を注ぎます。

微弱ながら全身に広がるこの炎症は、代謝や脳の働きさえかく乱し、糖尿病や心疾患のリスクを高めることが報告されています。

炎症をともなう病気にかかると、人は倦怠感(けんたいかん)や無気力になり、食欲が落ちたり「何もしたくない」状態になります。

これは医学的に「疾病行動(病気のときの省エネモード)」と呼ばれ、体内の炎症物質が脳に作用して起こる現象です。

同様に、健康な人でも人工的に炎症を起こす実験をすると、普段より労力を避ける選択をしやすくなることが報告されています。

不思議なことに、炎症によって「ご褒美をほしい気持ち(報酬感受性)」自体は変わらず、「労力を払うのが面倒」という感覚だけが強まるのです。

では、常に微弱な炎症が続く肥満の状態ではどうでしょうか。

そこで今回、研究チームは「過体重・肥満の女性における慢性炎症が食べ物を得るための労力のかけ方に与える影響」を直接確かめることにしました。

体内でくすぶる炎症が本当に脳のやる気を奪い、コンビニ飯のような手軽な選択に傾かせているのでしょうか?

炎症とやる気の関係が見えてきた

炎症とやる気の関係が見えてきた
炎症とやる気の関係が見えてきた / Credit:Canva

炎症が人の「面倒くさがり度」を高めてしまうことなど本当にあるのでしょうか?

答えを得るために研究者たちは約150名の過体重・肥満の女性(BMI27以上)を対象に採血を行い体内の炎症レベルを調べました。

また同時に「労力と報酬」の決定を行う課題も行ってもらいました。

これはコンピューター上で行うゲームのようなもので、参加者は提示される食べ物の報酬に対して「ある程度の労力(握力器を決まった強さで一定時間握るなど)を払う価値があるか?」を一試合ごとに選択します。

ポイントは、労力とご褒美の大小を独立に操作することで、「食べ物が欲しい気持ち」と「手間を嫌がる気持ち」を切り分けて評価できる点です。

結果は明確でした。

まず炎症レベルが高い人ほど労力のいるオファーを避ける傾向が強いことが示されました。

具体的には、提示されたオファーの要求労力が大きくなるほど承諾率が低下するのですが、その低下幅が炎症の高い人では格段に大きかったのです。

統計的な解析では、炎症マーカーの指標(INFLAスコア)が高い被験者は、そうでない人に比べて高負荷の受け入れやすさ(オッズ)が、およそ4分の1にまで低くなることが示されていました。

つまり体内の炎症が強い人ほど、「多少ご褒美があっても、しんどいことはやりたくない」と感じて断ってしまう割合が高かったのです。

さらに脳活動にも顕著な差が見られました。

炎症レベルの高い人たちは、労力の要求が上がるときに「動機づけや意思決定に関わる脳の領域」(dmPFC)の活動がより強く活性化していたのです。

通常、人は課題の難度が上がればdmPFCが活性化しますが、炎症の高い人では同じ労力でもこの脳信号が過剰に反応していました。

言い換えれば、炎症まみれの脳では「重労働だ!」と警報を鳴らす脳の声が大きくなってしまうのかもしれません。

興味深いことに、単にBMI(肥満度)が高いこと自体は、労力回避とあまり関連を示しませんでした。

BMIが高くても炎症が低ければ、労力をかけることを惜しまない参加者がちゃんといたわけです。

さらに今回は炎症を減らす薬を使った試験も行われました。

結果、炎症を抑える薬を飲んだグループでは、飲まなかった(プラセボを服用した)グループに比べて課題で高い労力を厭わない姿勢が統計的に有意に強まりました。

炎症を沈めることで、「面倒くさいからやめておこう」という行動が減り「多少手間でもやってみようか」という方向に傾いたのです。

さらに脳の変化も観測されました。

抗炎症薬を服用したグループでは、課題時のdmPFC活動の過剰な高まりがわずかながら緩和されており、プラセボ群との差として脳の労力ストレス反応が低下する傾向が見られました。

炎症によるブレーキが、薬によって少し緩んだとも解釈できる結果です。

このように行動レベルと脳レベルの両面で一貫した変化が得られたことで、研究チームは「炎症が労力回避に与える因果的影響に対する確信が高まった」と述べています。

観察研究と介入実験の双方で得られた多角的な証拠が示すのは、まさに炎症が一因となって、人が労力を惜しみ、手軽な食事に流れがちになる可能性があるということです。

炎症型肥満という新しいものさし

炎症型肥満という新しいものさし
炎症型肥満という新しいものさし / Credit:Canva

今回の研究により、肥満者に見られる慢性的な軽度炎症が脳のやる気スイッチに影響して労力を伴うような選択全般を遠ざけてしまう可能性が示されました。

炎症を抑えてやる気を引き出すことで、肥満に陥った人々の悪循環(不健康な食事→炎症悪化→さらに意欲低下…)を断ち切る道が開けるかもしれません。

注目すべきは、肥満者の中にも「炎症型」と「非炎症型」の二通りがいそうだ、という示唆です。

この発見により、「肥満だから皆同じ」という前提ではなく、その人の炎症状態に応じたアプローチが必要だと示唆されたのです。

では炎症は具体的にどうやって「やる気」を奪うのでしょうか。

論文によれば、慢性炎症下では免疫物質であるサイトカイン(炎症性タンパク質)が血液から脳内に入り込み、ドーパミン(快感や意欲を生み出す脳内物質)の働きを妨げることが動物実験や人の研究から示されています。

ドーパミンは前頭前野や線条体といった脳の報酬・動機づけ回路を駆動する信号ですから、炎症によってドーパミンが減少すると「よしやるぞ!」という活力が湧きにくくなります。

研究者たちも「炎症はドーパミンの信号伝達を乱すことで労力に対する感受性に影響を与えている可能性があります」と記しており、体が発する炎症のサインが脳内のやる気ホルモンを弱めてしまう図式が浮かび上がります。

(※注意:素人判断で抗炎症剤を服用しないで下さい)

もし炎症が肥満と食行動をつなぐカギであるなら、炎症を鎮めること自体が新たな治療ターゲットになり得ます。

例えば安全性に配慮した抗炎症薬の活用や、抗炎症作用のある食品・運動を取り入れることが、減量プログラムの効果を底上げする可能性があります。

研究者たちも「今回の発見は、肥満治療に抗炎症的な戦略を組み込む重要性を示している」と指摘しています。

もしかしたら未来の世界の肥満外来では「やせ薬」と「抗炎症剤」がセットで出されるケースが珍しくなくなるかもしれません。

元論文

Low-grade inflammation in obesity causes low-effort food choice
https://doi.org/10.64898/2026.01.09.698429

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる