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交通量が多い道路の近くで育つと「抑うつ」「不安」リスクが高まる

  • 2026.1.19
交通騒音で「うつ」「不安」リスクが高まる / Credit:Canva

私たちの生活には車、バス、電車が欠かせません。

通勤や通学、買い物や物流まで、都市の機能は交通によって支えられています。

その一方で、こうした交通が生み出す「騒音」は、私たちが思っている以上に心と体に影響を与えているのかもしれません。

フィンランドのオウル大学(University of Oulu)を中心とする研究チームは、交通量の多い道路の近くで育った子どもや若者ほど、将来「抑うつ」や「不安障害」と診断されるリスクが高くなる可能性があることを明らかにしました。

この研究は、長期間にわたる大規模な追跡データを用いて、生活環境と心の健康の関係を検証したものです。

詳細は、2025年8月1日付の『Environmental Research』に掲載されました。

目次

  • 交通騒音が10デシベル高くなるごとに「抑うつ」リスクが5%、「不安」リスクが4%高まる
  • 53デシベルを超えると「抑うつ」「不安」の診断リスクが高まる

交通騒音が10デシベル高くなるごとに「抑うつ」リスクが5%、「不安」リスクが4%高まる

交通騒音が健康に影響を及ぼすこと自体は、これまでも指摘されてきました。

騒音は睡眠を妨げ、ストレス反応を高めることで、心臓病などの身体疾患のリスクを高めることが知られています。

近年では、こうした影響が精神的な健康にも及ぶのではないかという関心が高まってきました。

しかし、これまでの研究の多くは中高年や高齢者を対象としており、子どもや若者の成長期における騒音曝露が、その後の精神健康にどのような影響を与えるのかについては、十分に調べられていません。

抑うつやうつ病、不安障害といった精神疾患は、思春期から若年成人期にかけて発症することが多いことが知られています。

そのため、この時期の環境要因を検証することは、精神疾患の理解にとって重要な意味を持ちます。

そこで研究チームは、成長期に交通騒音の多い環境で暮らすことが、将来の抑うつや不安障害の診断リスクと関連しているのかを明らかにすることを目的としました。

研究対象となったのは、1987年から1998年にフィンランドで生まれ、2007年時点でヘルシンキ首都圏に住んでいた約11万4000人です。

追跡開始時の年齢は8歳から21歳で、最大2016年まで約10年間にわたって追跡されました。

この間に、抑うつや不安障害と専門医療機関で診断されたかどうかが、全国医療登録データを用いて確認されています。

交通騒音については、各参加者の住所をもとに、道路や鉄道から発生する騒音レベルが推定されました。

引っ越しがあった場合には、その都度住所情報が更新され、曝露評価に反映されています。

さらに、建物の中で最も騒音が大きい側と最も静かな側を区別して評価し、夜間や夕方の影響を重く見る指標が用いられました。

また、家庭の社会経済的な背景や親の精神疾患の有無、地域の暮らしやすさ、大気汚染や周囲の緑地の量なども統計的に調整されています。

その結果、こうした要因を考慮しても、交通騒音と抑うつ・不安障害のリスクとの関連が残ることが示されました。

分析の結果、道路交通騒音が10デシベル高くなるごとに、抑うつの診断リスクは約5%、不安障害の診断リスクは約4%高くなることが分かったのです。

より詳しい結果については、次項で確認してみましょう。

53デシベルを超えると「抑うつ」「不安」の診断リスクが高まる

研究チームは、騒音の水準ごとにリスクの変化を詳しく分析しました。

とくに注目されたのが、約53デシベルという騒音レベルです。

この53デシベルという値は、世界保健機関(WHO)が住宅地における交通騒音の上限の目安として示している水準とほぼ一致します。

研究では、この水準を超えたあたりから、抑うつや不安障害の診断リスクが明確に高まっていました。

つまり、国際的なガイドラインで「望ましくない」とされてきた騒音レベルが、精神健康の観点からも注意すべき水準である可能性が示されたのです。

また、建物の中で比較的静かな側であっても、騒音レベルが53〜55デシベルを超えると、不安障害のリスクが上昇していました。

これは、昼夜を問わず慢性的に騒音にさらされること自体が、心理的な負担となり得ることを示唆しています。

加えて、親に精神疾患の診断歴がない人ほど、交通騒音との関連がはっきりと表れていました。

研究者は、家庭内のリスク要因が少ない場合、環境要因の影響が相対的に目立ちやすくなる可能性があると考えています。

では、なぜ交通騒音がこのように心の健康に影響するのでしょうか。

研究者が重視しているのは、睡眠の質の低下と慢性的なストレス反応です。

交通騒音は入眠を妨げたり、夜間に目が覚めやすくしたりすることで、睡眠の質を低下させます。

睡眠障害は、抑うつや不安障害の確立したリスク要因であることが知られています。

また、騒音に「慣れた」と感じていても、体は無意識のうちにストレス反応を起こし続けることがあります。

慢性的なストレス状態が続くことで、感情の調整や不安の感じ方に影響を及ぼす可能性があるのです。

この研究は、交通騒音が抑うつや不安障害を直接引き起こすことを証明したものではありません。

診断は専門医療機関に限られており、軽症例は含まれていない点にも注意が必要です。

それでも、10万人を超える規模で成長期から若年成人期までを追跡し、診断データを用いて分析した点で、この研究は同分野の中でも高い信頼性を持つ証拠の1つといえます。

今後は、住環境や教育環境を含めたより詳細な研究が進むことで、具体的な対策につながる知見が得られると期待されます。

交通騒音とは、その時に「うるささ」を感じるだけでなく、成長期の心の健康に影響を及ぼすものなのです。

参考文献

Growing up near busy roads linked to higher risk of depression and anxiety
https://www.psypost.org/growing-up-near-busy-roads-linked-to-higher-risk-of-depression-and-anxiety/

元論文

Residential exposure to traffic noise and incidence of depression and anxiety from childhood through adulthood: a Finnish register study
https://doi.org/10.1016/j.envres.2025.122443

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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