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琵琶湖漁に立ち会い、次代を担う料理人が仕立てる一皿 減りゆく湖魚を料理でつなぐ【特別編】

  • 2026.1.18

年々減りゆく琵琶湖の湖魚料理。その漁の現場に立ち会い、湖魚を最高の一皿へと仕立てるのは、次代を担う料理人。失われつつある食文化を、料理の力で未来へつなぎます。

京都でも親しまれた琵琶湖の淡水魚

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京都にとって琵琶湖は、単なる水源地ではありません。琵琶湖疏水を通じて近代京都の復興と発展を支え、都市の景観や文化を育んできた「大切の水」でもあります。

明治時代、京都の再生を願って建設された琵琶湖疏水は、水道水や発電、農業・工業用水を供給し、疏水沿いの風景は、今では京都を象徴する景観のひとつとして親しまれています。

近年では保存や輸送技術が向上したため流通量は減りましたが、海が遠かった京都市内では琵琶湖の湖魚は京都の食文化に欠かせない存在でした。商店街には必ず、川魚店があり鯉や鮎、もろこ、うなぎなどを販売されていました。

今回は、そんな琵琶湖の恵みを改めて体感する特別編。湖魚漁に同行し、揚がったばかりの魚を次代の料理人が調理をする。その一連の流れを追いました。

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冬の冷たい空気の中、朝7時に膳所港へ集合。
滋賀県漁連の上野さん、伊藤さんの船に乗り込み、前日に仕掛けられた網を引き上げるため、ポイントへと向かいました。
この日は天候にも恵まれ、湖面を染める朝焼けが美しい日でした。

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静かな湖上に、エンジン音と網を引く音が響きます。

今回の企画をアレンジし、漁で揚がった湖魚を料理してくれる次代の注目料理人・大門さんも同行。漁の様子を間近で見つめ、魚の状態やサイズを確かめながら、真剣な眼差しで船上に立っておれました。

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足元の不安定な船の上で、手際よく網を引き上げる漁師たちの動きは、無駄がなくまさに職人の所作。

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長年の経験でポイントを正確に捉え、この日は「獲れすぎた」と感じるほどの大漁。

この漁で揚がったのは、鯉、ニゴイ、ワタカ、そしてふなずしの材料となるニゴロブナ。ただしニゴロブナは禁漁期のため、その場で丁寧に琵琶湖へと戻されていました。

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港へ戻ると、揚がった魚は素早く網から外され、仕分けと処理が行われます。エラを割って血を抜き、鮮度を保ちやすい状態に。魚種によっては神経締めも施されるそうです。

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大門さんは、料理から逆算しながら魚を選別。サイズ、身質、脂の乗り方を見極め、この日の仕入れを終えられました。

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この日はニゴイ、ワタカ、鯉を仕入れ。体高があり、湖魚らしい力強さと美しさを兼ね備えた魚たちです。

湖魚を最高の一皿へ仕上げます

修行当時の大門さん
修行当時の大門さん

大門さんは料理学校卒業後、ミシュラン三つ星も獲得し続ける日本料理の名門「菊乃井本店」で料理人としてのキャリアをスタート。本店副料理長、別館料理長を歴任し、日本料理の第一線で研鑽を積んでこられました。現在は滋賀県石山寺にある「湖舟」で、さらなる高みを目指し腕を磨きます。
料理・食材への向き合い方は常に真摯で、より良い素材を求め、生産者のもとへ自ら足を運ぶことも少なくありません。

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丁寧に下処理を施し、適切に寝かせた湖魚。川魚や湖魚は臭みを心配されることも多いのですが、琵琶湖は水質が良く、底泥を吸いにくい環境のため、実際には雑味はあまりありません。
加えて、的確な血抜きと下処理を行うことで、身質はさらに澄んだものになります。

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その湖魚三種を使い、実際に料理を仕立ててもらいました。

まずはニゴイを使った揚げ物。あらかじめ揚げた鱗を身にまとわせ鱗を立てるように揚げ、松笠揚げを思わせる一品に。

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甘鯛などで用いられる日本料理の技法を応用し、出汁で炊いてある野菜を添え、白みそと九条ねぎを餡にしてまとめます。

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ニゴイ特有の鱗という“弱点”を、食感と表情に変える発想は、まさに卓越した料理人の知恵。パリッとした鱗と柔らかな身の食感の対比が心地よい、技術が光る一皿。

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続いては湖魚の代表格、鯉。小骨が多い特性を踏まえ、薄造りにしています。
さらに水分の多さを補うため、やや長めに塩を当て、旨みを凝縮。湖魚は塩分が薄いため、味の輪郭を強めています。

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丁寧に切り出した野菜と合わせ、柚子の果汁やジュレを添えることで、清涼感のある一皿に。

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鯉のなますを柚子釜に盛り込み、皮や大葉もあしらった姿は、日本料理らしい美しさを感じさせる一品に。薄造りながら弾力のある食感と白身のあっさりとした味わいで、鯉の特徴が活きています。

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最後は琵琶湖固有種のワタカ。希少な魚で、ふっくらとした白身が持ち味のため、山椒タレ焼きというシンプルな調理法で仕上げます。
細かな骨が多いため、鱧のように骨切りを施し、まずは皮目を中心に炭火で焼き、香ばしさを引き出します。

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軽く火が入ったタイミングで、タレと実山椒を絡めて焼き上げます。甘辛い香りが立ちのぼり、食欲を強く刺激されました。

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口にすると、鱧を思わせるふっくらとした身質。雑味はなく、驚くほどクリアな味わい。添えられた茗荷の酢漬けが、全体をきりりと引き締めます。

いわゆる「湖魚」のイメージを、心地よく裏切る料理の数々で、十分に目的になりえる料理、食材と確信しました。


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今回の体験で強く印象に残ったのは、料理そのもの以上に「料理人の視点」でした。

漁に同行し、魚が揚がる瞬間から、料理はすでに始まっています。大門さんは、揚がった魚を前に「何を作るか」ではなく、「この魚が最も生きる形」を逆算して考えていました。

湖魚の特性や弱点、季節、サイズ。そのすべてを否定するのではなく、受け止め、活かす。技術と発想によって、素材は料理の魅力へと変わっていきます。

生産者と向き合い、現場に立ち、素材を深く知る。その積み重ねが、一皿の説得力を生むのだと実感しました。

琵琶湖の魚は、かつてほど身近な存在ではないかもしれません。しかし料理人の手を通すことで、土地の歴史や文化まで感じられる、特別な体験へと昇華される。

かつて京都の食卓でも親しまれてきた琵琶湖の湖魚。これからも残り続けてほしい、そう強く思わせてくれる一日でした。

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