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出産の数年後にADHD診断される母親が急増している

  • 2026.1.18
Credit:Google Gemini

「おもちゃや洗濯物で部屋が散らかって片付かない」「幼稚園の行事や通院など子供のスケジュールが複雑すぎる」

こうした悩みを持つお母さんは多く、どれもまるで手がつけられないという状態になってしまうと、それは「産後うつ」や「育児疲れ」だと言われます。

しかし、新たな研究によると、こうした困難の背景には、それまで表面化していなかった「ADHD(注意欠如・多動症)」が潜んでいる可能性があるといいます。

女性のADHDは、目立った問題行動よりも「不注意」の症状が中心であることが多く、子供時代には「少しおっとりした子」として見過ごされ、大人になっても独自の工夫や努力で、何とか社会生活を送っている人が少なくありません。

しかし、出産に伴う睡眠不足や予測不能な生活の変化が、それまで維持してきた対処法を崩壊させてしまうことがあるというのです。

南デンマーク大学(University of Southern Denmark)のカトリーヌ・バン・マドセン博士(Kathrine Bang Madsen)らの研究チームは、デンマークの約36万人の母親を対象に、出産前後10年間にわたる健康データを分析しました。

その結果、産後2年ごろから母親がADHDの初診断を受ける割合が急激に増えていることが明らかになったのです。なかでも子供が成長し母親に高い管理能力が求められるようになる「産後4〜5年」の時期にピークが見られました。

これは育児疲れと呼ぶには時期が遅く、むしろ多くの母親は育児に慣れて落ち着いてきた時期に問題が大きくなることで発覚しているようです。

この研究の詳細は、2025年10月9日付で科学雑誌『ジャーナル・オブ・アテンション・ディスオーダーズ(Journal of Attention Disorders)』に掲載されています。

目次

  • 女性に多い「隠れたADHD」
  • なぜ「産後4〜5年」が限界のサインなのか?

女性に多い「隠れたADHD」

一般的に子供のADHD(注意欠如・多動症)は、じっとしていられなかったり、衝動的に動いてしまったりする「多動性」の症状がよく語られますが、女の子のADHDでは、集中力の維持が難しかったり、物事を順序立てて進められなかったりする「不注意」の症状が中心となる傾向があります。

こうした特性は、特に女の子の場合「おっとりした性格」とか「おっちょこちょい」で済まされてしまい、本人も気づかないまま大人になるケースが少なくありません。

そのため多くのADHDの女性は、自分なりのルールを作ったり、人一倍の努力で生活を整えたりすることで、社会生活を器用にこなす「代償戦略(だいしょうせんりゃく)」で対処していると言われています。

こうした子供の頃に見過ごされ大人になってからADHDと診断されるケースは、近年、男女ともによく聞く問題ですが、多くは就職などの生活環境が大きく変わる節目に発覚しています。

そこで研究チームは、女性にとって大きな転換期の1つである「妊娠・出産・産後」に注目し、この時期に初めてADHDと診断されるタイミングに偏りが出るのかを、2010年から2018年の間に子供を産んだ36万3,904人の母親を対象に、国の大規模調査データを用いて調査しました。

研究チームは、各女性が妊娠する5年前から出産して5年後までの合計10年間にわたって、医療記録からADHDの初診断(または治療開始)のタイミングを追跡しました。

なお、この方法では受診や診断に至っていないケースはカウントされていません。

診断率は「産後4〜5年」でピークに

膨大なデータを分析した結果、母親たちがADHDの診断を受けるタイミングには、はっきりとした変化のパターンが見つかりました。

特筆すべきは、子供が2歳を過ぎる頃から新規の診断率が上昇し始めるという点です。

データによると、産後4年~5年のタイミングで、初めてADHDと診断される人の割合(発生率)は、妊娠前と比べて24%高い状態になっていました。

これは、出産から数年がたったタイミングで、困りごとが限界に達して医療につながるケースが増える可能性を示しています。

ここで一つの疑問が浮かびます。

なぜ、生活が劇的に変わるはずの「産後すぐ」ではなく、子供が成長した幼児期に、これほど診断が増えるのでしょうか?

なぜ「産後4〜5年」が限界のサインなのか?

この時期に診断が増える背景として、子供の成長に伴って母親に求められる能力が、単なる「体力」から、より高度で複雑な「脳の働き」へとシフトしていくことが関係している可能性があります。

特に幼児期以降、母親は性質の異なる二つの大きな壁に直面します。

一つ目は、「安全管理のための持続的な注意力」です。

乳児期とは異なり、活発に動き回る幼児から一瞬たりとも目を離さずに家事をこなすことは、脳に「常にマルチタスクを強いる状態」を作り出します。

ADHD(注意欠如・多動症)の特性がある場合、一つのことに集中しすぎたり、逆に注意が散漫になったりしやすいため、この「監視と作業の並行」は、他の人以上に脳を激しく疲弊させる要因となります。

二つ目は、「複雑なスケジュールを整理する実行機能(じっこうきのう/Executive Function)」です。

これは安全管理とは別の脳の能力で、幼稚園の行事、通院、習い事、そして自分自身の予定を、優先順位をつけてパズルのように組み立てる「計画力」を指します。

ADHDの脳は、こうした目に見えない情報の整理や時間の管理を苦手としており、子供が大きくなって予定が複雑化するほど、それまで必死に維持してきた「自分なりの工夫」が通用しなくなってしまうのです。

さらに研究チームは、この時期が単にADHDを見つけるきっかけになりやすいだけでなく、「ADHDの症状が悪化する可能性のある、きわめて重要な期間」であると述べています。

妊娠中や産後のホルモンの変動は、脳の働きに影響して症状を強める可能性があり、そこに育児の睡眠不足や慢性的なストレスが加わると、注意の維持や段取りがいっそう難しくなる可能性があります。

「育児ストレス」と勘違いされやすい

今回の研究で特に注目すべきは、産後にADHDと診断された母親の半数以上(53.9%)が、その診断を受けるまでの期間に、うつ病や不安障害などの治療を受けていたという事実です。

重要なのは、この治療が「出産してからADHDと診断されるまでの間」に始まっていたという点です。

これはADHDを持つ母親の多くが、育児の困難に直面した際、その原因を「産後うつ」や「不安障害」と診断されていたことを意味します。

なぜ、ADHDではなく「うつ」と判断されてしまうのでしょうか?

ADHDによる「集中しにくさ」や「頭がうまく回らない感じ」、そして「物事に圧倒されてしまう感覚」は、産後うつの症状と非常によく似ています。

例えば、洗濯物やおもちゃを片付けようと思っているのに、何から手を付ければいいか分からず、気づけば散らかったまま放置してしまう、あるいは、通院や幼稚園の行事など「忘れてはいけない予定」が頭から抜け落ちすっぽかしてしまう、というのはADHDの特性から生じる問題ですが、状況だけを見ると育児ストレスによる無気力が原因なのではないか、と誤解されるおそれがあるのです。

このような問題が起きると、母親自身は非常に落ち込んだ状態で診察を受けます。

そのため、医師が表面化している気分の落ち込みだけを重視してしまうと、その根本にあるADHDという特性が見逃され、診断が数年遅れてしまう可能性があるのです。

また研究チームは、これらの「うつ」や「不安」は、誤診ではなく未診断のADHDを抱えたまま過酷な育児を続けた結果として引き起こされた、二次的な反応である可能性も指摘しています。

産後うつや育児ストレスなら、産後4〜5年という期間が経過すると通常は落ち着いてきます。また育児に慣れてきた母親は、部屋の整理整頓、子供のスケジュール管理などの問題が改善していきます。

しかし、出産を機にADHDが顕在化・悪化してしまった母親は、時間の経過で状況が改善されず、むしろ産後4〜5年目から問題の深刻さが目立ちやすくなってくるのです。

部屋が片付かないなどの問題を「育児疲れ」で終わらせない

今回の調査は、実際に医師の診断を受けた人だけを数えており、潜在的にはさらに多くの母親が、自分の特性に気づかぬまま一人で苦しんでいる可能性があります。

産後すぐの時期は、周囲も本人も「お母さんは疲れていて当たり前」だと考え、深刻なサインを見過ごしてしまいがちです。

しかし、研究チームは、産婦人科や小児科の現場で、母親の心の不調の背景にADHDが隠れていないかを検討することの重要性を強調しています。

早い段階で「精神的な問題ではない」と知ることができれば、特性に合わせた具体的なサポートや工夫を取り入れ、親子ともにより健やかな生活を送ることができるはずです。

参考文献

ADHD diagnoses among mothers surge in the years following childbirth

ADHD diagnoses among mothers surge in the years following childbirth
https://www.psypost.org/adhd-diagnoses-among-mothers-surge-in-the-years-following-childbirth/

元論文

Maternal ADHD Diagnoses Before and After Childbirth: A Danish Population-Based Cohort Study
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10870547251372730

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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