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もっともらしいのに根拠なし!? 「カルシウム不足でイライラ」説が広まった意外な理由

  • 2026.1.18
【大学教授が解説】「イライラするのはカルシウム不足」という説は、一見もっともらしいですが、実は科学的根拠はありません。意外に知られていない体内のカルシウムの働きと、本当のイライラの原因、誤解が広まったワケを分かりやすく解説します。(※画像:Shutterstock.com)
【大学教授が解説】「イライラするのはカルシウム不足」という説は、一見もっともらしいですが、実は科学的根拠はありません。意外に知られていない体内のカルシウムの働きと、本当のイライラの原因、誤解が広まったワケを分かりやすく解説します。(※画像:Shutterstock.com)

多くの人が「カルシウムが不足するとイライラする」という説を耳にしたことがあると思います。もっともらしく聞こえるかもしれませんが、実はこの説に科学的根拠はありません。広まった俗説の1つです。

私たちが「イライラする」と感じるのは、さまざまな要因によって脳の神経の働きが乱れているときです。

正常な神経細胞の働きは、体液中のカルシウムイオン濃度によって調節されています。そのためカルシウム不足はイライラ感にも関係すると思われそうですが、実際にはそのようなことは起こらないのです。断言できるワケを分かりやすく解説します。

体内のカルシウム濃度は実はほぼ一定! 「命に関わるレベル」で厳密に管理

体液中のカルシウムイオン濃度によって調節されているのは、神経細胞だけではありません。実は、心臓や手足の筋肉、胃や腸などの内臓をはじめ、体内のほとんど全ての細胞が体液中のカルシウムイオン濃度によって調節されているのです。そのため、もし体液中のカルシウムイオン濃度が大きく低下すれば、心臓も筋肉も内臓も正常に機能しなくなります。つまり、私たちの命に関わるということです。「イライラ感」どころの話ではありません。

そのため私たちの体には、体液中のカルシウムイオン濃度を「常に一定に保つ仕組み」が自動的に備わっています。一時的にカルシウムを含む食品の摂取量が不足したとしても、体液中のカルシウムイオン濃度はほとんど変わらないのです。その仕組みを簡単にご説明しましょう。

骨とホルモンが担う体内のカルシウム濃度調節の仕組み

私たちの体にある「骨」は、多量のカルシウムが沈着してできています。血液中のカルシウムイオン濃度が低下しそうになると、「パラトルモン」というホルモンが分泌され、骨からカルシウムを血液中に遊離させます。この過程は「骨吸収」と呼ばれるものです。また、腎臓に作用して尿中へのカルシウム排泄を抑える働きもあり、これによってカルシウムの血中濃度の低下を防ぎます。

逆に、血中カルシウムイオン濃度が上昇しそうな場合は、「カルシトニン」というホルモンの出番です。カルシトニンが分泌されると、骨吸収が抑制されることで骨へのカルシウムの沈着が促進されるとともに、腎臓からのカルシウムイオンの排泄が促されます。これによってカルシウムの血中濃度の上昇を防ぎます。

こうした調節機構が常に働くことで、血中のカルシウムイオン濃度はほぼ一定に保たれているのです。

イライラの原因ではないのに、なぜ「カルシウム不足」と関連する説が広まったのか?

以上の理由から、脳の神経が乱れるほど体内のカルシウムが不足する状況は、現実には起こりえません。イライラ感は、カルシウムとは無関係な要因で起こります。例えば、過度のストレスによる精神的負担、更年期障害、その他のさまざまな病気などです。

では、なぜ科学的根拠のない説が広まったのでしょうか。諸説ありますが、食糧難の時代に、牛乳などの栄養価の高い乳製品の消費を促すプロモーションの一環として言われた内容が、広まった可能性があります。あるいは、時代とともに健康志向が高まる中、特に成長期の子どもを対象とした広告などを通じ、「カルシウム不足は体だけでなく精神面にも悪影響を及ぼす」イメージが定着したのかもしれません。

イライラ防止ではなく「骨の健康」のために取りたいカルシウム

いずれにせよ、カルシウムは骨や歯の健康を維持するために欠かせない栄養素です。体内のカルシウム濃度を一定にするために、摂取量が不足すると骨がダメージを受けていきます。

精神状態との直接的な関係は期待できませんが、毎日の食事から無理なく摂取することが大切な栄養素です。バランスのよい食生活を心掛けて、毎日の健康に活かしていきましょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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