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アイドルに全財産を使ってしまう50代男性、給料は両親が管理。「好き」が「病」に変わる、“推し活”の精神構造【書評】

  • 2026.1.16
「推し」という病 加山竜司/文藝春秋
「推し」という病 加山竜司/文藝春秋

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『「推し」という病』(加山竜司/文藝春秋)は、さまざまな「推し活」をする人々を通じて、「推し」にまつわる精神構造やビジネスの課題、その先にある危険性をリアルに描く一冊である。

「推し」とは、気に入って応援している人やキャラクターなどの対象を指す。そして、その「推し」を応援し、楽しむ行為全般を「推し活」と言う。それらの言葉は私生活を彩る趣味として、ポジティブなニュアンスで受け入れられることが多い。

一方「推し活」は過剰な出費を伴ったり、精神に悪影響を及ぼしたりするケースも少なくない。「推し」との距離を近づけ、より長く時間を過ごすために数百万単位の出費をいとわない人。その費用を捻出するために、良からぬ手段を取ってしまう人。ときに、痛ましい事件も起こる。ファンから多額の投げ銭を受け取っていたライブ配信者が、配信中に刺殺された事件はまだ記憶に新しい。

著者はこうした「推し活」の先にあるリスクを踏まえつつ、「推し」とは何であるか見極めることを本書の主題としている。そのアプローチとして、実際に熱量高く「推し活」をしてきた、あるいは現在進行形でしている人々へのヒアリングを行い、なぜ彼らが「推し」にハマっていくのかを考察している。

本書の魅力的なポイントは、多角的に「推し活」のリアルを浮き彫りにしていることだ。「推し活」をする目的は、そう簡単に割り切れるものではない。「推し」を応援したいという気持ちは前提にありつつも、「推し活」をする者同士によるコミュニティ内のヒエラルキー争いなど、別の要素も複雑に絡み合っている。

また、本書からは「推し」や「推し活」の歴史的な側面も学ぶことができる。いつから「推し」というカルチャーが浸透したのか、一般化していったのはなぜなのか。そういった考察やデータ紹介が随所にあることで、知識ベースでの理解も深められる。

ホストにお金を使うのは「コスパが良い」

「推し活」に没頭した人々は、やがて金銭感覚や倫理観が変化していく。タイトルに掲げられた“病”という言葉がしっくりくるくらい、一般とかけ離れた思考で行われる「推し活」の詳細が、本書ではごく当たり前のことのように語られていく。

例えば、アイドルのトップオタ(TO)の称号を誇る男性は、「推し」をグループ内のランキング上位に導くため、CDを1000枚購入したこともある。放っておくと全財産をアイドルに貢いでしまうため、50代になってなお、両親から必要経費を差し引いた金額を手渡してもらう“お小遣い制”で生活している。また、別の例で、あるホスト狂いの女性は、自分のためにお金を使うのが苦手だからとホストに100万円注ぎ込み、その見返りとして高額な食事や宿泊デートをホストが提供してくれることを「コスパが良い」と感じているそうだ。

外枠だけ見れば「なぜ?」と思ってしまう行為も、本書を通じてリアルなファンの声に耳を傾けてみると、「なるほど」と納得させられるところがある。客観的に精神構造を理解することで、自分自身が「推し」とどう向き合っていくか、どんな「推し活」をしていくか考えるきっかけにもなる一冊だ。少し「推し活」に熱を注ぎすぎているかも、と不安になっている人にこそ、ぜひ手に取っていただきたい。

文=宿木雪樹

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