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どちらも観ておきたい!ポーランドを巡るロードムービー『リアル・ペイン』と『旅の終わりのたからもの』の魅力を深堀り

  • 2026.1.15

1991年のポーランドを舞台に、ちぐはぐな父と娘が、家族の歴史をたどる旅路をユーモラスかつ温かく描いたロードムービー『旅の終わりのたからもの』がいよいよ1月16日(金)より公開となる。ユダヤにルーツを持つ凸凹コンビがポーランドを巡りながら、それぞれ心に抱える“痛み”と向き合うロードムービーといえば、2025年に公開された『リアル・ペイン~心の旅~』を思い出す方も多いだろう。物語の骨格こそ似ているように思われるが、似て非なる両作。今回は2作の違いを解説しながらそれぞれの魅力に迫ってみたい。

【写真を見る】『リアル・ペイン』と似ているポイントは?父娘の珍道中を描く『旅の終わりのたからもの』

本作の主人公は、NYで生まれ育ち成功するも、どこか満たされない娘ルーシーと、ホロコーストを生き抜き約50年ぶりに祖国ポーランドへ戻った父エデクの親子だ。家族の歴史をたどろうと躍起になる神経質なルーシーと、娘が綿密に練った計画をぶち壊していく奔放なエデク。ちぐはぐな親子がポーランドのいろいろな歴史遺産を巡り、悲惨な過去と痛ましい現実に向き合いながら、2人だけの“たからもの”を見つける珍道中を描く、笑って泣けて心温まる、この冬必見の1本である。

 【写真を見る】『リアル・ペイン』と似ているポイントは?父娘の珍道中を描く『旅の終わりのたからもの』 [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS
【写真を見る】『リアル・ペイン』と似ているポイントは?父娘の珍道中を描く『旅の終わりのたからもの』 [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS

本作の公開に先駆けて行われた試写会でも「似ている!」「2本立てで見入るべき映画」という声が上がった『旅の終わりのたからもの』と『リアル・ペイン~心の旅~』。ホロコーストを生き延びた自由奔放な父と、繊細で神経質な娘の親子を主人公にした『旅の終わりのたからもの』、もう1本は破天荒、一方はマジメという真逆の従兄弟2人を主人公にした『リアル・ペイン~心の旅~』。真逆の2人が繰り広げるポーランドの珍道中という共通点はあるが、舞台となるポーランドの時代背景や、主人公たちの世代が抱える“痛み”にはハッキリとした違いがある。

『リアル・ペイン~心の旅~』では現代が舞台で、観光客も多く訪れるキラキラと美しいポーランドが描かれるのに対し『旅の終わりのたからもの』では終戦から40年余り、1991年のポーランドの姿が描かれる。当時のポーランドは、共産主義を脱却し民主国家へと移行する過渡期にあった時期だ。ミスコンが開催されるなど明るい未来や自由への兆しが描かれる一方で、急激な経済自由化のなかで高くなった失業率や貧富の差、インフレや物価高による生活への不安、政治への不信など希望と不安が入り乱れていた灰色の街並みを再現した。

自身のルーツをたどりたいという繊細で神経質な娘ルーシー [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS
自身のルーツをたどりたいという繊細で神経質な娘ルーシー [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS

しかし、ほの暗かった社会情勢をリアルに描いた結果、制作にあたってはポーランドからの公的助成は一切得られなかったという。「当時、政権を握っていたピス党の下では、映画のなかでポーランド人を犠牲者、もしくはヒーローとして扱っているか?ということが助成金を出すか否かの基準になっていて、我々の映画はポーランド人をどちらにも分類せず、とても複雑な存在として描いています。なので、助成金は出なかったのです」と『旅の終わりのたからもの』監督のユリア・フォン・ハインツは振り返る。

『リアル・ペイン~心の旅~』の終盤シーン同様に、『旅の終わりのたからもの』でルーシーとエデクはエデクが戦前住んでいた家を訪れる。親子はそこに現在住んでいる、見知らぬポーランド人家族と遭遇。彼らの暮らしを壊したくはないが、そこに残されていた品々を取り返したいルーシーは、思い切った手段をとる。当時の苦しい暮らしぶりがうかがえるポーランド人家族の言動は、悪人にも見えてしまうかもしれない。しかし逆に、強硬手段に出るルーシーの行動に対して、いかがなものかといった意見も出た。こういった見方によって違う意見が噴出するシーンにこそ、ハインツ監督の“当時のリアルを描く”という決意が詰まっていると言える。『旅の終わりのたからもの』で描かれるポーランドの姿を観てから『リアル・ペイン~心の旅~』を観ると、ポーランドがこの約20年間で、“過去に縛られた灰色の国”から“未来を選びなおせる明るい国”へ移行してきた姿も目撃することができるのだ。

第74回ベルリン国際映画祭ベルリン・スペシャル・ガラ作品で、トライベッカ映画祭2024 インターナショナル・ナラティブ・ナラティブ・コンペティション作品でもある [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS
第74回ベルリン国際映画祭ベルリン・スペシャル・ガラ作品で、トライベッカ映画祭2024 インターナショナル・ナラティブ・ナラティブ・コンペティション作品でもある [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS

また、登場人物が抱える世代ごとの“痛み”にも両作には違いがある。『リアル・ペイン~心の旅~』では、監督と主演も務めたジェシー・アイゼンバーグ演じるデヴィッドと、本作でゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞したキーラン・カルキン演じるベンジーという、現代を生きる戦後第3世代を主人公に据え、誰もが抱える“生きるうえでの痛み”とポーランドの街並みが抱える“歴史的な痛み”を描いた。どちらの痛みも現代の風景に透過され、静かに見えなくなってしまっている様が描かれ、考えさせられる1本となっている。

『旅の終わりのたからもの』は1月16日(金)より公開 [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS
『旅の終わりのたからもの』は1月16日(金)より公開 [c] 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAI?KU FILMS

一方で『旅の終わりのたからもの』では、ホロコーストを実際に経験し生き延びた父エデクと、過去を一切明かさない父に疎外感を感じるルーシーの第1世代と第2世代の親子を主人公に据え、“戦争が生みだした痛み” がよりダイレクトに描かれる。すなわち歴史の記憶と向き合うことで、その痛みが引き起こした親子の絆のゆがみが描写されるのだ。過去をひた隠しにしてきた父。そんな父にずっと疎外感を感じ孤独を抱えた娘。2人がアウシュヴィッツ強制収容所を訪れた時、父は、なにを語るのか!?壮絶な痛みに向き合った親子は旅の終わりになにを見つけるのか?その答えはぜひ劇場で見届けてほしい。

『リアル・ペイン~心の旅~』と『旅の終わりのたからもの』、両作品に共通するのは、重いテーマを扱いながらも軽やかで時に笑ってしまう見やすさもある作品であることだ。そして、メインキャストたちのすばらしい演技とケミストリーも。2作品を鑑賞し、語り継いでいくことの大切さを感じてほしい。

文/山崎伸子

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