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”凍結カエル”は心臓が数カ月止まるが復活する―心臓移植技術に役立つかも

  • 2026.1.15
身体が凍っても復活するカエルたち。イメージ / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

アラスカの森を歩くと、葉の下にまるで死んだようなカエルを見つけるかもしれません。

目は氷で覆われ、心臓も肺も機能していないのです。

ところが春になると、そのカエルは氷が解けるのと同時に動き出し、何事もなかったかのように森へ戻っていきます。

この驚異的な能力が、心臓や腎臓などの臓器移植技術を根本から変えるかもしれないとして、いま研究者たちの注目を集めています。

目次

  • 心臓が止まっても生きていく”凍結カエル”
  • 凍結カエルの戦略を移植技術に応用する

心臓が止まっても生きていく”凍結カエル”

主役となるのは、北米に生息するカエル「Lithobates sylvaticus」です。

このカエルは両生類の中でも特に北方に分布し、北極圏近くでも生きています。

冬になるとウッドフロッグは水中に潜ることなく、森の落ち葉の下に身を隠します。

気温が氷点下になると、体内の水分の約65〜70%が凍結し、心臓は完全に停止。

呼吸は行われず、脳や神経の電気信号も消失します。

医学的に見れば、これは臨床的に死亡した状態とほぼ同じです。

それでもこのカエルは、この状態で数カ月を過ごし、春になると完全に復活します。

では、なぜ普通の生き物は凍ると死に、Lithobates sylvaticusは復活できるのでしょうか。

生物が凍結に弱い最大の理由は、氷そのものが持つ物理的な破壊力にあります。

体が凍ると、通常は細胞の内部にも氷の結晶が形成されます。

この氷は鋭い刃物のように細胞膜や内部構造を傷つけます。

その結果、哺乳類を含む多くの生き物は、体の大部分が凍結すると不可逆的な損傷を受けて死んでしまいます。

一方で、Lithobates sylvaticusは、氷のできる場所を制御することで、体が凍っても生き残ることができます。

このカエルでは、氷は主に細胞外で形成され、細胞内部にはほとんど入り込みません。

その結果、細胞膜や内部構造は物理的な破壊を免れます。

つまり、Lithobates sylvaticusは「凍らないのではなく、壊れないように凍る戦略」を取っているのです。

さらにLithobates sylvaticusは凍結が始まると、肝臓から大量のグルコースを血中に放出します。

同時に腎臓は尿の排出を止め、尿素が体内に蓄積されます。

このグルコースと尿素の組み合わせが、細胞を凍結から守る強力な天然の保護物質として働きます。

自然環境では冬の間に何度も凍結と融解が起こりますが、それでもLithobates sylvaticusが生き延びられるのは、この化学的な防御があるからです。

ちなみに、凍結耐性を持つカエルは他にも存在します。

凍結カエルの戦略を移植技術に応用する

アメリカとカナダに生息するアマガエル「Dryophytes chrysoscelis」もまた、凍結と融解を繰り返して生き延びます。

ただし、このカエルはグルコースではなく、グリセロールを使います。

グリセロールは細胞膜全体に均一に広がり、解凍時の水分バランスの乱れを防ぐのです。

この事実は、凍結耐性には一つの正解がないことを示しています。

もちろん、これだけでは凍結耐性は完成しません。

凍結耐性カエルは同時に代謝を極限まで低下させます。

生合成や成長、エネルギー消費といった活動をほぼ停止させ、生命活動を最低限の待機状態に落とすのです。

これは、損傷を受けやすい状態で無理に活動しないための、生物学的な安全装置だと考えられています。

そして、凍結カエルたちのこれらの仕組みに注目しているのが、米国のマサチューセッツ総合病院の研究チームです。

現在、移植用臓器は摘出後わずか数時間しか保存できません。

そのため、移植手術は常に緊急対応となり、長距離輸送や最適なドナー選択が難しい状況にあります。

研究者たちはカエルの戦略を手本に、氷を細胞の外で作らせる工夫や、人体の細胞には毒性の少ない糖の仲間、さらには代謝を一時的にゆるめる薬など、いくつかの方法をそれぞれ開発してきました。

その結果、こうした自然から着想を得た手法を使うことで、ラットの肝臓は数日間の保存が可能になりました。

別の実験ではブタの腎臓を1週間以上凍った状態で保存してから移植することにも成功しています。

研究者たちが繰り返し強調しているのは、魔法の分子は存在しないという点です。

凍結耐性は、氷の位置、化学物質、代謝の抑制、時間経過といった複数の要素が協調的に働いた結果として成立します。

自然界が何十億年もかけて作り上げたこの段取りこそが、最大のヒントなのです。

心臓が止まり、氷に包まれても復活するカエルは、臓器を壊さずに休ませる方法を私たちに教えています。

参考文献

These Frogs Freeze Solid Until Their Hearts Stop For Months. Scientists Say They Could Transform How Organ Transplants Work
https://www.zmescience.com/science/news-science/wood-frogs-alive-frozen/

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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