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コーヒーで旅する日本/関東編|ただ実直に豆に向き合う。この道60年の焙煎士が伝えたいスペシャルティコーヒーの本当のおいしさとは「さかい珈琲」

  • 2026.1.14

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

カッピングによる味覚評価を徹底した上質な豆がそろう。豆ごとに味の特徴を細かく正確に教えてくれるのも魅力
カッピングによる味覚評価を徹底した上質な豆がそろう。豆ごとに味の特徴を細かく正確に教えてくれるのも魅力

第15回は東京都練馬区にある「さかい珈琲」。店主の阪井寛治さんが家族で営むスペシャルティコーヒー豆の専門店。店主はコーヒー業界一筋60年のキャリアを持ち、スペシャルティコーヒーに関しては日本に流通しはじめた創成期から知る人物だ。店では世界各国の農園を巡って厳選した“世界基準”の豆を販売。また、カフェ利用もできるので、自慢の豆を気軽に試せる場としても活躍している。今回は店主が歩んできたコーヒー人生と今後への思い、強いこだわりから生まれるコーヒーについて聞いてみた。

世界各国の生産者も訪れるなど、世界のコーヒー業界でも有名な存在
世界各国の生産者も訪れるなど、世界のコーヒー業界でも有名な存在

Profile|阪井康子(さかい・やすこ)、阪井寛治(さかい・かんじ)、阪井雅代(さかい・まさよ)

阪井寛治さんは1947年、和歌山県新宮市生まれ。高校を卒業後に上京し、「上島コーヒー本店」に就職。その後も「ダートコーヒー」「ユニカフェ」とコーヒーの大手企業に勤務。約40年にわたり、コーヒー業界の“最先端”に身を置きながら、コーヒーの幅広い知識、高い技術を習得していった。「ユニカフェ」を退職し、2005年4月に妻・康子さんと「さかい珈琲」を開業。

積み重ねた知識と技術で見極める“本物”の味わい

【写真】赤塚駅から徒歩5分ほど。アットホームな雰囲気のなかで本格派のコーヒーに出合える場所
【写真】赤塚駅から徒歩5分ほど。アットホームな雰囲気のなかで本格派のコーヒーに出合える場所

2012年に焙煎士として活躍する娘・雅代さんが加わり、創業は今年で21年になる。そして寛治さんは開業時から、「おいしいコーヒーを飲んでもらいたい」という一途な思いを店のテーマとして掲げている。まず寛治さんにこれまでのコーヒー人生を聞いてみた。

「小さいころ、アメリカに住んでいた父の従兄弟がコーヒー豆や抽出器具なんかをよく家に送ってくれてたんです。それで家族みんなで飲んでいたのを思い出します。昔からそんな環境で育ったので、自ずとコーヒー好きに。必然と言いますか、18歳になって就職先を選ぶときは迷わずコーヒー業界と決めていましたね」

全国から注文が殺到し、日々大量の豆を焙煎。店内に漂うコーヒーの香りがたまらない
全国から注文が殺到し、日々大量の豆を焙煎。店内に漂うコーヒーの香りがたまらない

「上島コーヒー本店」に16年、「ダートコーヒー」には18年勤め、着実にキャリアを重ねた寛治さん。会社員時代には営業として活躍し、コーヒーに関する市場調査、豆の仕入れなどに加え、カッピングの技術も習得。幅広い業務をこなすなかで基礎はもちろん、メーカーや業界に関することまで膨大な知識を得られたという。さらに豆を仕入れる際には日本だけでなく、海外の人たちとの交渉も必要で、その交渉力を鍛えられたことも自身の店を営むうえで重要だったと語る。

ドリッパーは安定感のある「ハリオV60」。凝縮された風味が花ひらく
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「会社員時代には世界各国の農園を巡ることもしばしば。初めて行ったのは1976年2月、ブラジルやコロンビアなどで、それからはいくつものコーヒー豆の生産国や消費国に足を運びましたね。その経験がとても役に立っています」

「豆を選ぶときは味が一番重要なんですが、それを見極めるために“生産者の顔が見える”ことも大切。現地の生産者と話しながら、土壌の状態や処理方法など豆ができるまでのプロセスを実際に見て確かめる。例えば土壌が育んだ力強さ、丁寧に選別された質のよさ、それぞれの豆の特徴を伝えるためにも必要なことだと思いますね」

フェア商品は月替り。ほか、まとめ買い(500グラム)の商品は通常価格から25%OFFで買えてお得
フェア商品は月替り。ほか、まとめ買い(500グラム)の商品は通常価格から25%OFFで買えてお得

そして寛治さんのコーヒー人生のなかで、一番の転機となったのが「ユニカフェ」在職中だった1990年代後半のこと。1998年に入社し、それからまもなくするとスペシャルティコーヒーが普及しはじめ、2000年以降にその人気は一気に拡大。そんな創成期と言える時代に寛治さんは「スペシャルティコーヒーの担当者」として活躍した。

「ケニア キウニュ 浅煎り」(500円)
「ケニア キウニュ 浅煎り」(500円)

「『ユニカフェ』時代にスペシャルティコーヒーが日本に入ってきました。私もいち早くカッピングをさせてもらいましたが、えもいわれぬ香り、雑味のないクリアな味わいに感動したのを覚えています。ちなみに初めて飲んだスペシャルティコーヒーの豆はケニア産の浅煎りでした。そのときの感動が現在の思いにつながっています」

素材選びへの誠実さから生まれる珠玉のコーヒー

産地や焙煎度などを細かく記録する様子からも、豆に対する実直な姿勢が伝わる
産地や焙煎度などを細かく記録する様子からも、豆に対する実直な姿勢が伝わる

「1990年代前半まではコマーシャルコーヒーやグルメコーヒー豆しかない時代でしたけど、そこに別格のおいしさを持つスペシャルティコーヒーが登場したんです。このおいしさを多くの人に知ってほしいという思いが強くなって、それは今も変わらず、コーヒー作りの根幹にあります」

「スペシャルティコーヒーで一番重要なのはクリーンカップ。雑味がなくクリアな味わいであることは大前提で、そこから豊かなフレーバー、甘味などを評価していくものです。もうひとつ重要なのが酸の質。単に酸味の強さ、弱さではなく、きちんと質のよいものを見極めれば酸味が舌に残らず、後味がキレイ。かといって酸味がないと“魅力のないコーヒー”になってしまうので、酸味はあってもあとに残らず、すっきりと飲めることが大切だと思います。またカッピング評価80点以上がスペシャルティコーヒーの一般的な基準となりますが、その少し上の83点以上をお店の基準として、良質な豆だけを厳選しています」

寛治さんは御年78歳(※2025年12月現在)。豊富すぎるほどの知識と技術で豆の魅力を引き出す現役の焙煎士だ
寛治さんは御年78歳(※2025年12月現在)。豊富すぎるほどの知識と技術で豆の魅力を引き出す現役の焙煎士だ
注文が殺到し、1日に50キロ近く焼くことも。焙煎量の増加に伴い、開業時から焙煎機を変えている。ちなみに現在の「Probat」は3代目
注文が殺到し、1日に50キロ近く焼くことも。焙煎量の増加に伴い、開業時から焙煎機を変えている。ちなみに現在の「Probat」は3代目

焙煎機「Probat 5キロ」の半熱風式は蓄熱性がよく、それぞれの豆の特徴を出しながら安定してクリーンな味が出せる。焙煎において、その日の気温、湿度、豆の量で異なる火力の調整はとても細かく、感覚的な部分が大きい。思い通りの風味を出すため、ポイントを的確に抑える焼き方はベテランの寛治さんだからこそできる匠の技だ。

農園や商社と密なやりとりを行い、求める味がより正確に出せる豆を仕入れる
農園や商社と密なやりとりを行い、求める味がより正確に出せる豆を仕入れる

豆は常時30種類ほど。焙煎度については一般的には明確な基準がなく、店ごとに違って曖昧ではあるが、同店ではライトロースト(浅煎り)、シティロースト(中煎り)、フレンチロースト(深煎り)をはじめ、5段階に焼きわけている。浅煎りは青、中煎りはピンク、深煎りは黄色などラベルの色で見分けやすくしているのは、コーヒー初心者にもうれしい配慮。

「豆の種類は時期によって変わりますが、コスタリカ、グアテマラ、エチオピアなどは定番で仕入れることが多いですね。各農園を直接見ているので、生産者のこだわりもよくわかり、そして豆は良質でしっかりとおいしい。シングルオリジンが多いですが、中深煎りの『北町ブレンド』をはじめとするブレンドも5種類ほど用意しています。また各生産国で行われる品評会で87点以上を獲得した『カップオブエクセレンス』(最高品質のコーヒーに与えられる国際的な称号)に選ばれた豆もそろえています」

雅代さんも世界の農園を巡り、豆を見極める力を身に付けた
雅代さんも世界の農園を巡り、豆を見極める力を身に付けた

寛治さんとともに焙煎士として活躍する雅代さんはキャリア13年目。店で働き始めてすぐにカッピングの大会で入賞するなど父譲りの腕前を持つ人物だ。店での活動に加え、他店で開催されるコーヒー教室に指導員として参加するなど、さまざまなアプローチでスペシャルティコーヒーの魅力を伝えている。

静かな街に佇む「さかい珈琲」。ここで出合ったスペシャルティコーヒーには寛治さんの思いがしっかりと表現され、「また飲みたい」と思わせてくれる本物のおいしさがあると感じた。毎月変わるフェア対象の豆は100グラム650円など、良心価格で販売してくれるのもうれしいポイント。特別ではなく、“手に届く”おいしさを気軽に実感してみてはいかがだろうか。

各国の生産者、エクスポーターとの親交が深い。店主の世界のコーヒーグッズコレクションを見るのもおもしろい
各国の生産者、エクスポーターとの親交が深い。店主の世界のコーヒーグッズコレクションを見るのもおもしろい

【阪井さんレコメンドのコーヒーショップは「オトナリ珈琲」】

「東京都千代田区にある『オトナリ珈琲』は、神保町のコインランドリーの2階に店を構える“隠れ喫茶”です。お店では全国の焙煎士から仕入れた豆を扱っていて、2カ月ごとに入れ替える一風変わったシステム。以前、同店の豆も扱っていただきました。焙煎士や豆の魅力をしっかりと理解し、訪れた人たちに伝えてくれるすてきなお店です」(阪井さん)

【「さかい珈琲」のコーヒーデータ】

●焙煎機/Probat 5キロ(半熱風式)

●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60)

●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り

●テイクアウト/あり(500円〜)※容器持参で可能

●豆の販売/100グラム650円〜

取材・文/GAKU(のららいと)

撮影/大野博之(FAKE.)

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