1. トップ
  2. レシピ
  3. なぜ「信じてるぞ」と言いたくなるのか。『ワンパターン献立』で明かされた長谷川あかりの“献立方程式”の凄さ【書評】

なぜ「信じてるぞ」と言いたくなるのか。『ワンパターン献立』で明かされた長谷川あかりの“献立方程式”の凄さ【書評】

  • 2026.1.11
シンプルだから悩まない! ワンパターン献立 長谷川あかり/ダイヤモンド社
シンプルだから悩まない! ワンパターン献立 長谷川あかり/ダイヤモンド社

この記事の画像を見る

最近、X(旧Twitter)で「○○、信じてるぞ!」という投稿をよく見かける。

料理家の名前を添えてレシピを試し、その結果を共有する──そんな“信じてるぞ構文”が一種のムーブメントになっている。

その“生みの親”とも言える存在が、料理家・管理栄養士の長谷川あかりさんだ。

意外な組み合わせなのに、作ってみると驚くほどおいしい。オシャレで斬新でありながら、どこか素朴で――滋味深い。食べるたび「信じてよかった」と思わずつぶやきたくなる、そんなレシピを次々と生み出してきた料理家だ。

そんな彼女の新著が『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』(長谷川あかり/ダイヤモンド社)だ。

本書は単なるレシピ集ではない。

無尽蔵にヒットレシピを生み出しているように見える長谷川さんの、「レシピ作りの方程式」そのものが開示される一冊でもあると感じた。

“ワンパターン”が自由を生む理由

書籍の冒頭で明かされる「献立の方程式」
書籍の冒頭で明かされる「献立の方程式」

タイトルの「ワンパターン」という言葉には、マンネリや繰り返しといった否定的な響きがある。

しかし、長谷川さんが示す意味はまったく逆だ。

それは「作る時間や手間を最小限に設定することで、自由を生むためのしくみ化」だという。

自由に見える長谷川さんの料理は、実は明確な“型”の上に成り立っている。その核心が、本書の冒頭「献立の方程式」のページで明かされている。

“味つけの黄金ルール”がレシピを無限にする

特に印象的だったのが、“味つけの黄金ルール”。

長谷川さんは、「代入(置き換え)」の発想であたらしいおいしさの新レシピを生み出しているという。

詳しくは以下のような形だ。

・肉や野菜に、以下3つの要素を組み合わせるだけで無限に料理が生まれる。

1.塩味:おいしさの土台を作る(例:塩、醤油)

2.コク:味に奥行きを与え、料理をまとめる(例:オリーブオイル、粉チーズ、バター、ごま油)

3.酸味:食欲を増進させ、味の輪郭をくっきりさせる(例:レモン、梅干し、酢)

たとえばパスタのレシピで「茹で汁の塩+オリーブオイル+レモン」という構成を見たことがある人は多いだろう。

長谷川さんは、この構造を意識しつつ、調味料や食材を代入してさまざまなレシピを考案しているのだ。

長谷川さんの最近バズっているレシピの一つ「味噌とみりん、パルメザンチーズで作る発酵肉じゃが」なども、和食の型に洋のコクを代入した好例といえるだろう。

「1肉魚+2野菜」で回る、35献立70レシピ

本書では「肉または魚1種+野菜2種」を基本構成とし、7日×5週=35献立(70レシピ+α)を紹介。

献立は「メイン+スープ」のパターンが多く、スープも「玉ねぎだけスープ」などシンプルなものが目立つ。つまり2品を作るにしても料理のハードルが低いのが嬉しいポイントだ。

試しに作って印象に残ったのが「鶏とじゃがいもの酒蒸し マスタードチーズ」だ。

ワンパターン和風の肉じゃがに洋風の調味料や酸味が代入されたレシピ献立_P12
ワンパターン和風の肉じゃがに洋風の調味料や酸味が代入されたレシピ献立_P12

蒸すだけというシンプルな工程にもかかわらず、仕上がりの味はとてもやさしく滋味深い。洋風の風味はあるものの主張しすぎることはなく、味つけが控えめでもしっかりとした満足感がある。ほどよい酸味とチーズのコクが、鶏肉そのもののうまさを静かに引き立ててくれる一皿だった。

なおこの本ではワンパターン献立の定番手法として、このほかにもさまざまな「酒蒸し」レシピが取り上げられている。

多くの人は酒蒸しというと料理酒(日本酒)を想像すると思うが、本書では白ワインに置き換えたレシピも多い。同じ酒蒸しでも、それだけで香りや方向性が変わり、食材の組み合わせ次第でレシピは文字通り無限に広がる。まさに、方程式の威力だ。

肉がなくても、ちゃんとうまい豆腐の餃子

書籍では、この餃子らしからぬ餃子と、王道餃子を思わせる味わいの「豚肉とにら、キャベツの梅ナンプラー炊き込みごはん」が並ぶ献立なのも面白い
書籍では、この餃子らしからぬ餃子と、王道餃子を思わせる味わいの「豚肉とにら、キャベツの梅ナンプラー炊き込みごはん」が並ぶ献立なのも面白い

もう一品、印象的だったのが「ツナと切り干し大根の豆腐餃子」。肉を使わず、ツナと豆腐、切り干し大根だけで仕上げる一皿だ。

口当たりはとてもやさしく、後味はさっぱり。素材の味がしっかり立ち、つけダレの酢と粗びき黒こしょうが“黄金ルール”通りに味を締めてくれる。胃にも心にもやさしい、長谷川さんらしいレシピだ。

「じゃがいも×かにかま」が成立する理由

カニカマから出汁が出る……と書かれており、「信じてるぞ」と思いつつ作ってみたら、本当に濃厚な出汁が出てビックリ!
カニカマから出汁が出る……と書かれており、「信じてるぞ」と思いつつ作ってみたら、本当に濃厚な出汁が出てビックリ!

「じゃがいもとかにかまのワンパンパスタ」も忘れがたい。

安価な食材なのに、口に入れるとしっかり“カニのごちそう感”がある。

じゃがいものやさしい食感に、かにかまの凝縮した旨みが重なり、オリーブオイルと白ワインの香りがほんのり洋風の余韻を添えてくれる。

どの国の料理とも言い切れないが、ひと口で“長谷川あかりの味”だとわかる一皿だった。

実際に筆者が作ったもの。奥さんだけでなく2歳の息子もおいしそうにバクバク食べていた
実際に筆者が作ったもの。奥さんだけでなく2歳の息子もおいしそうにバクバク食べていた

レシピ本であり、「料理の教科書」でもある

長谷川あかりさんのレシピ本はこれまでも多数あるが、本書の魅力は「なぜその組み合わせが成立するのか」を理論で理解できる点にある。

読めば読むほど、作れば作るほど、料理を成り立たせる構造が見えてくるのだ。

ただ、方程式を理解できても、その“味の妙”に溢れた新レシピを自分が作れるか? というと、それは簡単ではない。

方程式を理解できたからこそ、食材の性質と味のバランスを直感的に組み立てる、長谷川さんの感覚の凄さもわかる――。

『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』は、献立作りを軽やかにしてくれる実用書であると同時に、その才能の一端を間近で覗かせてくれる一冊でもあった。

文=古澤誠一郎

元記事で読む
の記事をもっとみる