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2025年北米を席巻した日本アニメ映画――『鬼滅の刃』と『チェンソーマン』にみる戦略の違い

  • 2026.1.10
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』LAプレミアに駆けつけた花江夏樹&慶蔵の声を演じるチャニング・テイタム(現地時間2025年9月9日) (C)Zeta Image width=
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』LAプレミアに駆けつけた花江夏樹&慶蔵の声を演じるチャニング・テイタム(現地時間2025年9月9日) (C)Zeta Image

年が明けて間もないが、2025年は兎にも角にも、映画興収におけるアニメーション映画の存在感に圧倒される1年だった。1月5日に興行通信社から発表された2025年度映画興収ベスト10、首位はもちろん『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。公開172日間で389億円を達成。国内歴代1位を記録した前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(407.5億円)越えを果たすかにも注目が集まるなど、まさに異次元レベルのヒットである。しかし、末恐ろしいのはこの『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の異例なヒットが決して国内に限定された話ではないことである。

【写真】2025年度映画興収ベスト10

■国内でも存在感を見せつけたアニメ勢、その力は海外でも……


『鬼滅の刃』に続く国内興収第2位は、『国宝』。本作も本作で188.6億を記録、実写邦画の歴代興行収入記録を22年ぶりに更新し、邦画として実写歴代1位の座に輝いた作品である。それに続く3位は『名探偵コナン 隻眼の残像』(146.8億円)、4位は『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』(101.5億円)、5位は『はたらく細胞』(63.5億円)となっている。

続く6位から10位は『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』、『劇場版TOKYO MER:南海ミッション』、『モアナと伝説の海2』、『8番出口』、『ジュラシック・ワールド/復活の大地』という顔ぶれ。

つまり、ランキングのうち4本がアニメーション作品(日本アニメ3本、海外アニメ1本)で占められている上に、実写作品においても『はたらく細胞』が漫画原作、『8番出口』がゲーム作品であることを考えると「アニメ・漫画・ゲーム」に関する作品のパワーが今本当に強いことが実感できる。むしろ『国宝』が異例だったと言うべきか。

そんなふうに、現在の国内興収はまさにアニメ映画が市場を牽引し、実写大作映画がそれを追う、という構図になっていることが分かる。もちろん、これは“アニメ大国日本”ならではの結果とも言えるだろう。しかし、2025年の北米興収における日本アニメーション作品の存在感も、“半端ない”のだ。

■北米での日本アニメーション映画のヒット

2025年、北米で公開されたアニメーション映画は新作からリバイバル上映までさまざまだった。まずは主要作品の興収をおさらいしよう。2025年10月3日から10日 までGKIDS配給で4Kリマスター版が限定上映された今 敏監督の『パーフェクトブルー』は約173万ドルを記録。1週間だけの興行かつ旧作ながら100万ドルを超えるヒットとなった。同じように2月に公開された『劇場版 進撃の巨人 完結編』も限定的な公開規模ながら、熱心なファン層を動員し、約289万ドルの興収を達成。

やはり北米は「週刊少年ジャンプ」IP作品が人気で、12月5日から公開されている『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』の行方も気になるところではないだろうか。本作はオープニング週末興収が約1008万ドル、初登場3〜4位という力強いスタートを切ったものの、公開約10日間での北米累計興収は約1450万ドル。公開初週にはファンが殺到したが、2週目は前週比約-80%と大きく数字を落としている。映画作品としての特殊性(「渋谷事変」がダイジェスト、1月まで待てば配信で観られるアニメ「死滅回游」が2話までまとめられた内容)も、この結果に起因しているかもしれない。

しかし、やはり「週刊少年ジャンプ」は強い。注目すべきは日本でも興収を賑わせた『鬼滅の刃』と『チェンソーマン』の興収であり、結論から言うと、この2作品が圧倒的なヒットを記録。特に『鬼滅の刃』は文字通り、歴史的な記録を打ち立てた。

■『鬼滅の刃』がハリウッド大作と並ぶ

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は北米で9月12日に上映が開始。そしてオープニング週末興収では日本アニメ映画の歴史を塗り替え、7000万ドルを超える大ヒット。さらに記録を更新し続け、なんと1月8日時点での北米興収は約1億3448万ドルを記録している。本作は昨年10月時点で『グリーン・デスティニー』(2000年)を抜き、25年ぶりに北米で公開された「非英語言語の映画」として歴代1位の記録を樹立した。そして全世界的にも、11月16日までに観客動員数8917万を突破、総興行収入1063億円を記録し、日本映画史上初となる全世界興行収入1000億円突破を達成した(アニプレックス調べ)。現時点では2025年公開の映画の中で6位を記録(※Box Office mojo調べ )。笑ってしまうくらいの大ヒットぶりである。

北米に話を戻すと、北米年間ランキングにおける順位としては18位(1月8日時点)。これはハリウッドの超大作ブロックバスターに並ぶポジションであり、ランキング周辺には『ファイナル・デッドブラッド』や『ライオン・キング:ムファサ』が位置する。2025年の大ヒットホラー映画とディズニー作品と日本映画が肩を並べている、この結果は異例中の異例と言えるだろう。

では、『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』はどうなのか。10月24日に北米公開された本作も、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』に次ぐ大ヒットとなり、興収は約4343万ドルを記録。本作も北米年間ランキングにおいては49位ということで、一見『鬼滅の刃』に見劣る結果のように感じるかもしれないが、全くそんなことはないだろう。周辺には『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』や『ノスフェラトゥ』といったアカデミー賞系作品から、ホラー映画『THE MONKEY/ザ・モンキー』やラミ・マレック主演の『アマチュア』といった中規模ヒット作の上位に位置している。

なにより特筆すべきは、『鬼滅の刃』も『チェンソーマン』もR指定だということ。 “ R指定”の“外国語アニメ作品”が宣伝規模もハリウッド大作に比べて限られている中で、年間50位に入っている。それだけで大ヒットと言うには十分すぎる結果ではないだろうか。

しかし、この2作のヒットにおける差異を語る上で面白いのは、その売り出し方だ。

■デジタルリリースに見る戦略的違い

『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』は10月末に劇場公開されたのに対し、デジタル配信が12月9日から開始された。つまり、“劇場限定”期間はわずか約1カ月なのだ。Apple TV(iTunes)、Amazon Prime Videoなどの主要プラットフォームで、北米をはじめとする複数国(フィリピン、タイ、ウクライナで1位、米国、カナダ、欧州各国でトップ5入り)でチャート上位を記録。12月というホリデーシーズンは、通常ハリウッド大作映画(『ジュラシック・ワールド』最新作やマーベル映画など)がチャートを独占するのに対し、その中でR指定外国語アニメ映画が1位を取ることも、やはり異例なのである。 (※FlixPatrol調べ)

デジタル配信(VOD:レンタル・購入)の具体的な売上金額や再生回数は、スタジオ側(Sony/Crunchyroll)から公式に発表されることがほぼないが、1位を取った事実だけでも数百万ドル〜数千万ドル規模の売上が短期間で発生していることが示唆される。通常、北米でトップを取る作品は、1週間で数十万件以上のダウンロード(購入・レンタル)が行われているからだ。

なぜ、こんなにも早くデジタルリリースをしたのか。それはおそらく、作品とネットの相性の良さを見込んだ上での戦略だろう。本作はアニメ放送時からYouTube上でのリアクション動画がかなり多く投稿され、再生回数を稼いでいた。そして12月9日の劇場版デジタル配信直後から、同作のリアクション動画が同じように投稿され、盛り上がりを見せている。血みどろな大人向けの内容とアクションの迫力が圧倒的な本作において、鉄(バズ)を熱いうちに打ち直す、という戦略はかなり重要だったように感じる。

一方で、対極的な姿勢を見せたのが『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』だ。なんと、本作のデジタル配信は2026年以降の予定ということで目処すらしっかり立っていないのだ。 これは初期段階での爆発的な興収記録を考え、劇場独占公開に絞る、その“限定性”でさらに興収を伸ばす戦略なのだ。

『チェンソーマン』が、旬が過ぎる前に、熱量をそのままSNS拡散(リアクション動画等)へ繋げ、デジタル販売で回収する「短期集中型」なのに対し、歴史的ヒットのため、急いで配信する必要もなく劇場での(単価が高い)収益を極限まで搾り取る「長期(ロングラン)型」の『鬼滅の刃』。ファンの行動としても、前者は「劇場で見逃したから配信で観る」「シーンごとに停止して細かく観たい」という層が、後者は「配信がないから、もう一度劇場に行くしかない」層がリピートし、興収をさらに押し上げる仕組みになっている。

まさに圧倒的なブランド力で劇場に客を縛り付け、デジタルを封印することで興収を最大化する“王道のブロックバスター戦略”なのは『鬼滅の刃』だが、現代的なヒットモデルは、迅速なデジタル展開で、SNSのバズと連動し、数千万ドル規模のデジタル収益を上げている『チェンソーマン』と言えるだろう。全く異なる戦略ではあるが、そのどちらもが今、日本のみならず北米の興収を賑わせていることは間違いなく、日本アニメ映画が北米市場で「主要な商品」として扱われていることを証明している。

今後さらに、日本発のアニメ作品の重要性は高まるはず。2026年のバズや動向にも注目したい。(文:アナイス/ANAIS)

※興行収入は主にBox Office Mojoを参照。

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