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犬山紙子&山崎まどかが語る『旅の終わりのたからもの』父と娘、そして歴史に向き合うロードムービー

  • 2026.1.9

映画『旅の終わりのたからもの』(1月16日公開)の公開記念トークイベントが1月8日にkino cinéma新宿で行われ、イラストエッセイストの犬山紙子とコラムニストの山崎まどかが出席した。

【写真を見る】犬山紙子&山崎まどかが魅力を熱弁!『旅の終わりのたからもの』トークイベントの様子

本作は激動の1991年ポーランドを舞台に、ニューヨークで成功するもどこか満たされない娘ルーシーと、ホロコーストを生き抜き、50年ぶりに祖国へ戻った父エデクが繰り広げる異色のロードムービー。民主国家としての土台を築いていた91年のポーランドの街並みをリアリティを持って再現していることでも、高い評価を受けている。

「父と娘のやり取りに『あるある!』と思うものがすごく多かった」という犬山紙子
「父と娘のやり取りに『あるある!』と思うものがすごく多かった」という犬山紙子

自身の経験をもとに、女性の生き方や育児についてのエッセイを数多く執筆している犬山だが、主人公のひとりであるルーシーと「アラフォーで世代が近い」と親近感たっぷり。本作を鑑賞したところ、「深くて重いテーマを扱いつつも、父と娘のやり取りに『あるある!』と思うものがすごく多くて。お互いにこういう齟齬や、こういうイラつきってあるよねと思った」とかみ合わない父娘の珍道中を大いに楽しみつつ、次第にそれぞれの心の傷に光が当てられる展開にグッときたという。

「親子の映画であると同時に、歴史の映画でもある」と話した山崎まどか
「親子の映画であると同時に、歴史の映画でもある」と話した山崎まどか

「家族に弱いところを見せないというマインドは、多くのお父さんたちのなかにもあるのかもしれない」

グッときたポイントは、過去や本音を封印してきた父親と、それをなんとか知ろうとする娘という関係にある様子。犬山が「私は、父にちゃんと向き合ったことがなくて。3年前に母を亡くしたんですが、母の痛みや歴史を全然知らなかったということに、あとから打ちのめされた経験がある。だからこそ『父にきちんと向き合いたい』と思っていた時にこの映画を観たので、すごく心に響きました」と目を細めると、山崎は「エデクはものすごくコミュ力が強くて、明るくて、行く先々で人を巻き込んだりする。でもどこか、上っ面なような感じもあって。愛想の良さで、いろいろなことをかわされてしまっているようなところがある。娘はそれに常にイラッとしている関係」だと分析。

犬山も「エデクのあの明るさの裏には…と感じるものもあった。家族に弱いところを見せないというマインドは、多くのお父さんたちのなかにもあるのかもしれない」と娘に隠し事をしてしまう父親の気持ちに寄り添いながら、「お父さんのトラウマが隠れていそうなところにも、ルーシーはしっかりと触れていく。『父のことを知りたい』、そこからつながって『自分を知りたい』というルーシーの気持ちが、すごく伝わってきた」と娘の放つ力強さにも共感ができたと話す。

「痛みを伝えていくことは意図的にやっていかないと、いとも簡単になかったことにされてしまう」

いまを生きる人々の物語でもあると語る
いまを生きる人々の物語でもあると語る

父娘の気持ちがすれ違うなか、2人の旅はアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所へとたどり着く。そこで初めて、父の口から辛く痛ましい家族の記憶が語られる。山崎は「アウシュヴィッツで実際にロケをしている」と裏話を披露。父娘のやり取りから歴史を知ると同時に、そのなかに生活者の営みがあったことを確かめられるような映画だという。

犬山は「アウシュヴィッツのシーンは、父が過去の自分をなでるというか、確かめるというか、邂逅をする、すごく深いシーン」だと印象を口にしつつ、「アウシュヴィッツを取り上げる場合、その当時を描く映画は多いけれど、本作は(ホロコースト)サバイバーの方の目線や、父と娘の目線で描かれる」と特別な視点を持った映画だとコメント。「親子の映画であると同時に、歴史の映画でもある」と同意した山崎は、「歴史の向こう側には、生活をしていた人々がいて。そのことを上手に語れない父がいて、それを知りたい娘がいる。それもすべて痛々しくならないように、救いがあるように描かれている」と称える。

犬山紙子は、心が温まったと話した
犬山紙子は、心が温まったと話した

すると「テーマはとても深いんですが、すごく温まりながら観られる映画。不思議な感覚だった」とうなずいた犬山は、「舞台が90年代だからこそ、まだ傷がかさぶたになっていない状態を映しだせているのかなと感じました。当たり前のことなんですが、(ホロコースト)サバイバーの方々ひとりひとりに名前があって、物語があって、家族がいて。生き延びたその先に、娘がいて。痛みを引き継ぐというか、伝えていくことは意図的にやっていかないと、いとも簡単になかったことにされてしまうんだなということも感じた」としみじみ。

山崎は「戦争の記憶が薄れつつある時代」といまの日本の状況に触れつつ、「実際に経験したわけではないけれど、もっと話を聞いておきたいし、戦時下で暮らしていた人、被害に遭った人がどういった日常を送っていたのかを知っておきたい」と語り、「ルーシーは強引に見えるけれど、それくらいしないと自分のルーツや、家族の歴史を手繰り寄せることはできない。そういったものは薄れ、埋もれてしまうのも早い」と熱を込め、さらに「親子の話を突き詰めたところに、いまの移民や外国人、マイノリティに対する差別や迫害についても考えることができる。そしてガザでなにが起きているのか、そこで暮らしている人がどういう目に遭っているのかと考えることもできる」といまを生きる人々の物語でもあると熱弁する。

【写真を見る】犬山紙子&山崎まどかが魅力を熱弁!『旅の終わりのたからもの』トークイベントの様子
【写真を見る】犬山紙子&山崎まどかが魅力を熱弁!『旅の終わりのたからもの』トークイベントの様子

ルーシーを演じるのは、テレビシリーズ「GIRLS/ガールズ」の製作、主演、監督、脚本を務めたレナ・ダナム。エデクを、『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』(11)や『ホビット』シリーズなどで知られるスティーヴン・フライが演じている。「本当の親子に見える」と微笑んだ山崎は、もともとダナムのファンだという。

「彼女は、基本的には自分が企画しているか、監督や脚本に関わっているか、友だちの作品に出演したりすることが多い。そういった作品ではない形で主演を務めるのは、とても珍しい。本作はレナが惚れ込んだ企画ということでも、とても気になっていた」とコメント。ダナムが監督、脚本を手がけたドラマ「イカれてる?!」には、「スティーヴン・フライが出演している。その妻役は、桃井かおりさんが演じている」そうで、「レナ・ダナムは人を引き込む力があって、絆を深めながら、次の仕事にも向かっている。桃井さんも、レナのことを『大好きだ』と言っている」とダナムの人間力に惚れ込みながら、「実は本作には、ちょっとだけ不思議な形で、レナのパートナーのルイス・フェルバーが出演しているんです。それをわかって観ると、ちょっとおもしろいかなと思います」と新たな注目ポイントを解説していた。

最後に「90年代もいまも、親子のこういった掛け合いにイラッとくる、なるほどな!と楽しめる映画」と改めてアピールした犬山は、「娘として『お父さんに対してこういう気持ちがあった、わかる!』と思う部分と、私はいま娘を育てているので、親として『私も、娘に対してうざい絡み方をしているんじゃないか』と思ったり」と苦笑い。「エデクが、娘のことを愛称で呼ぶんです。親としては、かわいいものだと思ってその愛称で呼んでいるんですね。私も娘のことをシルバニアファミリーみたいでかわいいと思うんですが、もしかしたら娘はそれを嫌だと思っているかもしれない。親としての自分、娘としての自分。両方ともグサっとくるシーンがあった」と打ち明けながら、「父の無神経さの裏には、こういう背景があったんだと考えるような映画。『こういうことを言われた、嫌だ』で切り捨てるのではなく、なぜそこに至ったのかと考えたくなった」と自らの親子関係にも想いを馳せていた。

取材・文/成田おり枝

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