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「スターを取り損ねちゃったの?」“奇跡の一枚”なのにお蔵入りしたのはなぜ? 人気猫写真家が2年間秘めていた“感無量”な撮影秘話【ベスト記事2025】

  • 2026.1.8

2025年1年間で特に人気を集めたCREA WEBの記事を発表! あの映画やドラマのヒットの理由から、気の利いた手土産、そして、じっくり読みたい注目の人のインタビューまで。たっぷりお楽しみください。(初公開日 2025年2月20日 ※記事内の情報は当時のものです)


猫写真家・沖昌之さんと“ちょっと変”な猫たちの奇跡の瞬間

愉快で味わい深い猫の写真が人気の写真家・沖昌之さん。カメラ未経験から猫の撮影を始め、脱サラして出版した写真集「必死すぎるネコ」がシリーズ3作で累計8万部を突破。撮影した猫を載せるインスタグラムのフォロワーは49万人(2025年2月現在)と、大きな注目を集めている。

ほぼ初出の作品を集めた写真展「これネコ それネコ?」が2月21日(金)から東京ミッドタウン フジフイルム スクエア内で開催される。撮影秘話や写真展の見どころについて聞いた。

©沖昌之

――沖さんが撮る写真は、おかしみや不思議さも含めて、猫の“ありのまま”が詰まっている気がします。

猫って、誰がどう撮ってもかわいいんですよ。それぐらい文句なしにかわいい生き物です。いわゆる正統派のかわいさももちろんいいけれど、「実はこんなかわいさもあるよ!」という自分なりの提案をできればと思っています。

僕自身、猫を撮り始めるまで、「気ままでツンデレ」とか「香箱座りして日向ぼっこ」みたいな、よくある猫のイメージしか持っていませんでした。でも、写真を撮って観察するようになったら、それぞれの性格の違いや行動の面白さ、猫同士の関係性の複雑さなど、違う側面がどんどん見えてきて、猫がもっと好きになったんです。

なんでその表情? とか、なんでその格好なん? とか、なんでそんなことになったんや! みたいな「なんで」の部分に潜むかわいさに惹かれますね。そこに、その子らしさや猫たちの関係性が現れるとも思うので、そういう瞬間を大切に撮影しています。

――らしさが見える瞬間は、ある程度、猫たちと関係性を築かないと撮れないのかなとも思うのですが、普段どうやって撮影されているのですか。

最近は、猫がたくさんいる「猫島」で撮ることが多くて、夜明けから日没まで、とりあえず徘徊していますね。猫がいる地域を転々としながら撮れるシチュエーションやタイミングを探しつつ、猫たちに僕という存在に慣れてもらうというか。

やっぱりその子らしい自然な姿を撮ろうとしたら、自分がその猫にとって風景の一部になるしかないのかなと思うんです。「あいつ昨日も来とったな」「明日も来そうやな」「なんかずっとおるな」となっていけば、僕に対して違和感がなくなって、夢中になったり、必死になったりしているところを、たまに撮らせてもらえる。そんな感じでしょうか。

――では例えば、今度の写真展でも展示される予定というこちらの作品、いろいろ最高なんですが(笑)、これもやっぱり時間をかけて距離を縮めて撮ったものですか。

©沖昌之

あ、それはわりとすぐ撮れました(笑)。この星マークのある塀のあたりに2匹がいたので、なにかストーリーがある絵が撮れたら面白いなと思って見ていたんです。

で、2匹がそこを離れたら、違う場所に撮影に行って、また戻ってきて様子を見て、と何回かやっていたら、2匹がじゃれ合いだして星の方へ走っていって。なんかしそうだなと構えていたら、撮れました。スーパーマリオじゃないけど、スターを取り損ねて「あ~~」みたいな絵にも見えて、かわいいですよね。

猫は気分や天候で、いる場所もやることも違うので、こういうラッキーパンチもあれば、まったく撮れない日もあって、まちまちですね。

猫3匹の奇跡のショットが! 「“なんで”が渋滞してもはや意味不明です」

沖さんの代表作となった写真集「必死すぎるネコ」(タツミムック)。

――星マーク込みで狙っていたのですね。沖さんの写真は、想像をかきたてられるものが多いです。

猫の表情や動きの面白さ、猫同士の関係性を見せるだけだと、どうしても限界があるというか、結局「やっぱり猫ってかわいいよね」で終わってしまうんですよね。

でも星が入ることで、一気に世界が広がります。見る人がいろいろ補完して楽しめるのが写真の良さのひとつだと思うので、僕の写真から、ああでもない、こうでもないと想像したり、会話して面白がってもらえたらうれしいです。

――こちらの写真も、いったいどう撮ったのかすごく気になります。

©沖昌之

これは、猫をお世話している人との共同作品のような感じですね。ある猫島でアルバイトをしている男性の宿泊場所に、僕も泊まらせていただいていたんですが、その方がこの3匹の子猫たちを世話していたんです。僕は普段、外の猫しか撮らないけど、なんだか風情のあるふすまだし、少し開けると猫が顔を出すし、撮ってみようかなと。

でも、舌で音を出したり、紐で呼んでみたり、いろいろやったけど、1匹しか顔を出さない。全然無理やなと思ったとき、お世話している人が近くを通ったら2匹顔を見せたんです。イケるかもと思い、僕の後ろで彼に紐を動かしてもらいながら、スロットを打つような気持ちで粘っていたら(笑)、ピョコピョコピョコと3匹縦に並んで。「うわぁ揃った!」と、ふたりで大興奮しました。

――大当たりの一枚ですね。

めちゃくちゃかわいいですよね? 「なんで」が渋滞して、もはや意味不明です(笑)。この写真は何十年も使い倒そうと思っています。撮ってからけっこう長くお蔵入りしていたので、早く皆さんに写真展で直接見ていただきたいです。

――今回の写真展のために、2年間撮りためていたんですよね。

そうですね。写真展を企画してくださったフジフイルムさんのルールが「原則として未発表の写真」ということだったので、新しいものを撮り続けようとスタートしました。

ただ、これまでいい写真が撮れたら、その日か翌日にはSNSにアップして、自分の感覚と「いいね」の数にズレがないか確認していたので、それができなくて、だいぶ手探りではありましたね。

写真展で見せたい、会心の一枚は?

沖昌之さん。

――この2年のなかで、印象に残っている撮影エピソードはありますか。撮り損なっちゃったとかでも……。

失敗は山ほどあります。なかでもショックが大きかったのは、めったにない貴重な場面を逃したこと。今思い返しても、身もだえするほど悔しくなります。

その猫島は、島に渡る船の船長さんが猫たちのお世話をしていて。ある日、船長さんが島を出て買い物に行ったので、猫たちは別のいろんな家でごはんをもらっていたんですね。で、夕方くらいに船長さんが帰ってきたら、散り散りになっていた猫たちがすごい勢いで船長さんの家にめがけてダッシュしているところに遭遇した。

しかも「手をあげて渡りましょう」みたいな子どものイラスト付きの看板の前を、たくさんの猫たちが一心不乱に横切っていったんですよ。もちろん手をあげずに(笑)。「すごっ!」と思って、急いでシャッターを切ったけど、全然ダメでした。肝心の猫と看板がうまく撮れなかったんです。

――シチュエーションを聞いているだけで面白いです。

いつかちゃんと撮ってお見せしたいですね。前もって、船長さんに留守にしてもらう日を決めておくとかして(笑)。

こちらも写真展に展示される予定の作品。 ©沖昌之

――展示される作品のなかで、とくに気に入っている写真はありますか。

猫と看板を撮れなかった島で、実はすごいのが撮れたんです。

島の漁師さんが投げた魚の切れ端に、猫たちがぐわっと飛びかかっている写真なんですが、めちゃくちゃ躍動的な瞬間をパーフェクトに捉えることができました。猫島に撮影に行く前に、キヤノンのR1という、とんでもなくいいカメラを貸していただいて、そのカメラのおかげですね。

猫って、何匹か集まっていても、一匹が必死な時はほかのコは傍観していたりとみんながひとつのものに夢中になる場面はほぼないんですよ。でもそのときは、それぞれの猫が意志を持って魚をめがけて躍動していて、「みんながこんなに本気な姿はめったに撮れない!」と感無量でした。

すぐさま、そのカメラのモニターをiPhoneで撮って、編集さんとアートディレクターに送ったら、「すごい!」「オリンピックみたい!」と盛り上がりました。たぶん、見てくれた方にも驚いてもらえるんじゃないかなと。この写真も、死ぬまで使い倒します(笑)。

沖昌之さん。

――写真展が楽しみです。やっぱり会心の一枚が撮れた時が、1番の喜びですか。

最高に嬉しいです。猫写真家として独立して10年なんですが、けっこうモチベーションを維持するのがむずかしかったりもするんです。猫が好きだから、淡々と撮り続けることはできると思いますが。

でも、心から納得のいく写真が撮れると、この先もっといい写真が撮れる気がするというか、続けていけば、誰も見たことがないような猫たちの姿を撮るチャンスがあるんだと思えて、モチベーションがぐっと上がりますね。

なぜ自分が「猫の自然な姿」を撮影できるのか

こちらも写真展に展示される予定の作品。 ©沖昌之

――長年、地域猫を撮影してこられていますが、大切にしていることはありますか。

撮影当初は、地域猫や「桜耳」という言葉、世話をしている方の存在も知りませんでした。

撮影を続けるうちに毎日世話をしている方と出会い、何度か挨拶していくうちに、その方々はお金や時間を費やして猫の世話をしていることに気づかされました。この方たちの愛情によって猫たちは安心して暮らせていますし、人を警戒していない。そういう環境が作られているからこそ、僕は猫の自然な姿を撮影できているんです。だから自分にできることとして、猫をお世話している方々にフードや治療の費用を、微力ながらサポートしていて、この先も続けていこうと思っています。

猫を撮り始めたころも、猫と自分で9対1くらいの利益配分でやっていけたらいいなぁと、ふんわり思っていたんですけどね。

――猫が9で沖さんが1ですか?

そうです、そうです。そんなふうに生きられたら平和だよな、と。でも実際は、自分の生活で首が回らない時期がけっこう長かったんですね。

少しずつ写真集を買ってもらえて、メディアに注目してもらえて、企業とコラボができるようになって、ようやく猫やお世話をしている方々に還元できるようになってきた。

そういう意味でも、続けてこられてよかったなと思います。

――猫たちのためにも、写真展が盛りあがるといいですね。あらためて、見どころを教えてください。

会場でも販売する写真集をデザインしてくださったアートディレクターの山下リサさんが、空間もディレクションしているのですが、僕の意見はほぼ無視で突っ走ってくださって(笑)、非常に遊び心のある展示になっています。

シンプルに見せるゾーンもあれば、切り抜きの猫を散りばめたり、猫と撮影できたり、ギミックがあちこちにあるので、楽しんでもらえるとうれしいです!

沖 昌之(おき・まさゆき)

猫写真家。1978年、兵庫県神戸市生まれ。東京のアパレルに勤務していた2014年、猫の撮影を開始。2015年に猫写真家として独立。写真集に『必死すぎるネコ』『明日はきっとうまくいく』など。シリーズ3作で累計8万部突破。

Instagram @okirakuoki
X @okirakuoki

文=熊坂麻美
撮影=山元茂樹
写真=沖 昌之

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