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救急車を待つ10分間の怖さ!苦しそうな父、「もうすぐ」が長すぎる夜の不安と冷静のあいだで揺れる家族の物語【作者に聞く】

  • 2026.1.7
「もうすぐ来る」強い焦りを感じながら待つ中、やっと救急車が来てくれた…! 作=キクチ
「もうすぐ来る」強い焦りを感じながら待つ中、やっと救急車が来てくれた…! 作=キクチ

右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をコミカルかつ丁寧に描いてきたキクチさん(kkc_ayn)。母の在宅介護と看取りをテーマにしたコミックエッセイ『20代、親を看取る。』では、自宅介護の現実や親との死別に向き合う複雑な感情を描き、多くの共感を集めた。2023年に書籍化された同作は、親の老いを意識し始めた世代からも大きな反響を呼んでいる。

コミックエッセイ『父が全裸で倒れてた。』は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れるという出来事を描いた作品だ。介護と看取りを経験したことで、以前より冷静に対処できる場面も増えた一方、今回は一人っ子として頼れる家族がいない状況で、さまざまな判断を迫られることになる。“親の老いと死”という、誰もがいつか直面するテーマを、現実の重さとともに描き出している。

救急車を待つ時間が引き延ばされる感覚と、頭が真っ白になる瞬間

「父が全裸で倒れてた。」カバー 作=キクチ
「父が全裸で倒れてた。」カバー 作=キクチ
第1話1-1 作=キクチ
第1話1-1 作=キクチ
第1話1-2 作=キクチ
第1話1-2 作=キクチ

今回は、苦しそうな父を前に、救急車が到着するまでの時間をどう過ごしたのかが描かれる。119番通報後、救急隊員の質問に答えながら父の状態を伝えていくやり取りは、実際に経験した人でなければわからない緊張感に満ちている。携帯電話の着信拒否設定を解除するといった細かな行動にも、切迫した状況のリアルさが際立っている。

救急隊からは便の有無や全身の状態についても確認されたが、キクチさんは布団をめくり、老いた父の下半身を見ることに強い抵抗を覚えたという。緊急時であっても、親の身体、とくに下半身や性器を直視することは大きな精神的負担になる。確認すべきだったのでは、と頭をよぎりながらも、今振り返っても「やはり無理だった」と感じているそうだ。

焦りのなかで続けた声かけと、自分自身へのツッコミ

救急車を待つ時間は、普段ならあっという間に過ぎるはずの数分でさえ、異様なほど長く感じられる。キクチさんは父に声をかけ続け、「もうすぐ来るからね」と励ましながらも、心の中では「“もうすぐ”って言ってから10分経っている」と自分にツッコミを入れていたという。

しかし、強い焦りを抱えながらも、完全に取り乱すことなく、夫に玄関前で救急隊を迎えるよう指示する冷静さも残っていた。救急車が来てくれるという事実そのものが、少しずつ心を落ち着かせてくれたのかもしれない。不安と冷静さが入り混じる、その微妙な心の揺れが丁寧に描かれている。

絶望と希望の分岐点で見えた、夫の行動力

そんな状況のなかで、要所要所で支えになったのが、夫の存在だった。夫は父がすぐ戻ってくることを信じ、「掃除をする」という行動を選んだ。一方のキクチさんは、そこまで前向きに考える余裕がなく、この状況に絶望していたという。だからこそ、夫の行動を目にしたことで、「そうだよね、きっとすぐ戻れるよね!」と気持ちが少しだけ明るくなったそうだ。

普段は柔らかく不思議な雰囲気をまとっている夫だが、いざというときに見せる行動力は毎回頼もしい。その姿が、極限状態の中で大きな支えになっていたことが伝わってくる。

タイトル通り、全裸で倒れている父を発見するという衝撃的な場面から始まる『父が全裸で倒れてた。』。つらい現実を真正面から描きつつ、淡々とした語り口の中にクスリと笑える瞬間を織り交ぜるキクチさんの表現は、読む人の心に静かに残る。今後も、この家族の時間を見守っていきたい。

取材協力:キクチさん(kkc_ayn)

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