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“一軒家から荷物を運び出すバイト”をしていた男性が耳にした、姿の見えぬ家主の気配…

  • 2026.1.5
写真はイメージです。提供:アフロ

ファンによるリライト文化と共に成長し、10周年という節目を迎えた怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」。生配信サービス「TwitCasting」のこの人気チャンネルは、これまで優に3000話を超える珠玉の実話怪談たちを紹介してきました。

今回はそんな禍話から、怪談収集を趣味にしていた男性が収集をやめてしまうきっかけになったお話をご紹介します――。


「やめたんですよ。このお話を最後に怪談集めるの」

写真はイメージです。提供:アフロ

「取材した人が言ったことが嘘だったら、どうします?」

かぁなっきさんが実話怪談収集の一環で、同じように怖い話を集めているFさんという男性に会って話を聞いていたとき、こんなことを言われたそうです。

確かに実話怪談というものは体験した人の主観に基づくものであり、その情報ソースは基本的には体験者の言葉にしかありません。

「お話を伺う中で既読感を感じたら、あとで同じような怪談がなかったか自分なりに最善を尽くしチェックして、共通しているところ、改変しているところを見比べて剽窃(ひょうせつ)か否かを判断するしかないんじゃないですかね」

「すごいなぁ」

「Fさんならどうします、そういうとき?」

「やめます。というか、やめたんですよ。このお話を最後に怪談集めるの」

「これは“お茶を出されちゃった奴の話”」

Fさんの怪談収集は完全なる趣味で、インターネットやイベントでそれを発表するようなことは端から頭にありませんでした。

大学生時代に友人らのツテを辿って、「怖い話大会」という名目で飲み会をセッティングしてまで“Sさん”というOBの男性と会ったのも、単にどんな怖い体験をしたのだろう、という純粋な好奇心からだったそうです。

当日、友人の家にビールやおつまみを持って現れた噂のSさんの第一印象は、有り体に言えば“不良”だな、というものでした。

こういうタイプは、本来なら行ってはいけない場所にもガンガン突き進んでいくので、Fさんも『今日は実りのある話が聞けそうだ』とワクワクしていました。

「じゃあ、いよいよ聞いちゃいますか! Sくんの怖い話~!」

飲み会も盛り上がった頃、友人のフリに応えるようにSさんの話が始まりました。

「あんまりハードルあげんなって。なんというか、これは“お茶を出されちゃった奴の話”なんだよ」

写真はイメージです。提供:アフロ

Sさんが現役の大学生だった頃、彼は大学生活の合間に“家から荷物を運び出すバイト”をしていたのだそうです。

なんだか靄のかかったような言い回しが気になって色々探りを入れてみたFさんでしたが、どうやら引越し業者とは違うようでした。

「で、ある日の仕事先がさ、まあ、よくある2階建ての郊外の一軒家だったんだ――」

誰かが勢いよく襖を開けたような音

「うわ……なんだよ、この家……」

「マジかよ~」

仕事仲間と足を踏み入れたその家は、玄関先の段階で家財道具がそのまま残されている、言葉を選ばずに言えば“夜逃げしたまま”のような家でした。

流石に靴などはなかったそうですが、戸棚や机に椅子、果てはテレビや冷蔵庫といった電化製品までそのまま残されており、Sさんたちは仕事がタフなものになるとため息を漏らしました。

写真はイメージです。写真:travelclock/イメージマート

「めんどくせぇなぁ~もう……」

「まあまあ、文句言っても始まらないし。ほら、じゃあ奥の部屋から運び出すぞ!」

「はーい」

先輩の号令と共に始まった運び出し作業。ダンボールや毛布に家財道具を包んでは数人がかりで外のトラックに黙々と詰め込んでいく。

考えないようにして体だけ動かせば、気づけばほとんど運び出せている、Sさんはこの仕事のそんな単純さが好きだったそうですが、その日の作業はそうやって頭を騙したところで終わりの見えない量だったと言います。

「流石に埒が明かないっすよ、これ……」

「確かにこれはもう少し人数増やしたほうがよかったかなぁ……」

大きな本棚を積み込み終わって部屋に戻った時、いつもポジティブな先輩ですらそう愚痴をこぼして作業の流れが一旦途切れてしまいました。

「というか、荷台もパンパンで詰め込めないっすよね、これ」

「そうだねぇ~……どうしたもん――」

すとん。

荷物を運び出してがらんとした部屋にこだましたのは、誰かが勢いよく襖を開けたような音でした。

2階から伝わる“なにかの気配”

「……なんすか、今の?」

「え、2階に人いたんですか、今日?」

「いや……俺たちだけって聞いていたけど」

嫌にはっきりとした“すとん”という音。

「……どうすんすか」

写真はイメージです。写真:moonmoon/イメージマート

「聞かなかったことにして作業するのも、本当に人が居たら失礼になっちゃうしなぁ~。しかたない、僕が見に行――」

先輩が言いかけた矢先、2階からまたしても音が響いてきました。けれど、今回は襖を開けるような音ではなかったのです。

とん……。
とん……ギィ。
とん……ギィ。
とん……。

誰かが階段をゆっくりと降りてくるような音でした。

「え、普通に誰か居るじゃないっすか」

Sさんが少し声をひそめてからかいましたが、先輩は血の気が引いた表情で黙っていたそうです。

とん……。
とん……。
とん……とととっ。

ドンッ!!

突然、ゆっくりと降りてきているように聞こえた足音が足を踏み外したかのように乱れ、玄関前の階段入り口付近で鈍く重たい音に変わりました。

突然の出来事に一同が身をすくめていると、起き上がるような音など一切せず、不意に女性の声でこう聞こえてきたのだそうです。

「人が来ているじゃないのぉ」

バコッ。

まるで声の主が突然台所に移動したかのように、冷蔵庫を開けたような音が響きました。

「お茶とか何か」「出さなきゃならないのにぃ」

「あらぁ」

バタン。

「お客様が」

バコッ。

「来ているのなら」

バタン。

「お茶とか何か」

バコッ。

「出さなきゃならないのにぃ」

バタン。

ガラガラガラッ!!

不意に玄関の引き戸が開く音がしたと思うと、その声の主の気配はプツッと途切れたそうです。

「……だ、誰、今の?」

「俺が知るわけがないだろ……!!」

「い、一旦帰ろう!! ト、トラックの荷物もパンパンだしね!!」

先輩の掛け声で一同は奥の部屋から足早に開けっ放しになっていた玄関の外に出たのですが、仕事仲間の1人だったBさんがモタモタして出てきませんでした。

写真はイメージです。提供:アフロ

「おい、何やってんだ、早くしろ!」

「ない」

「は?」

「俺の靴がない……履いていかれたかもしれない」

Sさんは靴下姿のBさんの肩を掴むと、強引にトラックに乗せてその家を後にしました。

結局、その日の仕事はそのまま終わりになり、Sさんはその日を境にバイトをばっくれたのだそうです。

文=むくろ幽介

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