1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 「長すぎる…」面識のない親族の葬式に突如として駆り出された男が垣間見た“異常すぎる光景”

「長すぎる…」面識のない親族の葬式に突如として駆り出された男が垣間見た“異常すぎる光景”

  • 2026.1.4
写真はイメージです。提供:アフロ

2016年からほぼ毎週欠かさず土曜の深夜に生配信サービス「TwitCasting」で放送されている怪談ネットラジオ「禍話(まがばなし)」。語り手であるかぁなっきさんが語る怪談の数々は、その全貌を探ろうとすればするほど闇に引き込まれていくような恐ろしい魅力に満ちています。

今回はそんな禍話から、実家に帰省した男性が行くことになった“見知らぬ葬儀”に関する不気味なお話をご紹介します――。


「今日な、お前、ちょっと葬式出てくれないか」

写真はイメージです。写真:moonmoon/イメージマート

翌朝。

気持ちよく目覚めて1階のリビングに降りていくと、すでに朝食を終えた父はソファに腰掛け緑茶を飲みながら、老眼鏡の奥で眉間にしわを寄せて新聞を読んでいました。

「随分疲れていたみたいね。朝ごはん食べちゃって」自分たちの食器を片付けながらそう促してくる母。

焼き魚の身をほぐしながらスマホ片手にご飯を食べていると、こちらに背を向けていた父が言いました。

「今日な、お前、ちょっと葬式出てくれないか」

「葬式? 誰の? ご近所さんでも亡くなった?」

「遠い親戚だよ。お前はあまり知らないかもしれないんだけど、昔お世話になってな」

父にその続柄を聞きましたが、自分の家とはかなり遠縁にあたるようでした。

「お前より一回りくらい若い大学生の息子さんがな、朝起きてこなくて布団の中で冷たくなっていたんだと。原因はよくわからないんだけど、突発的なものだったみたいでな」

「あらぁ……それは残念だね。いいけど、俺、喪服なんかないよ」

「それは心配しなくても用意してある」

「あ……そう。準備いいね。いいよ、行くよ。広いから俺の車で行く? お昼くらいに出れば−−」

「一人で行ってくれないか。悪いんだけども」

Hさんの父は、会話を遮るようにしてそう言いました。

葬儀のために親戚の屋敷へ……

『俺だけで行くの?』

なぜかその言葉が出なかったのです。

この時から何かに引っ張られていたかもしれない――Hさんは今でもそう思い返すそうです。

◆◆◆

若者の不慮の死。

誰もが納得できないであろうその現実の重みが、到着した親戚の屋敷には重くのしかかっているようでした。

白い布がかけられた受付に近づいたHさんは、軽く会釈をして香典を渡すと屋敷に足を踏み入れました。

鯨幕が張られた広い座敷。立ち込める焼香の匂い。

写真はイメージです。写真:graphica/イメージマート

名も知らぬ他の親族とともに弔問客席に通されたHさんはそっと座布団に正座しました。

「摩訶般若波羅蜜多心経――」

繰り返される木魚と読経の音。

前に並ぶ家族連れの隙間から遺族席が見えました。そこに座る遺族たちは背中しか見えませんでしたが、とても弱々しい印象でした。

弔問客が遺族に対して向ける悲しげな表情。

それに呆然としながらも会釈を返す遺族の仕草。

小さい頃、お葬式はお寿司が食べられるイベントくらいに思っていたのに、歳を重ねるごとに家族の重みが感じられてしまうようになってしまったことに、Hさんは心の中でため息をもらしました。

こういうのは気分が落ち込むなぁ――そう思ったそうです。

焼香の手が止まった理由

「色即是空 空即是色――」

徐々に近づいてくる焼香の順番。

スッと視界がひらけ、ようやくHさんの焼香の番になりました。

袈裟に身を包んだ僧侶の向こう、供花に彩られた白い棺にふと目がいきました。

棺の蓋が全部開けられ、寝かせられたご遺体の膝が「への字」に折り曲げられ、棺から飛び出していました。

ご遺体に合う棺のサイズを誤注文でもしてしまったのか? だとしても納棺師ならうまいこと収められるのではないのか。なのに、何故あんな見せつけるようにわざわざ……。

無数の疑問が頭を駆け巡り、気づけばHさんの焼香の手は止まっていたといいます。

はたと気がついた彼は、親族から違和感を持たれてはまずいと、手早く香炉に抹香を振りかけて一礼をし、席に戻りました。

違和感の答えを見つけようとぐるぐると考え続けているうちに式は終わり、参列者がおもむろに立ち上がって遺族に声をかけ始めていたそうです。

写真はイメージです。写真:graphica/イメージマート

この場を早く離れようと、Hさんは遺族の元に歩み寄って声をかけました。

「……◯◯家の息子のHと申します。この度はお悔やみ申し上げます」

「ああ、わざわざどうも。今日はお越しいただけないということだったけど、お父様はお元気でいらっしゃる?」

ご遺族の母親と思しき中年女性が、ハンカチで目元をぬぐいながらそう言いました。

「ああ、父はおかげさまで……。今回は急なことで心中お察しいたします」

遺影を見た瞬間息を飲み……

「ありがとうございます。でも、本当に……急だったから……自分たちでもまだ信じられなくて……」

「そうですよね……」

「だからほら――」

その女性は重たい空気を変えようと気を使った様子で、声の調子を変えて言いました。

「遺影も集合写真から抜き出した半端なやつになっちゃったのよ。おかしいわよねぇ」

「あー、そうなんで――」

写真はイメージです。写真:graphica/イメージマート

パッと振り向き、ようやく今になって遺影を見たHさんは、思わず息を飲みました。

遺影の眉から上がトリミングされたように途切れていたのです。

まるで写真をハサミでジョキンと乱雑に切り取ったような異様な遺影。

「ああー、長くなっているんですねー」

「うふふ、そうなんですよぉ」

Hさんはそう返し、車で屋敷を後にしました。

すっかり夕暮れになっていた田舎道を車でぼーっと走らせて家に戻っている最中。ふいに自分の言葉の異常さに気がつきました。

『ああー、長くなっているんですねー』

自分の口から出た意味不明な言葉。

全身が総毛立つのがわかりました。

楽しそうに会話を弾ませる父と母

家に帰ると玄関で両親が待っていました。

「ほら、脱いだ、脱いだ」

言葉を発する前に手早く喪服の上着を脱がしてくる父。

「ご苦労様。どうだった?」

ニコニコと笑顔の母。

「え、いや、あの」

「どうもこうもないわよね! お風呂沸いてるから!」

Hさんはぼーっとしたままその日はすぐに寝てしまったそうです。

昨日の朝と変わらぬ翌朝の食卓。

やたら楽しそうに会話を弾ませる父と母。

鼻の奥にツーンとした違和感を感じたHさんは、席に座る前にティッシュを掴んで鼻をかみました。

鼻血が出たそうです。

それを丸めて台所脇の大きなゴミ箱に捨てようとしたとき、中に昨日着ていった喪服がむき出しのまま捨てられているのが目に入りました。

◆◆◆

Hさんはお昼になって実家を出ました。

しばらく車を走らせていましたが、どうにも我慢できず路肩に車を停めるや、妻に事の顛末をメッセージアプリで送ったそうです。

写真はイメージです。提供:アフロ

慰めて欲しかったのか、それとも一緒になってこの違和感を共有したかったのか。ハッキリとした望みはわかりません。

でも、妻から返ってきたのは、この一言だけでした。

『面倒事を押し付けるのが上手な家だもんね』

文=むくろ幽介

元記事で読む
の記事をもっとみる