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イッセー尾形「遊びの余地のある役は大好き」 55年の活動を支える「誰かを楽しませたい」という思い

  • 2026.1.4
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イッセー尾形 クランクイン! 写真:松林満美

舞台、ドラマ、映画と、ジャンルを問わずさまざまな作品で唯一無二の存在感を放つイッセー尾形。2026年は、BS時代劇『浮浪雲』(NHK BS/毎週日曜18時45分)で主人公が営む問屋場「夢屋」の番頭・欲次郎を軽やかに演じる。このたびクランクイン!では芸歴55年を迎えるイッセー尾形にインタビューを敢行。本作の魅力や、長いキャリアにおいて忘れられない作品などを聞いた。

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◆遊びの余地がある役は大好き

ジョージ秋山の名作漫画を原作にドラマ化した本作の舞台は、幕末の品川宿。女物の着物をまとい、髪をおでこの前で結んだ風変わりな男──その名も「浮浪雲」。ふわふわと雲のようにつかみどころのない風体で日々を気ままに生きながらも、誰よりも深く人を見つめ、いつの間にか人々の運命を優しく動かしてゆく。主人公・雲を佐々木蔵之介が体現するほか、妻・かめを倉科カナが演じる。

1973年から44年にわたり長期連載され、過去には何度か映像化もされた人気作。出演オファーに尾形は「制約がないな」と快諾したという。

「時代劇でカツラだから、自由でいいなと思って。カツラをかぶっちゃえばこっちのもんだ、なんにでも自由になれるんじゃないかと(笑)。身分制度があった時代なので社会的には制約はあるんですが、役者としてはその制約をバネに自分の中でデフォルメしてできるのではないかと思いました」。

演じる欲次郎は、店のことには一切興味を示さずふらふら遊んでその日を暮らす主人の雲に代わり、商売の一切を取り仕切る番頭だ。

「番頭の欲次郎は仕事を仕切らなきゃいけない。でも旦那の雲っていうのは遊んでばかり。そこにギャップがあるからデフォルメできて楽しめる。欲次郎は、自分の下で働いている者たちには威張りくさって命令したりもする。そこの芝居で遊べるんじゃないかと感じました。遊びの余地がある役は大好きなんです。役に遊びがなかったら無理に作るくらい(笑)」。

原作を読んだことはあるそうだが、「原作にいましたか?」と尋ねるくらいに欲次郎というキャラクターの印象はなかった。しかし、「僕の中では原作にない役。こうしなきゃいけないというのがなかったから、逆によかったのかなと思います」と楽しみながら役に臨んだ。

「強い者には負ける、弱い者には強がる。情けないなとはどっかで思ってるんですね、きっと。そういう庶民性みたいなものを出せればいいなと思って。そこを愛するというのかな。それが私の仕事だなと思っています。台本には書かれていない、さまざまなニュアンスの空気があると思うんですけど、それを現場で探す。こっちにいい顔、こっちに辛い顔をする。それをどう裁いているのか。逡巡や迷いはないのか。そうしたものを現場で拾えればいいなと思って演じました」。

◆「今までの時代劇とは違う時代劇」を作ることができた


雲を演じる佐々木とは今回が初共演だ。共演してみての感想を尋ねると「自在っていうのかな」と振り返る。

「勝手に硬いイメージがあったんですけども、ジョージ秋山さんの『浮浪雲』っていうのは着物を着てフラフラした男でしょう。言ってみれば軟体ですよね。佐々木さんも硬くないんですよ。僕が勝手に作ったイメージとの落差にびっくりしましたね。あと、舞い方がきれいです。美として説得力がありました」。

さらに欲次郎とともに厳しくも愛情たっぷりに雲を支える妻・かめを演じる倉科について聞くと、「倉科さんは本当にプロフェッショナル」と絶賛の言葉が。

「かめという役にもちょっとダブるんですけども、とても自分を律しておられました。撮影の合間にも正座をして、この役に身を捧げてましたね。その覚悟たるやすごいものがありました。妻に『カナさんを見習いなさい! ダラダラするんじゃない!』と怒られるくらいでした(笑)」。

真夏に撮影された本作。「40度の暑さ対策とか、日々の目の前のことに追われ、俯瞰して見ることができなかった」と仕上がりに心配もあったというが、出来上がりを見ると、杞憂だった様子。

「(プロデューサーの)佐野(元彦)さんの狙っている、今までの時代劇とは違う時代劇というのがよく分かりました。今までの時代劇だったら、ふらふらしていたのが『実はおまえらより俺は強いんだ』ってなって、みんな驚く。そこで終わりなんですよ。でも本作はそうじゃなくて、ふらふらしていて、またふらふらに戻る。いくら強かったって、僕やかめさんにとってはそれがどうしたってもんで甲斐がないんですよね。現代というもう答えが分かりきっちゃってる時代に、答えがないものをぶつけているような気がします。なぜふらふらしてるのか、なぜ強いのか、そんな謎を残す。現代に答えは出ないっていう問いかけをこの番組でやりたかったんじゃないかと思いますね」。

欲次郎が取り仕切る「夢屋」は今でいうところの宅配便のような仕事が生業だ。

「夢屋には、大阪までの宿場の地図があるんです。籠とかで日本を横断する仕事じゃないですか。でも僕らは横断しないで固定点でずっとあの町にいるでしょう。物語の中に清水次郎長や坂本龍馬、新選組が出てきたりと、自分たちの知らないところで時代はダイナミックに動いている。でも僕たちはやることはずっと同じ。この落差を視聴者の方が俯瞰で見て何か感じるところがあるんじゃないかな。こじつけかもしれないですけど、そう思いますね」。

◆芸歴55周年 74歳を迎え今後挑戦したいことは「若い奴をやりたい」


2026年、尾形は芸歴55周年を迎える。そう伝えると「え! そうなんだ。折り返しですね」と笑顔。

大河ドラマや朝ドラ、最近では『宙わたる教室』などのドラマ、『トニー滝谷』『太陽』といった映画、さらにはライフワークの一人芝居をはじめとする舞台と、さまざまな形で芝居に取り組んできたが、演じるにあたり姿勢に違いはあるのだろうか?

「違いますね。舞台でお客さんが目の前にいると、300人、400人の皆さんを楽しませなくちゃいけないというのがはっきりしている。映像になるとカメラがあるだけで、あとはスタッフがいるだけですから。スタッフを笑わせてやろうという気になりますよね。でも本番はシーンとしてますから分からないんですよ、反応が(笑)」。

姿勢に違いはあれど、ベースとして共通するのは「誰かを楽しませたい」という気持ちだ。作品を選ぶ際にもそうした点を基準にしているという。

「あとは、自分が楽しんでるのか、楽しんでないのかのセンサーもあると思います。やらされているのか、やりたくてやっているのかでまた大きく違う。自分が面白がってるのか、やりたいと思ってやっているのか、それは問いかけるようにしています。結果的にみんながおかしかったと笑ってくれたとしても、でもそれがやらされた立場だったら、あかんのですよ。あくまで自分がエンジンかけないと」。

これだけのキャリアを誇り、「イッセー尾形の代表作とは?」と10人に聞いたら10人が違う作品を挙げるのではないかと思うほど、さまざまな役どころを演じてきた。そんな中で自身の忘れられない作品は何になるのだろう?

「『未解決事件』(2018年/NHK総合)かな。NHKスペシャルで放送された実話を基にしたドキュメントで、1995年に起きた警察庁長官狙撃事件を扱った作品でした。その実録ドラマで、警察の見解ではある宗教団体が犯人だと見ているんだけど、俺が犯人だって言い張っている中村という男を演じました。黒崎博さんというディレクターがまだNHKにいた時に作った番組で、國村隼さんとの共演で。映像を見ると、2人で取調室にいるんですけど、本当に刑事さんと対峙しているようで、ドラマをやっているような空気じゃないんですよね。ほかの作品だと大抵は『ドラマやってます』『役者やってます』みたいなスタンスなのですが、あの作品は、それこそ僕のドキュメンタリーみたいな感じで。その場に僕自身が立ち会っているような、そんな不思議な体験でした」。

2月には74歳を迎える。1月には舞台『チェーホフの奏でる物語』の上演が控えるなど活躍が続くが、これから挑戦してみたいことを尋ねてみた。

「若い人をやらなきゃいけないと思っているんです。若い時からずっとじいさんやばあさんばっかりやってきたので、若いやつをやりたい(笑)。どこが面白いのかっていうのはまだ見つかっていないけれど、それを見つけなきゃいけないというのがこれからの私の仕事ですね。最終的には、人間を面白がりたいというのがあります。人間についてはいろんな本が出ているし、いろんな情報がある。でもそこに絶対に載らないものがあるはずなんですよ。それが自分の演劇なんだと思う。私はそう思っています」。

(取材・文:渡那拳 写真:松林満美)

BS時代劇『浮浪雲』は、NHK BS/BS プレミアム 4Kにて1月4日より毎週日曜18時45分放送<全8回>(※初回のみ19時スタート)。

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